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ノルン  作者: 不知火桜
case1 探し人
16/22

騒がしい夜

 秋津は利の元を離れた。利には迷惑をかけてしまった。だが、私のこれからの行動に彼を付き合わせるわけにはいかない。正直、彼の手助けなしになにかできるとは思えない。かといって戦略室の手を借りることはできない。どうしたものか。いや、ひとつあった。あまり使いたくない手だが、

 目的の場所に着いた秋津はドアを開けた。ここには一度だけ来たことがある。利が使っていた情報屋のライブ施設。ドアを開けると以前とは違い静かだった。誰もいないと思ったが奥から人が出てきた。例の情報屋だ。

「おや? この前のお嬢さんじゃないですか。」

 この胡散臭い男の手を借りたくはないがわがままを言ってられない。

「関王会に乗り込みたい。できれば、穏便に。 お前ならそれはできるか?」

 情報屋の男は驚いた眼をしていたが、すぐに笑顔になった。

「利警部捕がいないということはそれなりの事情があるということですね。お手伝いしてもいいですけど、リスクに見合った報酬があればいいんですけどね。」

 なるほど、そういうことか。ただ、今、大金はない。高価なものは軍でもらった純金のプレート。

「これしかないが」

 私が差し出したものにこの男は目を輝かせた。

「いやー(きん)は値段があがり続けているからね」

 私の手からそれを取ってにこにこしていた。

「契約成立ですね。」


 煌びやかに光るネオン。この地区は夜に活気付く。ここは歓楽街であるため、様々な人々が日常を忘れ、楽しんでいる。秋津にとっては怠惰の塊にしか見えない。だが、そんな秋津も他から見れば変わりはない。今の彼女の姿はいつもとは違い、露出の多い派手な衣装をしている。ここまで裾の短いのは初めてだ。こんなの下が見えてしまうのではないか。加えてこの年でこんな格好をしていることに秋津は羞恥してしまう。だが秋津の顔は若く見え、さらにスタイルも維持されている。同窓会の時もそうだったが、小柄で普段はスーツを着ているから分からないがかなり恵まれた体をしている。そのため目的地に着くまでに何回か声をかけられていた。

 目的の場所であるクラブにはそれなりの列ができており、入り口には屈強そうな男が立っている。ここのクラブは情報屋の男曰く、関王会のシマらしい。そして、ここには若頭がよく遊びに来るということだ。私は列の横を通り、入り口に向かった。

「すみませんが、列にお並びください。」

 セキュリティに止められたが、情報屋が用意してくれたVIPのカードを見せるとすんなり入れてくれた。中に入ると音楽がガンガンと鳴り響く。中では若い男女が体をくねくねとさせている。私は嫌悪感を抱きつつ、バーカウンターに座った。例の若頭はここのオーナーもやっているらしいが、外見はわからない。

「お姉さん、暇?」

 男が私の横に座りながら、声をかけてくる。

「ここのオーナーの城島という方とお知り合いになりたくて来た。とてもハンサムな方だと聞いてな。」

 男はそれを聞いてけらけらと笑った。

「城島とは仲がいいんだ。良かったら会わせてやろうか。その代わり、俺とも遊んでくれよ。」

「いいのか⁉」

私はこの男の話に嬉しそうにしながら乗った。それから男はクラブの裏側へと私を連れて行った。先ほどまでの騒音が嘘みたいに聞こえなくなっていった。やがて一つの扉の前に着き、ドアを開けると中はオフィスのようになっていた。男はそのまま中に入り、中央にある大きな机の椅子を引き、座った。

「で? 俺になんのようだ?」

 私は薄々、正体に気づいていた。そして、彼も私の正体に気づいている。

「それはお前を拘束してから聞かせてやろう。」

 城島は私の言葉を鼻で笑った。それと同時に男二人が入ってきた。だが、私は隠し持っていたナイフを抜き、素早く男たちの手を切った。切られた二人の男は手を抑えながら、手にあった銃を落とした。だが、直後に鈍い感触が私の腹を襲った。城島の手には銃があった。

「安心しろ、ゴム弾だ。死にはしない。お前の目的はじっくり聞かせてもらう。 おい、早く誰か呼んでこいつを運べ。」

 私の意識はそこで途絶えた。


 裏口から男二人がなにかを運び出していた。それから複数人が車に乗り、走らせた。途中、車を変えて追跡を気にしていることがわかる。最終的に車は工場の敷地内に入っていった。工場は使われていないように見える。

「だから、慎重にと言ったんだ。」

 すべてを見ていた利は悪態をつく。すでに新條課長には報告をしており、捜一が仕切って突入部隊を編成しているが、到着も含めあと一時間はかかる。

 しばらく時間が経つと向こう側が騒がしくなった。煙のようなものも見える。その直後、爆発が起きた。それと同時に銃声も聞こえる。私はすぐに電話を掛ける。

「工場で爆発が起きた。銃声も聞こえる! 突入の許可を!」

「現在、SAT(サット)が向かっている。それまで待て。」

 そう言って新條課長には電話を切られてしまった。機動隊の銃器対策部隊やSITではなく、SAT(特殊急襲部隊)がくるということは上はかなり大事に捉えているな。日本警察組織の中でも最強の実力部隊であるSATは国内のテロ鎮圧を主任務に置いている。ヤクザ相手にそこがでてくるということは防衛省の案件がバレたかお客様が攫われたからなのか。どちらにしろ、あいつの身に危険が迫っている。装備は、自前の拳銃と秋津が置いて行った拳銃が合わせて二丁と予備のマガジンが複数。さすがに二丁同時に使えるわけはない。正面を突破するには少し物足りないな。ということで車のトランクに置いてあるものを持って走る。

 正面では手下があたふたしている。私はそこに消火器を投げ込む。

「なんだこれ?」

 私は投げ込んだ消火器を撃った。消火器は穴が空いた瞬間に爆発をした。奴らが混乱している間に中に走りこむ。建物の中に入り、秋津を探して中を回ってみるが、見つからない。さっきから聞こえる銃声はここではない。

「おい!お前は誰だ?」

 まずい、見つかってしまった。


 少し前

 秋津は部屋に監禁されていた。部屋には秋津が縛られている椅子とドアの横に大きな棚があるだけで人はいない。秋津は目覚めてから周りを確認した。それから自分が縛られている状態も確認した。

「舐められたものだな。」

 紐は後ろで両手と両足は椅子の支柱に縛られていた。常人なら解けないが、この手の脱出は訓練でしていた。案の定、すぐに解けた。これからどうしようかと考えた瞬間に外で爆発が起きた。そのあとに銃声も聞こえる。警察が突入してきたのかと考えたが、様子がおかしい。するとドアに人が近づくのを感じた。

「こいつをさっさと始末するぞ。——な⁉いない⁉」

 私は入ってきた男を潜んでいた棚の上から襲い、気絶させる。

「お、お前⁉」

 次に入ってきた男も一瞬で制圧する。気絶させた男たちの手持ちを探ってみたが、ナイフ一つしか出てこない。私はそれを持って部屋を出る。出口を探して走り回っていると広い空間に出てきた。そこには多くの植物のようなものが栽培されていた。ここが生産地って言うわけか。

「まったく、ほかの工場は燃やされて手下も殺されて。全部、お前の仕業か? 一人でめちゃくちゃにしやがって」

 奥から城島が出てきてそうぼやく。この騒動を一人で?まさか、利が来たのか。いや、あの男がこんなことをするわけがない。考えていると銃声がした。私はすぐに遮蔽物に隠れた。城島は自動小銃をこちらに向けている。

「責任取って死ねよ」

 私は作戦を考えていたが城島はすぐにこちらが射線に入る位置に移動し発砲する。秋津は位置を変えるがやつもそれに合わせ動く。素人の動きではない。

「俺は元帝国陸軍の第二一二空挺師団だ。こんなスキルは一般社会じゃ通じないがここでは使える。退役軍人は社会に復帰することなんてできないからしょぼい年金で生活するしかない。でもどうだ?なにもなかった俺がこうやって持てる者になった。」

 第二一二空挺師団は軍のなかでもエリートを集めた部隊だ。そんな奴が相手だとは少し厄介だ。

「なあ? お前も同じだろ? 元軍人同士仲良くしようぜ。」

 このままでは防戦どころか追い詰められて終わりだ。最悪なことに次に動けば間違いなく撃たれる位置まで来てしまった。隠れながら動くことができない。

「終わりだな。」

 城島は私を視界に捉え、その銃口を向けようとしたとき声が響く。

「凛‼」

 それと同時に足元に銃が滑り込んでくる。利が反対側から投げてくれた。城島はそっちに向けて発砲したが、利はすでに遮蔽物に隠れていた。私はその隙を見逃さなった。銃を手にして素早く三発、城島の胴体に叩き込んだ。やつは銃を落とし仰向けになるように倒れた。

「大丈夫か?」

 利はすぐに駆け寄ってくる。

「ごふっ 戦場じゃなくここで死ぬとはな。・・・・・仲間はみんな海の向こうで死んだのにな。」

 城島はまだ生きていた。だが、傷は致命傷であり、そう長くはもたない。私と利はそんな城島を見下ろしていた。

「お前の散った戦友はさぞ悲しんでいるだろうな」

 城島は苦しみながら笑っていた。

「ついでに戦友に伝えておけ。お前を終わらせたのは同じ、日本帝国陸軍元特殊作戦団本隊付き第十三小隊所属の秋津凛中尉であると。」

 城島はそれを聞くと息を引き取った。利はそんな城島を見ながら言った。

「色々と聞きたかったが、これは仕方がないな。」

「ああ、だが、もしかしたらこの男も踊らされていた一人だったかもしれないな。」

秋津にとって所属は違えど同じ仲間に何か感じるものがあったのだろう。外からサイレンの音がする。ようやく、応援が来たようだ。

「なぜ?ここがわかった?」

 秋津の疑問に対して利は答える。

「あの地下ドルの女の子からお前が一人で来たって連絡があってな。あの男を問い詰めたらポロっと明かしてな。」

「そうだったのか」

 単純なネタ晴らしであった。そして秋津は続けて問いかける。

「それより、この騒ぎはなんだ? お前の仕業か?」

「まさか、私もなんだかわからない。外で合流した方がいいな。今頃、SATが制圧しているみたいだからな。」

 先ほどとは違い。銃声も散発的になっている。組織的な制圧の前では成すすべもないだろう。

「では、行こう。|駆琉。」

「ふーん 駆琉ね。」

「なんだ?」

「いやいや、凛。」

 そう言って、秋津は気が付いたようだった。

「さっき、ナチュラルに呼び捨てしていただろ。 それに私たちは相棒だろ? 特別に下の名前で呼ぶのを許そう。」

「なら、私も駆琉でいい。」

 秋津は微笑み、どこか上機嫌そうにしていた。


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