第58話 一つの提案
「貴方は・・・・・・?」
竜と馬鹿二匹が叩き落とされ、コンクリートの道路を砕いた橋の上に粉塵が舞う。
そんな粉塵の向こうから現れたのは、息を整えて汗を拭う、いまいち見た目から年齢が分からないスーツ姿の男。
突然やってきた胡散臭さが隠せない雰囲気の男にエリザは訝しみ、そんな視線に気付いているのかいないのか、目があった男は安堵の息を吐きながらエリザに近づいてきた。
「良かった~、生きてたんですねエリザさん。殺されてるんじゃないかってひやひやしましたよ~」
「・・・・・・誰?」
「あ、コレは失敬」
コホンと咳払いで場を整え、軽く一礼して自己紹介。
「私は東雲。貴方のお爺様の御命令で、貴方を保護しに来ました。魔術協会の――――――」
――――――そして手を振るったエリザから火球、風刃、氷柱、閃雷、水弾、岩槍が一斉に飛んできた。
「ちょぉおおっ!? 待って! 落ち着いて!?」
「うっさい! 保護とか言って、どうせ連れ戻しに来ただけでしょ!?」
「えぇと、その辺は貴方のお爺様の考え次第なので、私からは何とも・・・・・・」
「言ってるも同然よ‼」
魔術による飛んでくる属性連弾を、東雲は困ったように避けつつ、
「《オン・アラハシャノウ――――――》」
両の手を合わせ、柏手を打つ。
「――――――【空域】」
瞬間、目に見えない波動の様なものが東雲から周囲に発せられ、発射され続けていた魔術が消滅する。
エリザが再度魔術を使おうとしても、発動する気配が全くない。
「・・・・・・魔術の無効化?」
「いや、たぶん元になってる霊子の停止じゃない? 力の流れそのものが機能してないっぽいし」
東雲の使用した力を推測したのは、氷室凍夜。
橋の上に叩き落された衝撃で舞った粉塵の向こう側、東雲の後ろから現れた。
「・・・・・・なんていうか、ボロボロね」
「まっさか、蠅みたいに叩き落されるとは思わなかったよ」
衣服に付いた汚れを叩き落とす氷室凍夜を見て、エリザと振り返った東雲は更に奥へと視線を移す。
一緒に落ちてきた竜と金髪の姿が見えなかったからだ。
徐々に粉塵が風に流されて晴れてきて、最初に見えたのはうつ伏せで倒れ伏している人。
竜道寺 流浪。
竜化が解けたのか、赤い竜の姿ではなく、元の姿に戻っていた。
そしてその直ぐ後ろに見えたのは、神爪勇人の姿。
脳天から頭部が完全に埋まり込む形で道路にぶっ刺さっており、その様は一つの道路標識の様だった。
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
そんな間抜けな様を三人は何とも言えない表情で観て、意識が戻ったのか道路から伸びている首から下の身体がジタバタと蠢き出す。
必死に頭をめり込んだ道路から引っこ抜こうとするが、抜け出せない。
嘆息しつつ氷室凍夜は無様な神爪勇人に、その手に氷剣を生成しつつ近づいて、その剣を一閃。
首が切断され、血が噴き出し辺りを鮮血に染めた。
頭部から離された身体はゆらっと立ち上がり、首部分から血が噴水の様に湧き出る。
その首の無い血塗れな身体は屈み、埋まった頭部がある陥没した道路に両手を突っ込んで、道路のコンクリートを砕きながらズボッと頭部を引っこ抜いた。
そして引っこ抜かれた頭部は身体とガッチャンコ。
「あー、死ぬかと思ったわ」
「それでも死なない奴がどうやって死ぬと思ったのよ?」
「東雲の仏パワーだからな。不死に対しても割と効くんだぜ」
「ああ、仏由来の術なのか」
取れたプラモのパーツみたいに簡単に治して見せた神爪勇人に呆れた反応のエリザ、氷室凍夜は先程の自分達を叩き落した光の掌の正体に納得を示す。
そして東雲に冷めたようで熱い視線を飛ばした。
「やっぱ手ぇ抜かれてたんだ。これならもっと戦れてたんじゃないの?」
「勘弁してくださいよ。日本が消し飛んじゃうじゃないですか」
「失敬だな、ちゃんと加減はするよ」
「さっきの攻撃、地球どころか太陽系が吹っ飛びかけてたんですが・・・・・・」
これだから魔王や邪神を討滅した系の異世界帰還者はと、東雲は嘆息しつつ疲れたように肩を落とす。
首が完全にくっ付いた神爪勇人は、首の調子を確かめて鳴らし軽く辺りを見渡しながら言った。
「で、どーすんだよ。なんかゴチャついてきたが、まだやるか?」
元々はなんか戦ったら面白そうな気配を感じて飛んで来たら東雲に妨害され、やって来たら神爪勇人に阻止されて、そしたらなんかドラゴンが出てきて、三つ巴で戦ってたら纏めて叩き落されて、落下した先の橋はもう崩壊寸前。
神爪勇人は「戦るってんなら、まぁ付き合ってやるが?」と口にするが、その雰囲気はもう冷め始めている。
氷室凍夜は肩を竦めた。
「止めとくよ。なんか白けてきたし、戦るのなら次はちゃんと戦りたいかな」
「・・・・・・ま、機会があればな」
そもそも本気を出したら地球どころか宇宙ごと凍結させそうな力を持っている氷室凍夜が、ちゃんと戦える機会とやらがあるのかが神爪勇人は疑問だったが、変に指摘して戦う約束を取り付けられでもしたら面倒だったために無難に言葉を返す。
そして神爪勇人は無言で唐突に東雲に対して拳を振るった。
東雲は屈んで避けた。
「いや、なんですか急に?」
「別にー? 足止めも満足に出来ないカスをしばき倒そうとか考えてねーけどー?」
「あ、これ殺される流れですかね」
「・・・・・・ま、後だな。先にあっちだ」
言って、神爪勇人が目を向けるは倒れ伏している竜道寺流浪。
さっきまで死んでいたが、何か赤い竜と化して復活した一般人。
今は人間の姿に戻っているが、また先程のよう竜が表に出てこないとも限らない。
「生き返ったっぽいが、コイツをどうするか・・・・・・てか、どうなったんだ?」
最初は死んでたから神爪勇人が蘇生させようとしたが、途中で氷室凍夜が乱入して何がどうなったのか、詳細は分かっていない。
事情を知っているのか、東雲はエリザを見やって。
「使った―――いえ、切り離したんですね・・・・・・力の一部を」
「・・・・・・・・・・・・」
「東雲、説明はしてくんねーのか? 俺様依頼を受けた側なんだが」
「えーと、私の口からはちょっと・・・・・・」
「じゃあ説明出来る奴呼べよ、電話とか」
「あー・・・それもちょっとなぁ・・・・・・」
「お前が命令されて口止めまでされてるとか、どうせあのジジイだろうが。もう分かり切ってんだから早よ呼べ」
「それで小言言われるの私なんですけどぉ・・・・・・」
「知るか早よ」
口を噤むエリザ。
東雲に詰め寄る神爪勇人。
そして氷室凍夜は倒れ伏している竜道寺流浪を見て。
「ねぇ、彼なんだけど・・・・・・僕が連れて帰っていいかな」
なんて事を言い出した。
当然、言われた3人は「「「は?」」」である。
竜道寺流浪。
鳳凰学園高等部に入学したばかりの1年生。
何の因果か橋の上で狂人神父に襲われていたエリザを助けに入ったら殺されたという悲劇の少年。
助けに入られたエリザと、鳳凰学園で生徒会長に在籍している神爪勇人ならともかく、氷室凍夜(後ついでに東雲)は竜道寺流浪とは縁もゆかりも無い。
言動が意味不明だった。
「何でお前が?」
「いや、何か面白そうかなって思っただけだけど」
「戦闘狂も大概にしろよお前・・・・・・」
「戦いたいとは言ってないじゃん」
「戦わないのか?」
「戦うけど?」
「何なんだよお前マジで・・・・・・」
頭痛を堪えるかのように頭を抱える神爪勇人。
不満気な顔を浮かべるが竜道寺流浪が死んだ理由が自分を庇った為であり、庇護を求めて四季島に来たエリザは彼を如何にかする権利は自分は持っていないが故、言葉を発しようと口を開きかけては噤んだ。
東雲はその件に関しては依頼に巻き込まれた事を除けば無関係故に傍観に徹し、氷室凍夜は「でもさ」と続ける。
「一応『青き惑星の調停者』の仕事でもあるよ。この国で、神獣が取り憑いてる奴が暴れたんだし。事情があるから死刑とかは無いにしても、取り調べをする権利はあると思うけど」
「・・・・・・日本ではな。四季島での権利は『異世界連合』だ」
四季島は日本の国内ではあるが、四季島の特殊性故にその場所は一種の治外法権と化しており、その所属は地球連邦ではなく『異世界連合』である。
つまり四季島で起きた事件は基本的には日本の治安組織等ではなく『異世界連合』の組織が動くのだ。
「けど四季島大橋って、たぶん丁度境界の間だよね? 半分は日本にもあるはずだけど」
「あー・・・・・・」
氷室凍夜の指摘通り、四季島と日本の境目は四季島大橋の真ん中辺りとなっている。
だがその肝心の橋がもうボロボロであり、あちこち崩れているのもあって何処が境目なのか神爪勇人も判別がつかない。
「・・・・・・どうすっか。共同で取り調べか?」
「絶対それ揉めるでしょ。『青き惑星の調停者』はともかく、日本政府が」
「だよなぁ」
日本政府・・・というよりも、そこも含めての地球連邦政府。
一応『地球』も『異世界連合』に加盟している世界ではあるのだが、自分達の支配者気取りなのが気に入らないようで、政府はわりと敵視している所がある。
その辺りの話はそもそもの地球と『異世界連合』の成り立ちと関係が問題なのだが、ここで解決するような話ではない。
じゃあどうするかと神爪勇人と氷室凍夜は唸り、静観を決めていた東雲は「ちょっといいですか」と挙手。
「何だよ?」
「君も参加する感じ?」
「いえ、そうではなく」
これ以上ややこしくすんなよと、若干非難めいた視線を向ける青少年二人に東雲は指を立てて言った。
「ひとつ、提案があるのですが」




