CASE3.「消えた梟の銅像③」
【AM11:59】
【依頼人[カンタロ]の屋敷 2階エンプレアの部屋】
「なるほどねぇ。」
私立探偵『Loto ~ロト~』
探偵[コレレス(18)]
[性別:男][血液型:B型]
と、コレレスは2人の胸元を見つめ、再び考え事をしていた。
「なら、一応全員8時半から10時までのアリバイはないわけだ。」
「各々が行動できる時間はあったわけだな。」
「!!」
と、ウェルターとエンプレアが驚き、すぐさまウェルターが反論した。
「それはムリです!!」
「銅像が置かれていた倉庫は1階の奥の部屋にあります。」
「そのため、必ず通路を通らないと行けないんです!」
「なので、誰かに見られてしまう可能性が高いと思いますが?」
「一階の掃除をしていたメイドなら出来るんじゃねぇのか?」
「それも不可能です!」
「倉庫の部屋は窓もなく、部屋の入り口には鍵が付いております。」
「鍵のある場所は、執事のヨルドモさんが管理されてるので、ワタシたちには入ることもできないのです。」
「なので、掃除もご主人様からは、基本的にしなくていいと伺っております。」
「なるほど。」
「なら、ほかのメイドに話を聞いても同じか。」
「執事はもう帰ったのか?」
「彼の話を聞いて終わりだな。」
と、コレレスが告げると、部屋から出て行こうとした。
その後を慌てて追いかけるウェルターであった。
「ちょっと、コレレスさん!どこに行くんですか?」
「執事が帰るまで、さっきいた客間にいようかなって」
「物理的に目がチカチカして疲れたからな。」
「……?」
「分かりました、では紅茶を淹れなおしますので、客間でお待ち下さい。お部屋は分かりますか?」
「ああ。」
と、手をヒラヒラさせて階段を降りていった。
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【PM12:06】
【依頼人[カンタロ]の屋敷 1階 客間】
「ふぁあ〜〜。眠たくなってきたな。」
「……帰ったら仮眠をとられますか?」
私立探偵『Loto ~ロト~』
助手[アジュ・フロルダンテ(28)]
[性別:女][血液型:O型]
「ん〜〜そうだなぁ〜。執事の話を聞いたとしても、16時までには帰れんだろ。」
「3時間寝れたら良いな。うん。」
「もう、大体分かったんだろ?」
「……。ええ。おそらくは。」
「ですが、確認しておきたいことがまだありますね。」
「なら、待つしか無いな。」
「それに、最後は照らし合わせないとな。」
「オマエの推理を確定させるためにも。」
・・・・
「はい。そこだけは…いつも頼りにしてます。」
「そこだけダァ…!?ったく…とんだ居候だぜ。全く。」
「あ。」
「そういや〜…」
「今日の晩飯は何にする予定なんだ?」
と、椅子に座りながら、白いテーブルクロスの上に肘をついて、腕を伸ばし、その上に顔を乗せたコレレスが尋ねた。
そして、アジュが饒舌に語り出す。
「はい」
「ディナーは鴨のロースト~バルサミコソース~イチジクのワイン煮添え」
「生ハムとラディッシュのサラダ」
「アスパラとジャガイモのチーズ乗せグリルになります」
「ワインはロベール・グロフィエの『シャンボール・ミュジニー 1er レ・ゾードワ』の予定です」
「フム、悪くない。」
「さっさと終わらせて、食べようじゃないか」
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【PM12:15】
ガチャッ。と客室の扉が開いた。
座っていた2人が扉の方を見ると、ウェルターと執事のヨルドモの姿が見えた。
「遅くなってしまいすみません。タクシーが混んでいましてね。都市部まで手紙を出しに行っておりました。」
「いえ。」
と、コレレスが答える。
ヨルドモが席についてしばらくすると、給仕のウェルターがヨルドモの分の紅茶を持ってきて、テーブルに置いた。
「ありがとう。」
ウェルターは、「では、私はこれで。失礼します。」と残し、部屋から出て行った。
「それで、事件当日のお話を聞きたいとのことでしたよね?」
「はい。当日の朝から、銅像が運び出されるまでは何をされていましたか?」
…ズズゥ。とコレレスが紅茶を啜る。
隣にいるアジュも、紅茶を嗜んでいた。
「当日の朝、6時には起きました。そして6時半までは自身の支度をしておりました。」
「その後、6時40分頃から……旦那様の身の回りのお世話を行い、7時から8時までは給仕のウェルターとメイド達に朝食の指示を出し、私は旦那様の書斎にて、今後の経営方針について旦那様とお話をしておりました。」
「経営?あのオッさ……んんンッ。あのじいさんは何かしてるのか?」
「ええ。このヨージャの土地にある、葡萄畑を管理しているのです。そこから、ワインを造る業者やスーパー。各方面にて、卸売りをされているのです。」
「へぇ〜。ブドウ畑をねぇ〜。」
「それはそれは、儲かりそうだな。」
「……。」
「そうですね。」
「……?」
……ジーーー…。
と、コレレスはヨルドモの胸元を見た。
(まてよ……確か…)
「………で、その後、運搬までの間は何をしてたんだ?」
「ええ、それからは屋敷内の備品の在庫管理などをしておりました。」
「それは銅像があった倉庫か?」
「いえ、一階の右手にある奥の倉庫ですね。左の奥のあの部屋は、主に旦那様の美術コレクションばかりですので。私どもが開けることはそうそうありません。」
「私が管理していたのは、主にワインになります。」
「年代モノのワインもありますので。」
「なるほどね。」
「倉庫の鍵はアンタが持ってるんだよな?」
「え、ええ。しかし、用件がある際は……私の元へ報告がきて、その後、必ず旦那様にお伝えしております。」
「それから、私が鍵を持ち出して、一緒に確認して見届ける。と屋敷での決め事となっております。」
……ジーーー…。
「そうか。」
「分かった。あ、そうだ」
「最後にさ、8時半から10時までの間、廊下で怪しい人物とかは見なかったか?」
「い、いえ。私が倉庫にいる間に一階で掃除をしていたメイド以外の足音はしなかったと思います。扉を開けておりましたし。誰かがきたなら気付きますね。」
「メイドのドメスティカも一度しか廊下の掃除には来ませんでしたから。」
「ふ〜ん。」
「そうか、ありがとう。」
「聞きたいことはもうないから、オレ達は帰るとするよ。」
「左様ですか。かしこまりました。」
「では、玄関までお送りいたしましょう。」
と、3人は椅子から立ち上がり、部屋を後にした。
「じゃあ、解決したら警察に伝えるから、あとは警察から話を聞いてくれ〜」
「オレの名を知ってるヤツが知り合いにいるから、その後は任せることにするよ」
「報酬はここに振り込んでおいてくれ。」
と、アジュが口座番号が書かれた紙を手渡した。
「かしこまりました。お気をつけて。」
そうして、カンタロの屋敷を後にしたコレレスとアジだった。
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「アジュ。確認したいことがある。」
「はい。」
「……ーーーーーについて調べておいてくれ。オレは疲れたから帰って寝る」
「……。」
「かしこまりました。ごゆっくり休まれてください。夕刻には起こしますので。ディナーの時にグランさんをお呼びしておきますので。」
「助かる。オマエは仕事ができるヤツだな。」
「コレレス様のためですから」
「……。そうだな。」
と、2人はタクシーを捕まえて、事務所へと戻っていった。
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【PM18:54】
【私立探偵事務所『Loto ~ロト~』】
「そろそろか〜?」
と、まだ眠たそうに答えるコレレスが、ソファにだらしなく座っていた。左腕を背もたれにのし掛け、右腕はソファからはみ出て、地面に着いていた。
そして、顔を逆さまにして、キッチンにいるアジュの方を眺めていた。
「はい、お呼びだてしたのは19時でしたので」
「アイツが時間とか守るタチかよ〜〜」
「絶対遅れてくるね。」
「……どうでしょう?」
ガランッガラン。
そのとき事務所の扉が開いた。
「コッレレェェ〜〜〜〜ス!!!」
と、大きな叫び声と共に、ガタイの良い茶髪の男が入ってきた。
その人物は、黒いスーツ姿で、赤いネクタイ、黒の革靴を履いていた。髪型は長髪でウェーブが掛かっていた。
「……なんで今日は早いんだよ…」
「だあってぇぇぇ〜〜ん!!コレレスちゃんのためだもの〜〜!!」
コレレスの親友 警察官 警部
[グラン・アミーゴ(28)]
[性別:中性]
「今日は例の事件の真相が分かったんでしょ〜?」
「ああ、まぁな。」
【PM19:00】
…コトッ。コト。
「生ハムとラディッシュのサラダ」
「アスパラとジャガイモのチーズ乗せグリルになります。」
と、テーブルに料理を置いていくアジュ。
「あら〜!アジュちゃんまた腕を上げたわね〜!」
「いつか良いお嫁さんになれるわよっ♡」
と、グランが褒める。
再びキッチンの方に戻りながら、答える。
「いえ。ボクなんて…。このまま独り身で大丈夫ですよ。」
と、返事をして、焼き上がった鴨のブロックをスライスし始めた。
スクゥ〜。スクッ。スゥ〜。
鴨を5mm幅にスライスしていき、薄い白のお皿にこんもりとクレソンやレッドボールなどのベビーリーフをのせ、その上に扇形になるように5枚ほど…鴨のローストをのせた。
そして、スプーンですくった少しトロみのある赤黒いバルサミコソースを鴨肉の上からお皿にはみ出る様に、左右に垂れ流していった。
最後に、鴨肉とベビーリーフの隣に、赤ワインで煮詰めた角切りにしたイチヂクを少し添えた。
左手の手の甲の親指と手首でバランスをとりながら一皿置き、左手の親指と残りの指を広げて下から2枚目のお皿を持った。
そして、右手で最後のお皿を持ち、テーブルへと運んで行った。
コトッ。…コト…コト。
「鴨のロースト~バルサミコソース~イチジクのワイン煮添えになります。」
「サンキュ〜」
「んん〜ありがとう〜〜アジュちゃん!!」
「ワインも注いできますね。」
と、アジュは再びキッチンに戻った。
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【PM19:13】
「それでぇ〜〜?今回の『枝木に止まらなかった梟の銅像事件』の真相はどうなのよぉん〜?」
「ッ…!あんまり近寄んじゃねぇよ!バカが移るだろうが。」
と、顔をすりすりしてこようとしたグランは、コレレスの手によって弾かれた。
「何だよその変な名前は…」
「警察署内で取り扱ってる部署での、事件名なの。ウフッ。」
「止まってるハズの枝木から逃げ出した梟からつけたのよ〜〜ん!」
「ハァ……そんなこと考えるヒマがあるなら、まともな捜査をしてくれよな。」
と、コレレスは呆れていた。
「で、例の件は調べたんだろうな?」
「え、ええ。アジュちゃんから聞いて、ちゃんと伝えたわ。」
…チラッ。
と、アジュの方を見ると頷いていた。
「結論から言うと……」
・・
「………あの銅像は元々偽物だったんだよ。」