CASE2.「消えた梟の銅像─②」
※ケープ
肩を覆う袖のないコート
※ボーラーハット(山高帽)
帽子の山が丸く、巻きあがったツバを特徴とする、堅いフェルトでつくられた帽子。
今回は、少し違います。角ばったものをイメージしてます。
【10月8日 AM8:10】
【私立探偵事務所『Loto ~ロト~』】
『…カチャ。』と、フォークをお皿の上に置き、残っていたワインを飲もうとグラスを持った。
『スクゥ〜』
静かに口をグラスにつけて、飲み始める。
「…ンクッ…ンクッ……」
そして、『コトッ。』っと、ワイングラスをテーブルに置いた。
「はぁ〜うまかったな」
「ハラも満たされて、金も入った。」
私立探偵『Loto ~ロト~』
探偵[コレレス(18)]
[性別:男][血液型:B型]
「さてと、仕事しますか」
『ガタッ』と、ソファから立ち上がると、事務所の机の横に置いてあるコートハンガーの元へ歩み寄った。
「アジュ、オミュジオに行くぞ。 支度しろ」
そして、掛けてある茶色のケープを身につけた。
「はい」
私立探偵『Loto ~ロト~』
助手[アジュ・フロルダンテ(28)]
[性別:女][血液型:O型]
※
アジュはレディース用のボーラーハットを身につけ、小さな赤色の肩掛けポーチを背負い、2人は事務所を後にした。
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【AM9:24 美術館『オミュジオ』館内】
「おお〜アンタ達がカンタロさんが頼んだ探偵か?」
美術館 館長[ミージオ(78)]
[性別:男]
「ああ」
「コレレスだ」
「………。」
コレレスとは対象的に、アジュは一言も話さない。そんな姿を、慣れたように呆れながら説明をするコレレス。
「……ハァ…。」
「こっちは助手のアジュだ」
「ワシはミージオじゃ。よろしく頼む」
「ああ」
「さっそくだが、この美術館には監視カメラはあるのか?」
「ああ、あるぞ。」
「裏手の警備室から見れる。」
「見て良いか?」
「ああ、構わんぞ。」
『…ジ───…。』と、コレレスはミージオの胸元を確認した。
「………。」
「そうか」
「とりあえず連れてってくれ」
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[監視カメラ 10月7日 20:34]
「この黒い服を着た作業員の二人が犯人か?」
「そうだ」
「……」
「おかしいな。」
「何がじゃ?」
「なんで犯人の顔がどこにも映っていないんだ?」
「これだけカメラがあるんだ。おかしいだろう?」
「!!」
「確かに!」
「カメラの角度は固定か?」
「カメラの角度はこれだけだ。」
「そうか。」
と、悩むコレレスの傍で、アジュは静かに見つめていた。
「………。」
「事件当日に来た業者は分かるか?」
「ああ、それならコチラを。」
と、その場にいた警備員が口を挟み、名簿を手渡してきた。
「コレは?」
「裏口から出入りする入館証です。」
「入館時と退館時に記入して頂いてるんです。」
『パシッ。』と手に取り、コレレスとアジュは書かれている記録を閲覧した。
「午前10時35分……運送会社の従業員か? 時間帯的に依頼人の証言と一致してるな。」
「ええ、確かにその時間に運送会社『トランスポルテ』の従業員の方達が銅像を運びに来られました。」
「通路の入り口にもカメラがありますので、まちがいないかと。」
「映像にも残ってあります。」
「また、入館証も必要となり、ID認証によるパス認証が必要なんです。」
「通路にある機械ですね。 そして、入館証の顔も一致しておりました。」
「………」
「彼らはこの後どうしたんだ?」
と、コレレスはミージオに尋ねる。
「指定の台座に銅像を置いた後、帰って行ったわい」
「車が来る少し前には、搬入口にワシもおったからな。」
「そうか」
「侵入経路は正面玄関の扉だったよな?」
「ええ。 扉の鍵が開けられていたんです。」
「鍵は警備室の鍵置き場に置いてあります。 その鍵置き場にも鍵をかけており、その鍵は私が巡回中に持ち歩いていたので、盗まれたりもしていません。」
「アジュ」
「……。」
コレレスが助手のアジュの方を見つめると、『コクッ。』と頷いた。それを見たコレレスは、警備員とミージオに礼を伝えた。
「ありがとう、参考になった。」
「失礼する」
そして、コレレスとアジュは美術館を帰ろうとし始めた。
「も、もういいのか?」
「何か分かったのか……?」
「ああ、十分な。」
そうして、コレレス達がいなくなった室内では、ミージオが不安そうに狼狽えていた。
「カンタロさんが雇ったらしいが……あんな子供に本当に解決できるんじゃろうか…。」
「全く!警察は何をしとるんじゃ!!」
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【AM10:39 運送会社『トランスポルテ』受付】
「あら?どちら様でしょうか?」
受付に座る茶髪のショートカットの女性が、声をかけてきた。
「……。」
「こういう者です。」
『スッ。』と名称を見せるアジュ。
「探偵事務所……。 もしかして、例の件ですか?」
「例の件?」
コレレスが質問すると、受付の女性が答えた。
「あっ、いえ、先日警察の方が来られまして。 当社の従業員について事情を聞かせて欲しい。と、来られましたから。」
「ああ、そうだな。 その件でおたくの従業員に話を聞きたいんだが」
「ちょっと待ってくださいね。」
と、席を外した後。しばらくするとオレンジ色の帽子と作業服を着た、2人の従業員が現れた。
「あの……。 俺たちに何か…?」
運送会社『トランスポルテ』従業員 [ポルテ(28)]
[性別:男]
先に黒髪短髪のガタイが良い青年が喋る。
「け、警察にならもう、昨日お話しましたけど?」
運送会社『トランスポルテ』従業員 [トラン(37)]
[性別:男]
後から白髪混じりの目が細い痩せ型の男性が喋る。
「あ、いえ。 私は探偵として、依頼人の[カンタロ]さんに頼まれましてね。 ぜひ昨日お話しされたことを聞かせていただきたいんです。」
「お手数をかけますが、よろしいでしょうか?」
と、丁寧にコレレスは頼み込んでいた。
「ま、まあ。 それなら…」
「……ええ。」
「ありがとうございます。」
「さっそくですが、昨日の運送時はどこかに停車したりはしませんでしたか?」
「──ッ!!」
「もしかして、俺たちを疑ってるんですか!?」
と、ポルテが怒鳴りだした。
「あ、いえ。 形式的なモノなのでお構いなく。」
「情報を得るのが私の仕事ですので。 すみませんね。」
「………。」
「こちらこそ……取り乱してしまい、すみません。」
「いえ、よくあることですので。」
「それで、昨日は?」
「ええっと…。 どこにも止まったりはしてません。」
「信号とかで止まることはあっても、どこかに寄り道とかもしていないです。」
『チラッ。』っと隣のトランを見るコレレス。
「え、ええ。 確かにどこにも立ち寄らずに、真っ直ぐ美術館へと向かいました。」
「私達は、カンタロさんの邸宅から銅像を梱包をして、そのまま美術館へと届けました。」
「その時、邸宅には誰がいたか覚えてますか?」
「確か……カンタロさんに、執事の方と、給仕の方がいらっしゃいましたね。」
「他にはいなかったんです?」
「はい、私達が梱包作業してから、車に積み込むまでは他に見ていません。」
「そうですか。」
『ジ──……。』とコレレスが見つめると、霧のようなモヤがかかっていた。
「ありがとうございます。」
「運搬が終わった後は、それぞれどうされました?」
「会社に戻った後に、もう一件の運搬へと行き、その後は会社に戻り、事務作業などをしていました。」
今度は、ポルテを見つめるコレレス。
「俺達は2人で仕事のパートナーとして行動してるんですよ。 なので、俺も同じです。」
『ジ──……。』と見つめるポルテにも影が出来ていた。
「分かりました。 夜も出かけたりはしてないですよね?」
「もちろん。」
「昨日の夜は会社の飲み会で、俺達も参加してるよ。 刑事さんにも話して、お店の監視カメラで確認済みだ。」
「そうですか。」
「アジュ」
と、コレレスは頷くと、アジュの方を見つめる。
『コクッ。』と、それに応えるようにアジュは頷いた。
「分かりました。 聞きたいことは以上です。」
「お時間をいただき、ありがとうございました。」
「では、失礼します。」
と、2人は『トランスポルテ』を後にした。
「さて、次は依頼人の家に行こうか」
「はい。」
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【AM11:23 依頼人[カンタロ]の屋敷】
『ピンポーンッ。』と、屋敷のチャイムを鳴らすコレレス。
しばらくしても反応がなかったが、庭で野菜を取っていた給仕が帰ってきて声をかけられた。
「えっと〜、どちら様でしょうか?」
屋敷の給仕 [ウェルター(42)]
[性別:女性]
「アジュ」
「はい。 こちらを。」
アジュの手から手渡された名刺を見た給仕のウェルターは、すぐに理解した。
「ああ〜! 旦那様がご依頼した探偵の方でしたか!」
「どうぞ中へお入り下さい。」
と、手袋をしたウェルターは扉を開け、笑顔で2人を招き入れた。
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【AM11:27】
【依頼人[カンタロ]の屋敷 1階 客間】
「なんだ、朝で終了したんじゃなかったのか?」
と、ムスッとした様子でカンタロが話しかけてきた。
「事務所はな。 調査は別だ。」
「あの後、『オミュジオ』と『トランスポルテ』にも寄ったよ。」
「それで、後はアンタのとこだけだからな。」
と、コレレスは、給仕が入れてくれた紅茶が入ったカップへと手を伸ばす。
「……クンクンッ…。 ヘェ〜…『セーデルブレンド』か。」
「…ズズゥ…。 ゴクッ。」
「出来る給仕だな。 雑味も無い……素晴らしい腕前だ。」
「ハンッ! ワインだけではなく、ガキのくせによく知っておる。」
「……紅茶もイケる口でね。」
(気づいてたのか、流石だな。)
「それで、わざわざウチまで来て何を聞きたいんだ?」
「ああ、事件当日に、この家にいた人物は誰か知りたい。」
「運搬される時間ではなく、その日だ。」
「……ワシと…執事のヨルドモ、あとは給仕のウェルター。 あとは、メイドが数人だ。 詳しくは、ヨルドモが知っておる。」
「その、執事はどこに?」
「手紙を出してもらうように頼んどる。もうしばらくしたら帰ってくるじゃろう。」
「そうか。 各々に話を聞いて回って大丈夫か?」
「フンッ。 構わん。」
「そこのウェルターを連れて行け。 ヤツもこの家やメイドにも詳しい、案内は任せる。」
「か、かしこまりました! 旦那様。」
「では、コチラに」
と、2人は給仕のウェルターに着いて行った。
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【AM11:41】
【依頼人[カンタロ]の屋敷 2階ウェルターの部屋】
「コチラがワタクシの部屋になります。」
部屋の中には、薄茶色の木製の化粧机と高さのある丸い小さなテーブルが置いてあった。
そして、シンプルなベッドに、薄茶色のクローゼットがあり、大きな物置棚が置かれてあった。
「シンプルだな。」
「……。」
「コレレス様。 あまり女性の部屋について、そのような感想はよくありませんよ。」
と、アジュがコレレスに伝えた。
「──なッ! ……すまん。」
「謝るならウェルターさんにお伝え下さい。」
「うふふ。 大丈夫ですよ、コレレスさん。」
「自宅の方もこんな感じですので、慣れております。」
と、ウェルターは笑っていた。
部屋の中にある、化粧机の上に置いてあるゴーグルのようなメガネを見つけ、コレレスはそのメガネを手に取ると、少しだけ無言になっていた。
「………。」
(縁に白い汚れが付いてるな。)
「このメガネは?」
コレレスはウェルターに問いかける。
一瞬ピクッとウェルターの指が動いた後、彼女は答えた。
「これは、厨房でタマネギなどのネギ類を切るときに使ってます!目に染みないように付けてるんです!」
「ヘェ〜。」
『…ジ──………。』と、ウェルターの胸元を確認するコレレス。
そのままメガネを元の場所に戻すと、部屋の周囲を確認していた。
(ボウルと泡立て器……棚にはなんだ? 白い繊維質なような……春雨か?)
(まあ、料理関係の物しかなさそうか)
「次行きましょうか。 案内してもらえますか?」
「は、はい。 次はメイドの部屋を案内いたしますね。」
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【AM11:56】
【依頼人[カンタロ]の屋敷 2階エンプレアの部屋】
『コンコンッ──。』と、ノックの音が部屋に響き渡る。
「エンプレア〜ワタシよ。 入っても良いかしら?」
「探偵の方がお見えになってて、話を聞きたいそうなの。」
「はーい! 大丈夫ですよー!」
『ガチャッ。』と、幼くて可愛らしい声と共に、部屋の扉が開いた。
「どうぞどうぞー! あ! こんにちはー! ワタシはエンプレアって言いますー!」
「事件のことですよね? 警察の人にも聞かれましたけど、探偵の人って同じことを聞くもんなんですかー?」
屋敷のメイド [エンプレア(18)]
[性別:女性]
「こら! 旦那様のご依頼人の方に対して、そんな口を聞いては行けません!!」
「うひぃ〜ごめんなさ〜い。」
と、エンプレアはしょぼくれていた。
彼女の部屋は、年頃と言った感じで、クマのぬいぐるみが多く、中にはかなり大きな物まであった。
そして、ピンクの雑貨や家具で飾られた派手な部屋にコレレスは"ソワソワ"していた。
(うぅぅ〜〜…この空間は気持ちワリィなぁ……ダメだ。 どこも派手すぎて、生理的にうけつけねぇ……。 早めに済まして早く他の部屋に行きたいぜ。)
「……えーと…時間当日もいらしたんですよね?」
「運搬までの間って何されてました?」
「はい! いましたよー! えっと〜……確か〜」
「あ! 朝はウェルターさんとほかのメイドの子達と一緒に朝ごはんの準備してました〜!」
「そして〜それが終わってからは、一階のお部屋の掃除をしてましたね!」
「時間は覚えてないのか?」
「確か、7時から8時まで朝食作りの後、ご主人様のお食事が済んだのが8時20分ごろでしたね。」
と、ウェルターが代わりに答えた。
「そして、10時まではワタシは庭で野菜を収穫し、倉庫や冷蔵庫に保管などの作業をしておりました。その間、メイド達は3名で各フロアの清掃に取り掛かかっております。」
「おそらく、終わったのも…お昼前くらいだったのではないかと。」
「なるほどねぇ。」
と、コレレスは2人の胸元を見つめ、再び考え事をしていた。




