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ノルン  作者: 不知火桜
case1 探し人
15/22

再会と後悔

 朝起きた利はいつも通り、朝食の準備をする。最近、居候(秋津)のせいでご飯を作っている。初日はさすがにパック飯だったがそれからはちゃんと炊いている。みそ汁は即席のものを使うからすぐに朝食の準備ができる。寝室から出るとすぐリビングがあり、キッチンも見えるのだが、すでにキッチンには人が立っていた。

「少し、借りているぞ。」

 利の家に居候する秋津は私をみてそう言うと再び作業をする。利が覗き込むと小さい鍋をかき回しながら言う。

「いつも朝食を用意してもらっているからな。みそ汁と巻き卵を作ったんだ。簡単なものだが、これからは私が用意しよう。お礼も一つだと思ってくれ。」

 横を見るとすでにきれいな卵焼きができていた。秋津は最初会ったときとは違い、少しずつ柔らかくなってきている気がする。友人の大きな手掛かりをみつけて調子を取り戻してきたのだろう。

 秋津の作った料理を並べ、一緒に食事をする。

『海上移動要塞の建造についての審議は滞っており、政府内でも計画に疑問視する者も多いようです。ある財務省官僚は計画へのコストと将来での運用の実用性は合わないという意見もあり、計画の発案者である神結氏は平和の恒久的持続を主張し、周辺地域の安全保障の重要な役割について説明を行っているようです。』

 利はニュースを聞いていたが、あまり内容は入ってこなかった。それよりもどうやって佐藤穂香の隠し口座を閲覧することができるか考えていた。朝食を終え、秋津と今日の動きを決めようとしたとき、電話が鳴る。呼び出し名は新條課長と書いてある。利は電話にでて内容を聞き、電話を切った。秋津は私の方をみている。そんな秋津に仕事の話をする。

「郊外の山地で変死体が発見された。顔識別の結果、佐藤穂香の可能性があるということだ。遺体はすでに回収されているためこれから安置所に行って確認を行う。」


 遺体が安置されている警察署に着き、遺体のある部屋に入る。中には新條課長がいた。彼は一言、遺体の確認を求めてきた。すぐそばにある遺体袋を開け、秋津が確認する。

「佐藤穂香だ。」

 秋津は声を震わせながら言った。

「いちおう指紋の照合も行う。これから被害者の説明に入るが、大丈夫か?」

 新條課長は秋津を心配して問いかける。だが、秋津は問題ないと言った。

「そうか。では説明する。第一発見者は山菜をとりに山に入ったところ遺体を発見した。通報は〇六〇〇時。救急隊が駆け付けたが、その場で死亡が確認された。今のところ目撃者はなし。発見時は身に着けているものはなにもなく、周辺に遺留品らしきものはなかった。検死の結果、死後から一か月が経過してあった。死因は急性薬物中毒。膣内から複数のDNAが検出された。外傷は複数個所に打撲と擦り傷があったが防衛痕ではなく転んだような付き方らしい。その他に外傷はなく縛られた痕もないためレイプの可能性は低い。」

 新條課長は淡々と話を続け、秋津は黙ってそれを聞いた。説明が終わると新條課長はでていった。沈黙が流れ、私がかける言葉を探していると彼女は何も言わず外に出て行った。私はすぐに後を追った。

「おい、どこに行く気だ?」

 秋津は歩くのをやめずに私の問いに答える。

「銀行だ。行方不明事件ではなく、殺人事件だ。これなら銀行も協力するだろ。」

 たしかにこれなら、捜査を進められるが、彼女の精神状態でまともに動けるのか。

「待て、銀行に直接行かなくても情報は送ってもらえる。それにお前にはやることがあるだろ。」

 秋津はそれを聞いてようやく足を止める。

「やること?」

 秋津はわかっていないようなので教えてあげる。

「お前は佐藤穂香の友人だろ。検死も終わったから母親が引き取りに来る。そしたら葬式しないといけない。見送りに友人がいなくてどうする。」

 秋津は理解したようだが、顔の表情は変わらない。とりあえず、秋津に落ち着く時間を与えられた。


 それから私たちは警察署にきた佐藤穂香の母親とともに再度、遺体の確認を行った。娘の亡骸を見てしばらく泣き崩れていた。その日はそのまま秋津は佐藤の母親に付き、通夜を行った後も付いていた。その日は利だけ家に帰った。秋津はずっと謝っていたが、佐藤の母親はそんな秋津を逆に慰めていた。

次の日に葬儀が行われた。会場に着き秋津と合流したが、彼女の顔はひどく暗いままだ。会場には佐藤の親族が集まっていた。佐藤穂香の死はニュースになっていない。私が極秘捜査の関係者ということを理由に警視庁の方で報道規制をかけさせた。参列者は全員、事故死だと聞かされている。参列者は親族だけではない。秋津は参列者の中からある人物を見つけ、憎悪に満ちた表情をした。そこにいたのは佐藤と最近まで接触があったと思われる綾小路だ。彼女は秋津に気づき近づいてくる。

「ポーカーフェイスだ。自分たちが反応をみせれば警戒される。我慢だ。」

 私は秋津に一言言い、いちおう離れておく。それから秋津はすぐに表情を変え、応対する。

「秋津さん、こんな形ですぐ会うことになるなんて残念だわ。佐藤さん、いい人だったのにこんなに若くして死ぬなんて」

 そういって彼女はすすり泣く。秋津は感情をうまく隠しながら答える。

「あまりにも突然なことでショックを受けている。まさか、最近、会っていない穂香の葬式に来てくれるとは驚いた。」

 いちおう、忠告はしておいたのに仕掛けたな。だが、自然な探りだ。

「ええ、しばらく会っていなかったけど、話を聞いて居ても立ってもいられなくて。じゃあ、佐藤さんに会ってくるわ。」

 綾小路は秋津の問いに答えると佐藤が眠る棺桶へと向かった。その姿は高校の同級生の死を聞いてやってきた心優しい人のようだ。だが、刑事の目から見ると怪しい。秋津の問いにほんのわずかに動揺していたのを感じ取れた。その後、葬儀が終わり火葬場へと運ぶまでに少し時間ができた。その間に私も以前、見たことある人物が秋津のところにやってきた。

「秋津さん。まさか、またすぐに会うなんて。佐藤さんともこんな形で会うとは思ってもみなかったよ。」

 たしか、名前は粋川直斗。今のところ、秋津の次に佐藤穂香に近かった人物だ。もしかしたら、まだ情報を持っているかもしれないが、今日はよしておこう。彼も秋津と同じく、ひどくつらい顔をしている。しばらく、二人は会話をしていた。お互い、心の傷でも慰めているかのような感じだ。それから棺が担ぎ出される直前、老男がやってきた。佐藤穂香の母親に何かを言い、棺に手を合わせた。遅れてやってきた親族の方だろうか。しかし、秋津はその男が誰か知っているようだった。棺が送り出された後、私たちのところに先ほどの男がやってきた。

「秋津さん。久しぶりだね。元気にしていたかい?」

 老男はとてもやさしく丁寧な口調でしゃべる。秋津の方は柔らかい笑みを浮かべながら応対していた。この男は秋津とも知り合いということは。と考えていたところ、老男はこっちを向いた。

「横の方は誰かね? 秋津さんの旦那さんかな?」

 さっきの二人のときは少し離れていたが、二人が帰ったのを確認してから隣に立っていたので私について尋ねられてしまった。私が名乗る前に秋津によって紹介される。

「違います。これ(・・)は仕事仲間です。色々と手伝ってもらうために一緒にいるだけです。」

 秋津に雑に紹介されてしまった。続いて秋津はようやく老男の紹介をしてくれた。

「こちらの方は高校の友人、陽七の父上だ。つまり、神結重工業の名誉会長の清十郎氏である。」

 どこか見覚えがあると思ったら、そういうことか。私は神結氏に挨拶をする。

「初めまして、利と言います。お会いできて光栄です。」

 私は彼と手を交わして挨拶したが、彼の言葉に動揺した。

「こちらこそ、会えて光栄だよ。利刑事(・・)。」

 この男、どうして、私のことを知っているのか。

「はは、疑問に思っているようだね。君は警察上層部でも有名人だからね。警察高官の知り合いから噂を聞いていてね。」

 この状況は少し、まずい。警察官の私がここにいるということは佐藤穂香が単なる事故死ではないということがわかってしまう。

「安心しなさい。佐藤さんになにがあったかは聞かないよ。事故死にさせられた葬式は初めてではないからね。」

 彼は、私の考えていることなど全て見透かしているようだ。事故死にさせられたか。たしか、彼の娘は戦死だったが軍によって機密を理由に事故死として扱われていたのだったな。

「佐藤さんは、娘の葬式に来てくれたときいっぱい泣いてくれてね。私のことも元気づけさせてくれた。とてもいい子だった。若者が私より、先に逝くのはつらい。だが、生者としてやるべきことがあると思っている。」

 彼はそう言うと予定が押していることを理由にその場を去った。私たちは葬儀会場を離れ、車を走らせていた。

「これを見てくれ。さっき、佐藤穂香が使っていたと思われる銀行口座だ。名義は偽名で印鑑等の証明も偽造だ。口座の中は空っぽだが、失踪前まで多額の入金と出金の記録がある。今、振り込み先も調べている。」

 秋津に私のスマホに転送された情報を見せる。昨日、利は銀行口座の開示を請求したが、該当する人物はいなかった。そのため、利は一人で銀行の監視カメラを見て探し、そこからなんとかお願いして口座情報を請求した。秋津はそれをじっくりと見て私に問いかける。

「金は洗浄していたということか?」

 出所が犯罪等で得られた金をあちこちに回して追跡不可能にさせることで綺麗な金に換える。いわゆる、マネーロンダリングである。

「その可能性はある。そこらへんは別の人が調べる。今日はとりあえず帰ってもう寝るぞ。」

「ん?早くないか? 今すぐにでも捜査に行くべきだろ?」

 秋津の質問は至極当然ではあるが、秋津を落ち着かせる必要がある。それに

「いま、新條課長の指示でとある場所の防犯カメラを集めてもらっている。明日は朝一から画面とにらめっこだ。きついぞ。」

「ふん、余裕だ。戦地で一日中、一点を見張っていたこともある。」

 秋津は鼻を鳴らしとても余裕そうだ。


 次の日、私のオフィスに向かうと防犯カメラ映像の記録が置かれていた。

「この記録は結局なんだ?」

「これは綾小路の住むタワマンとその周辺の防犯カメラだ。もしかしたら佐藤穂香が訪れているかもしれない。捜査はこうやって地道にやっていくんだ。」

 綾小路は用心深いと思われるため簡単にしっぽを出さないと思うが可能性は一つずつ確認しなければならない。

「ふん、今度はお前も一緒なのか。また、一人で見せられるのはごめんだからな。」

 初日のことを根に持っているのかと思ったが、単にからかっているだけだと分かった。少しは落ち着いてきたということか。

 それから、数時間、一年前の記録から確認したが、佐藤穂香は映っていない。綾小路の出入りと時折、友人らしき人物が入っているのを確認した。秋津によればその中には綾小路の高校時代の取り巻きもいる。

「ん? こいつは。」

 防犯カメラを見ていた秋津は、初めて不審な点を見つけたようだ。私も画面をのぞき込み確認をする。映像にはロビーでドアロックを解除し綾小路と例の高校時代の取り巻きが入っていく様子があった。この流れは何回か見たが、これにも特に不審な点はなかった。

「気になるのはこの後だ。」

 映像には綾小路らが入った後に男が一人で入る様子が見られた。男はロビーにある部屋の呼び出しパネルを操作していた。つまり来客者ということだ。そしてその男が押した番号は綾小路の部屋であった。今まで見たことのない人物だ。

「この男、カメラの存在を気にしている。一見すると自然だが、明らかにカメラに顔が映らないように動いている。」

 たしかに一度も顔が映っていない。服装からもこれといった特徴もない。

「まだ、あるぞ。問題はこれからだ。この後に穂香が来ている。」

 秋津は映像を少し早送りすると佐藤穂香が現れた。彼女も今まで映ることはなかった。ここに来て綾小路と佐藤の繋がりがはっきりとなった。日付は佐藤が失踪した、死亡した時期である。私たちはそれから防犯カメラを見ていたが、誰一人も映らなかった。映ったのは日付が変わった昼、綾小路や取り巻き連中が映った。結局、それからも映像に佐藤穂香とあの男が映ることはなかった。その他の防犯カメラもその時間帯を中心に確認をしたが、現れることはなかった。入っていったのに出ていない。なのに山にて遺体で見つかっている。だが、綾小路の部屋でなにかあったのは確実だ。ふと横を見ると秋津が出かける準備をしている。

「おい、何をしている。」

「なにって、今から綾小路たちを連行する。」

 秋津は当然と言わないばかりの顔をしている。私はそんな秋津を宥める。

「待て、連行したい気持ちはわかるが、これでは証拠が少ない。任意でしか連行ができない。ここで連行しても決定的な証拠がなければ二度と尻尾を掴むことはできないかもしれない。」

 秋津は理解していても納得しきれていないようだ。相手はいわば権力者だ。ここで動いてもいい結果は出ない。外を見るともう暗くなっている。とりあえず、このことは新條課長に報告し、今後の方針を相談しようかと考えていたとき、電話が鳴る。私のではない。秋津の方を見ると携帯を取り出し、画面を確認した後にその画面を私に向ける。電話には粋川と書いてあった。それから秋津は受話器のボタンを押し、電話にでた。一言二言話しをし電話を切った秋津は私に向かって言う。

「粋川からご飯に誘われた。会って話をしたいらしい。なにか重要な情報かもしれないから私はこれから出る。」

 粋川は重要人物となっている。わざわざ、電話で会って話しをしたいと言うことだ。なにかあった可能性はある。私は秋津に何かあったらすぐに連絡するように言って送り出した。今の秋津に単独行動をさせたくはなかったが仕方ない。その後、私は新條課長のところへと向かった。



 粋川に言われたレストランに着くとすでに彼は席に着いていた。

「ごめんね。急に呼び出して。」

 彼は私に謝罪をしたが、私にとってはむしろ感謝したいくらいだった。もしかしたら、綾小路らを追い詰めることができる情報が聞けるかもしれない。

「それより、どうした? なにかあったのか?」

 粋川はどこか緊張した感じだったが、口を開いた彼の言葉は私が期待していたものではなかった。

「いや、ただ、会いたいなって思って。佐藤さんが亡くなって大丈夫かなって。」

 彼は私を心配して声をかけたのだった。なのにそんな彼に対して秋津はがっかりしていた。

「秋津さんは、佐藤さんのこと大事に思ってた?」

 粋川は私に変な質問を投げかける。

「なにを当たり前な。当然だ。」

「じゃあ、今でもそれは変わらない?」

 粋川は続けて要領の得ない質問してきため私は少しイライラした。

「さっきからなんの質問だ?」

 つい私は少し声を荒げてしまった。だが、彼は顔の表情を変えることなく、話を続ける。

「佐藤さんは幸せだったのかな? 苦しかったのかな?」

 穂香が亡くなっておかしくなっているようだ。

「いい加減にしてくれ。なにかあるなら言ってくれ。」

 私は語気を強め、彼を問いただした。だが、

「君には・・・関係ない話だよ。」

 私はついに我慢の限界が来た。付き合いきれん。

「もういい‼ 帰る。」

 私は金だけを置き、料理が来る前にその場を去った。利の家に帰ってきて、利から色々聞かれたがなにもなかったと言い、就寝した。



 私と秋津はオフィスで綾小路らの情報を整理していた。昨日の夜に帰ってきた秋津はとても不機嫌だった。おそらく、粋川と喧嘩でもしたのだろう。それのせいか今でも怖い顔をしてパソコンを睨んでいる。

「穂香は綾小路の部屋、それとも山で殺されたのだろうか。」

 秋津は殺害場所を考えていた。あのマンションのエレベーターにもカメラがついており、夜中に佐藤と謎の男を除く綾小路らが使っているのは確認できたがロビーに映っていなかった。これは明らかに不自然であるため部屋でなにかあったとみるべきだろう。しかし、そこで死亡したかどうかまでは分からない。そもそも、殺害なのか事故だったのかもわからない。佐藤穂香が中心となっているが、全体像がみえてこない。機密ファイルの不正アクセスが発端の事件が薬物絡みの事件となっている。なにもわからないまま、無情にも時間だけが過ぎていき、外は暗くなっていた。どうしたものかと考えていたところ携帯に一通のメールが来た。送り元は、佐藤の口座を調べていた所からだった。内容を確認し秋津に見せる。

「これを見ろ。」

 秋津は差し出された携帯にある文面を見て私に質問をする。

「これはあの送金先の情報か?」

 佐藤の口座から流れていた金は二つに分かれていたが、その先の口座も資金洗浄に使われている口座で普通は大本の特定はできないのだが、

「その口座の記録では定期的に金が流れているが、振り込み先が二か所ある。そのうちの一つは、関王会のだ。これで佐藤穂香と関王会のつながりがはっきりした。」

 この証拠があればヤクザへのガサ(家宅)入れ(捜索)は簡単だ。

「よし、では今すぐ乗り込もう。向こうも証拠隠滅に図っているかもしれない。」

 秋津は今すぐにでも乗り込むつもりだが、利はそれを止める。

「だめだ。マル(組織犯罪)暴(対策課)と連携しなければならない。組事務所に入るのに今回は関王会が相手だから機動隊と念のためSIT(特殊捜査班)の要請もいる。」

 それを聞いた秋津は激高した。

「どれだけかかると思っているんだ⁉ あんなチンピラ私だけで制圧できる!」

「他所の管轄に踏み入るんだ。それに体制が整っていないのに突入して失敗したときどうするんだ? 特殊部隊で何をしてきたんだ? お前はコマンドーか。」

 それにこのままだと秋津が全員を殲滅しそうだ。まずは落ち着かせないといけない。夕食時だ。なにか食わせれば落ち着くだろ。


 本庁を出た私たちは帰り道にファミレスに寄った。道中、秋津はずっと険しい顔をしていた。店に入り、席に着いてチーズインハンバーグを注文したが、秋津は何も注文しなかった。

「何も注文しないのか?」

 秋津は黙ったままだ。なんと声をかければいいのか。と考えていたが、その前にトイレにでも行っておこうと思い席を離れる。

「トイレに行くから何か注文しておくんだぞ。」

 トイレを済ませ、手を洗っていた。濡れた手を普段はハンカチで拭くが、忘れてしまった。だが、ここのトイレには使い捨ての紙がある。おかげで濡れた手を拭きとることができた。使った紙をゴミ箱に捨てた。その時、ふと考えがよぎった。もし、あの部屋で佐藤が殺害されたのなら遺体を搬出した様子はなかった。だから、なにかしらの方法で出たと考えたが、あのマンションには各階に地下のゴミ集積所につながるダストシューターがある。あそこなら遺体を落とし地下で回収できる。そして、そこには駐車場もある。車で搬出することも可能だ。そういえば、地下駐車場のカメラを確認していない。あそこだけないとは思えない。新條課長に連絡してそこも確かめてみよう。

 連絡を済ませ、秋津にも共有しようと思い席に戻った。しかし、席にはだれもいない。利の注文した料理だけが置かれている。そしてもう一つ席に隠すように布で巻かれた物体があった。開くと秋津の拳銃が出てきた。利は近くにいた店員に声をかけた。

「すみません。 ここにいた人どこに行きましたか?」

「そこの方でしたら先ほど出ていかれましたが」

 ついに独断行動に出たか。拳銃を置いて行ったということは任務から外れたことを示しているのだろうが、なにも支援のない状態で何かができるとは思えない。一体何をしようとしているのか。

「あー、チクショ」

 利は暗闇の向こうに消えた秋津に悪態をついた。


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