止められない悲劇
外には多くのパトカーや消防車、救急車があり、各々が慌ただしく動いていた。拘束された組員は大型護送車に乗せられている。大体は制圧をしているようだった。警察の指揮車両の横に新條課長がいるのを見つけ、声をかける。
「これはなんの騒ぎだったんですか?」
「その前に言うことがあるだろう。・・・・まあいい、逮捕した組員から聞くとどうやら単身で男が攻め入ったと。サブマシンガンで組員を虐殺したらしい。監視カメラを今確認中だ。」
「そうですか。ちなみに自分が撃った奴は死んでませんよ。」
利は秋津のところに辿り着く前に鉢合わせた組員と撃ち合いになったが無力化しただけでおそらく死んでいない。ついでに城島について報告しようとしたが先に秋津が口を開く。
「若頭の城島は私が射殺しました。」
「わかった。あとで報告書の提出をお願いする。出向元(防衛省)と協議するが、大丈夫だろう。」
新條はそれだけで済ませた。秋津は今、特殊な立場にある。それは抜きとして、あの発砲は正当防衛の範疇だ。それに新條課長が大丈夫だと言ったのはおそらく以前の襲撃事件でも被疑者を射殺している件が穏便に済んでいるからだろう。
「ただ、二人とも独断行動をしていたのは頂けないな。反省しろ。」
利が久しぶりに叱責されたなと思っていたところ、捜査員がパソコンを持って駆け寄ってくる。
「課長、カメラに犯人の姿がしっかり映っていました。」
目のまえの折り畳みテーブルにパソコンが置かれ、映像が再生される。映像には男がサブマシンガンを無防備な組員に乱射していた。カメラはその男の顔をしっかり捉えていた。映像はその数秒間で再生が終わった。
「嘘だ。」
先に声を出したのは秋津だ。
「知り合いか?」
秋津の反応を見て新條が問う。この顔は利も知っていた。
「粋川直斗 私と亡くなった穂香が知る人物だ。 テレビ局の記者をしている。」
秋津は声を震わせながら言った。それを聞いた新條は部下に手配の指示を出していた。混乱している秋津に利は言った。
「凛、気持ちはわかるが、今はやることがある。体張って捜査しに来たんだろ。」
その言葉を聞いて秋津ははっとした。
「そうだったな。だが、こんな状態で証拠が残っているのか?」
「たしかに見ての通り燃えているが、一つだけ無事なのがあるだろ。」
秋津はようやく気が付いた。私たちがさっきまでいた建物は無事であると、そして若頭の城島があそこにいたのはもしかしたらなにかあるのかもしれない。
それから建物を捜索すると事務所らしき部屋を見つけ物色をしていた。しばらく書類等を漁っていると利が資料を見つけた。
「あったぞ。佐藤の取引記録だ。」
口座記録は外銀のと同じで間違いない。他にもご丁寧にいつ、どれくらいの量の薬物を受け取り、上り(利益)のいくらを徴収していたかがしっかりと書かれていた。記録の始まりは二年前、幹部であった城島が連れてきたとある。
「こっちだ。私も別のやつを見つけた。」
秋津もどうやら見つけたようだ。その資料は日報のようだった。佐藤穂香についても書かれている。佐藤が金庫から金を盗んだとある。日付は、佐藤がいなくなった綾小路の家に行った日と同じだ。
「駆琉、まだ綾小路を放置しておくのか?」
「放置はしていない。実はお前がいなくなる直前に調べさせておいたことがあってな。佐藤が綾小路の部屋で死亡したと仮定して遺体は各階に設置してあるダストシューターを使って下の駐車場に落としたのではと考えたんだ。」
秋津に推理の説明をしているとき人が部屋に入ってきた。捜査一課の捜査員だ。
「課長に言われて重要参考人のマンションの件を報告しにきたぞ。」
ちょうどいいタイミングで来てくれたものだ。
「ゴミ出し用のダクトだが、被害者の血痕が見つかったおそらく落とされたときにできた傷からだと思われる。それと地下の防犯カメラだが、なぜか記録はなかった。だが、付近にあったNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)に重要参考人のうちの男が運転しているのが映っていた。 今から裁判所に令状を発行してもらい、全員まとめて連行する。」
「ありがとう。それと粋川の所在はわかったか?」
「いや、まだだ。自宅にも職場にもいない。緊配(緊急配備)がかかっているからそのうち見つかるだろ。」
捜査員はそう言うと立ち去って行った。秋津は浮かない顔をしている。こうも立て続けに友人絡みの事件がおきれば何も信じられなくなるだろう。すると電話のコール音が鳴り響く。音の主は秋津の携帯のようだ。秋津は携帯をみると驚きの表情をし告げた。
「粋川からだ。」
秋津は一人公園にいた。通っていた高校からそう遠く離れていない。粋川にはここで会いたいと連絡があった。公園には一人だが、付近には利や武装した警官隊がいる。もう日が昇り通勤通学の時間帯になっている。するとまた電話がかかる。
『ごめんね公園に呼び出して』
『私はもういるぞ。今どこにいる?』
『あーそれなんだけど、そこにしばらく居てもらえる? 悪いけど今日の卒業生談話には行かないで欲しい。』
『卒業生談話? なんだそれは?』
『あれ? 卒業生が高校で生徒に話をするんじゃないの? そうか、勘違いだったのか。』
どうやら、私が今日、それに出席すると思っていたらしい。だが、それとなんの関係があるのかと疑問に思っていたところ電話先でジッパーを開ける音がした。
『佐藤さん、殺されたんだって』
『え?』
なぜ、そのことを知っているのか。
『綾小路たちが殺したんだよ。薬で意識を失わせて口にすることも憚られるようなことを佐藤さんにしたんだよ。』
『それはどこから聞いたんだ? なあ、どこにいるんだ? 会って話をしよう——』
『少し、黙っててくれ‼』
今まで聞いたことのないような声を聴いて秋津は思わず黙ってしまった。
『ごめんね。時間がないから話を聞いてくれ。 綾小路たちは人間の皮を被った化け物だよ。権力を振りかざして弱者を踏み潰す。僕もあの人に教えてもらわなかったら、おっと・・・』
粋川はなにかに手こずっているようだ。同時にカチャカチャとなにかを扱っている。この音は知っている。候補生時代から訓練でも戦場でもその前にしている銃を組み立てるときの音だ。それとは別にチャイムの音も聞こえる。粋川がいるのは高校だ。
『わかったからそこにいるんだぞ!じっとしておけ!』
走って利のもとに向かう。この会話は全部、利に聞こえている。
『時間だ。こっちに来ないでね。』
『ま、待て!』
だが、電話は切られてしまった。利がエンジンをかけ待機していた車に乗り込む。
「駆琉! 高校だ!」
「わかってる!下を噛むなよ」
利はアクセルをベタ踏みし、すぐに車を走らせる。利は運転をしながら、片手で無線を握る。
「至急!至急! 特警4から警視庁! 警戒態勢を引く公園付近の高校内で手配中の男が銃を持っている可能性あり、応援を要請する。」
『警視庁了解。 至急―至急―警視庁から各局。立川PS(警察署)管内、銃器関連事案発生。整理番号一一〇番、容疑者は未明に発生した廃工場での———』
無線からは各所に連絡する声などが交差している。
「高校には綾小路らを張っている捜査員がいる。すぐ取り押さえられる。」
しばらくして高校に着いた。現場に臨場した利は違和感を感じた。
「おかしい。見張りの捜査員から連絡がない。」
それと同時に銃声が鳴り響き、悲鳴が聞こえる。すぐに校舎の中に入ると生徒はパニックになって我先に外へと逃げ出している。
「凛!二手に分かれるぞ。」
数刻前
校舎の中に入り歩いていた粋川はばったりと取り巻きの一人で元野球部の一ノ瀬に会った。やつは私を見て目を白黒させている。数発撃った。やつはなにが起きたかわからないで倒れただろう。その先にはバスケ部のエースだった結城がいた奴はすぐに近くの教室に逃げ込んだ。僕はその教室に入ると銃声で混乱していた生徒や教師もいた。僕は銃口を結城に向ける。
「佐藤さんになにか言うことは?」
「佐藤? お、お前、なんで・・・・・わかった、わ、悪かっただからそれを—」
僕は奴がしゃべっている途中で撃った。鮮血が散る。それと同時に悲鳴が上がる。生徒はパニックになって我先にと外へ逃げる。さて次を見つけるか。教室を出てひとつずつ教室を確認する。音楽室を開けると綾小路と涼風が二人ともいた。運がいいな。二人が完全におびえ座り込んで逃げなかったおかげで簡単に見つけられた。
「助けて、助けて」
僕は引き金をひいた。直前で綾小路が涼風を盾にしたため綾小路は涼風のはじけ飛んだ頭の血肉を顔に目一杯にくらった。綾小路は恐怖で声を上げた。他の三人はなんだか簡単に殺しすぎたな。僕は綾小路の髪の毛を掴み引き上げる。
「佐藤さんになんであんなことをしたの?」
僕が質問しているのにこの女はぶつぶつと言うだけ。もういいや殺そう。すると誰かが教室に入ってきた。
「粋川‼」
入ってきたのは秋津さんだ。
「なんで、あそこに居てって言ったのに」
「粋川、それを捨て彼女を解放するんだ。」
彼女はそう言うと彼女に似つかわしくないモノを僕に向ける。
「なんでそんなのを持ってるの?」
彼女は問いには答えず、一言言った。
「投降しろ」
銃声の鳴る方へと向かう。おそらくこの音楽室だろう。入ると粋川が綾小路の髪を掴んで今にも殺しそうだった。
「粋川‼」
彼はこっちを向く。だれかわからないがすでに一人殺されている。
「なんで、あそこに居てって言ったのに」
「粋川、それを捨て彼女を解放するんだ。」
「なんでそんなのを持ってるの?」
私は銃を構えながら警告する。
「投降しろ」
私は彼に銃を向ける。初めて銃を持って撃ったとき、初めての実戦で人を殺したときよりも銃をひどく重たく感じた。訓練でも敵を生死問わない制圧しかやったことない。
「ねえ、助けてよ。早く・・・」
綾小路が涙や血でぐちゃぐちゃになった顔をこっちに向けている。
「なによ。早く助けなさいよ! 早く‼」
「うるさい黙れ‼」
粋川は綾小路に銃口を向け怒鳴りつける。相手を刺激してはいけない。
「この女は佐藤さんを弄んで‼ ゴミみたいに捨てたんだ‼」
「はは、ははははははっ なに?あの女に惚れてたわけ? あの女は私たちにクスリ売りつけて金を巻き上げていたのよ‼」
ばかなのか。さらに刺激してどうする。
「だから、あいつを家に呼びつけてあの男のアドバイス通りクスリをこっそり混ぜたのよ。そしたら一瞬でラりちゃって 滑稽だったわ。せっかくだから男たちを焚きつけてやったわ。そしたらあの女———」
「黙れ黙れ黙れ‼」
まずい、このままだと殺されてしまう。手を撃つか。いやこの位置だと彼女にも当たる。くそ、頭を狙うしかないのか。
「もういい、死ね。」
銃声が鳴り響いた。倒れたのは粋川だった。撃ったのは私ではない。音のした方を見ると利がもう一つの入り口から銃を構えながら倒れた粋川に近づく。綾小路は這いずりながら私の足元に擦り寄る。
「被疑者の死亡を確認。」
利の言葉はひどく冷静に聞こえた。
あれから丸一日が経った。ニュースでは高校のことが大きく取り上げられた。被疑者は射殺、被害者は三名。生存者である綾小路はストレス性神経障害でまともに会話ができない。世間では粋川がいじめられていて復讐されたと言われている。加えて被害者の親から職業までが特定され、どこから漏れたか分からないが薬物パーティーのことも拡散された。秋津は事件の聴取を受けていた。形式的なやり取りやいくつかの質問に受け答えるだけで済んだ。
「では、以上となります。お疲れ様でした。」
監察官に解放され、部屋を出ると先に聴取を受けていた利が待っていた。
「お疲れ様。」
「駆琉、私は誰も助けられなかった。」
穂香も粋川もいない。誰かを失いたくなくて必死だったのに
「でもお前は頑張った。最善を尽くした。私はお前を認めているぞ。」
利は秋津の頭をなでる。
「それにお前は誰も救えなかったわけじゃないぞ。私はお前にあの日の夜に助けられたじゃないか。」
秋津は黙ったまま顔を利の体に埋める。
「しばらくこのままでいいか?」
利は無言で受け入れた。
「だが、あれだな、端からみれば逢引してるみたいだな。」
「黙れ、馬鹿。」




