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ノルン  作者: 不知火桜
case2 幽霊退治
20/22

一つ屋根の下で

「おい! 何をしている!?」

 ソファで寝転がり、テレビを見ていた利は目の前に手を腰に当て仁王立ちする秋津を見上げる。

「いきなり、なんだよ? そんな怖い顔をしているとせっかくの美人がもったいないぞ。」

「び、美人?・・・・はっ!?そんなことを言っても無駄だぞ。」

 顔を赤くしながら動揺する秋津に面倒くささを感じながらも体を起こし、利は秋津に向かい直す。

「それでなんだ?」

「なんだではないぞ。そこは私の寝床だ。許可もなしに寝転がるな。」

 秋津はこのソファで寝起きしているのではあるのだが

「許可もなにも・・・・ここは私の家だぞ。そっちはいつになったら出ていくんだ?」

 秋津は自分の家がめちゃくちゃになってから一時的に利の家であるこの部屋に居候していたが、あの事件が終わった今もなおいる。

「仕方ないだろ。前の家はあんなことがあったから追い出されてしまったし、東京の家賃は高い上に空きがない。」

 東京は経済の中心ではあったが、近年、官民の施設や拠点の移転が多く、地価が上昇し続けている。秋津が住んでいた家も都内の中心にありながら家賃は良心的だった。しかし、部屋を事件現場にした上に事故物件となったため家賃を倍にされたことで出ていくことになった。

「どちらにしろ、ここは私の家だ。家主が何をしようと自由だ。わかったらそこを退いてくれ。」

 利は再び寝転がりテレビを見ようとした。

「それでもそこは私の寝床だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 秋津はそう言うと利をひょいと持ち上げ、放り投げた。



 警視庁本庁舎にある特別捜査支援係と書かれた部屋に入った利と秋津は各々のデスクに座った。利は腰を押さえながら苦悶する。

「痛いな~。なにも投げることはないだろ。」

「まだ言うのか。受け身くらい取れるようになれ。」

 秋津は昨日のことを反省しているどころか上から目線である。呆れる利をよそに秋津は本を広げる。その本は仕事に関係あるとかではないのを読んでいる。そのことを利は注意しない。利も今日はなにをしようか考えていた。一応、この部署にも正式な捜査権が与えられ、認められたが、なにか仕事が回されることはなく、いまだに捜査をしていない。人員も利と秋津ともう一人の三人だけだ。するとそのもう一人が現れる。

「おはようございま~す。」

 髪は赤く、ツインテールにした女は呑気に挨拶しながら入ってきた。彼女は山田トキ子。以前は捜査三課で窃盗事件を担当していた。

「あ、何読んでいるのですか?」

 山田はこちらが挨拶を返す前にそそくさと秋津のもとに寄った。

「お、おはよう。これは小説だよ。『ドン・キホーテ』って言う―」

「うわ、なんだか難しそう。」

 山田は秋津の読んでいる本に興味はないようだ。秋津は山田と接するときは困った顔をする。山田のペースが分からないのだろうと利は考える。

「それよりも今日はどこにランチに行きます?」

 もう昼飯の話をする山田に利は苦笑いしつつもあることを思い出し二人に伝える。

「そうだ、今日、追加の人員が一人来る。」

「え?ついに来るんですか?でも、利先輩?仕事のないここに人いりますか?」

 山田は利のことを先輩と呼ぶ。以前、利が捜査一課で山田が捜査三課の前に勤務していた深川署に事件の捜査をしに来た時、一時、一緒に行動していたことがあり、それ以来、山田は先輩と呼ぶようになった。

「おいおい、これでようやくチームができるから仕事が入るようになるぞ。」

「え~」

 彼女は本当に警察官なのだろうか。とついつい疑問を抱いてしまう。すると、ドアがノックされる。どうやら来たようだ。

「失礼します。」

 入ってきた男は髪が短く、格好はジャージだ。秋津はミリタリファッションで山田はカジュアルスーツ、それにジャージときたか。スーツをしっかり着込んでいるのは利だけだ。男はそんなことを考えている利に敬礼する。

「本日付けで配属となりました。上条克己かみじょう かつき巡査長です。以前は練馬署の生活安全課少年係にいました。よろしくお願いします。」

 真剣な眼差しから真面目さが伝わる。

「私はここの主任である利駆琉警部だ。」

「秋津凛だ。階級は警部補だ。」

「山田トキ子巡査長です。私にはタメでいいよ。」

 各々が簡単な自己紹介をして、利は指を指し、彼に与えるデスクを教える。

「利警部。私はなにをすれば良いのでしょうか?」

「あー、待機でいいぞ。」

「へ?」

 利の指示に思わず、変な声がでてしまう上条に利は誤解のないように補足する。

「この部署はようやくちゃんと稼働し始めたばかりだからまだ事件を抱えていないんだ。」

「そうなんですね・・・・・・・」

 明らかに落ち込む上条。何かを期待して来てくれたようで利はなんだか申し訳ない気持ちになってしまった。なにか声をかけてみようと思っていたところ備え付けの電話が鳴る。利は受話器をとり、応答する。

「はい、利です。」

 利は電話越しに相槌をうっている。周りはそれをじっと見ていた。すると利は当然、驚きの声を上げる。

「は!?」

 利の声にみんなが注目する。電話を切った利は注目したままの全員に告げる。

「えーと、全員、仕事だ。・・・・お化けを逮捕しに行くぞ。」




 利たちは墨田区某所にあるアパートの前に着く。アパートは三階建てで現場は三階の一番奥の部屋のようだ。ここにはエレベーターがないため階段で上がる。部屋の手前には規制線があり、制服警官が立っている。利は警察手帳をその警官に見せ通る。

「すみません。警部、後ろの方もご一緒ですか?」

 警官は秋津たちが本当に刑事かどうか自信がないみたいだ。

「ああ、一応、デカだ。」

それを聞いた警官は規制線をすぐに上げる。秋津はムスッとした顔をで手帳を取り出し、警官に見せつける。

「し、失礼いたしました!」

 警官は警部補という文字に冷や汗が止まらないようだ。見せつけた秋津は何も言わず、通り過ぎる。その後ろを山田も手帳を見せつけながらついていく。上条は取り出しはしなかったが、苦笑いしながら通った。

 無駄な一悶着をしてから事件現場である部屋に入る。中には所轄の刑事がいた。強面で目の下にクマがあるみたいだが、疲れている雰囲気を出していない。こちらに気づいた男は近づいてくる。

「どうも、向島署の島田だ。」

「特別捜査支援係の利だ。早速だが、事件について聞かせてくれ。」

 軽く挨拶をした利は本題に入る。所轄の男は持っていたメモに目を落とし説明を始める。

「被害者はこの部屋に住む大学生。名前は晴林筑はればやし つく、男性。通報者は本人、駆け付けた警察官が部屋で倒れている被害者を発見した。場所はちょうど、そこだ。」

 そう言って指をさした場所は利たちが立っているところで玄関からリビングまでの台所と一緒になっている廊下のようだ。

「発見時、被害者に意識があり複数の殴られた痕があった。ただ、意識は朦朧としていた。救急隊によって運ばれるまでの間に警官に怯えながら訴えていたそうだ。『あいつにやられた。怨霊だ。』と。まあ意識が朦朧としていたため信用性のある証言であると思えないのだが・・・・」

 所轄の男は一呼吸置いて話を続ける。

「警官が駆け付けた際、ドアに鍵とチェーンがかかっており、大家のマスターキーとペンチでしか開けられなかった。窓も鍵がかけられており、密室であった。加えてこのアパートには各階の階段に部屋の奥までが映る監視カメラがあったのだが、被害者が帰宅してから通報で駆け付けた警察官が来るまで誰も映っていなかった。他のカメラにも不審な人物はいなかった。」

 たしかに不思議だな。ただ、それだけでどうして幽霊に結びつくのか疑問に思っていた利だが、その後の話で納得することになる。

「実はこの部屋は事故物件で若い女性が自殺している。」

「なるほど、たしかに犯人は幽霊かもな。」

 利は面白半分で言うが、秋津は胡散臭そうに利を見る。山田の方はなぜか挙動がおかしく、上条は真面目な顔をして頷いている。三者三様の反応だ。なににしろ、被害者がいる以上、捜査をしないわけにはいかない。そこで利は手分けすることにした。

「とにかく、幸いなことに被害者が生きているから私と凛は事情聴取をしてくる。山田と上条は、この部屋を隅から隅まで見るんだ。鑑識が粗方見ているとは思うが、なにか手掛かりがあるかもしれない。そのあとは周辺の聞き込みだ。」

 山田と上条は利に頷き、指示が伝わったことを確認した利は所轄の男の方を向く。

「被害者の搬送先を教えてくれ。」


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