第57話 氷室凍夜VS神爪勇人VSウェルシュドラゴン~神爪勇人のバカヤロー‼~
空が荒れていた。
天候という意味ではなく、現象という意味で。
ドラゴンが現れ、巨大な氷塊が宙を舞い、極太の光線がそれらを薙ぎ払い、人間の蹴りがその光線を蹴り返す。
そんな超次元大決戦な空中戦に興じている最中、ドラゴンの口から放たれた光線を蹴り返し、それが放った本人(本竜?)に直撃したのを見届けてから、神爪勇人は軽く嘆息した。
(赤い竜はともかく、氷室の方はちょっと熱くなりすぎてきてんな・・・・・・)
光線もそうだが、先程氷室凍夜が投げた氷塊は、危うく下方にある四季島大橋を破壊しかねない向きで放たれていた。
頭に「一応」が付く程度のレベルだが、神爪勇人も氷室凍夜も周囲に大きな被害がなるべく出ない様に立ち回る程度の配慮はしながら戦っていたのだが、だんだん氷室凍夜のその意識が雑になってきたのを感じたのだ。
故に――――――
「遊びはこんなもんでいいだろ。こっちも、もうそろそろ晩飯の時間だし・・・・・・決着といこうぜ」
――――――終わらせる。
その意思が感じ取られる程、急激に神爪勇人のエネルギーが膨れ上がる。
言葉にはせずとも、氷室凍夜も赤い竜もその意思に同意を示すように、魔力を練り上げ高めていく。
「ウオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォッ‼‼‼‼‼」
一番初めに変化が現れたのは、赤い竜。
膨大な魔力を生成できる『竜の心臓』をフル稼働させ、その身に纏う魔力と赤い鱗が徐々に金色へと変化した。
【竜王逆鱗】
竜種が持つとされる種族系の覚醒スキル。
本来”逆鱗”とは、竜種の喉元にある逆さになった一枚の鱗に触れると激昂する現象の事を言うが、一定以上の力と知能を持つ竜種は、この力を能動的に起こす事が出来る。
竜としての能力を全て解放し、爆発的にパワーアップするスキル。
「――――――【精霊進化】‼」
氷室凍夜もまた、その姿を変化させる。
高まってきた魔力を解放し、その身に、周囲の空間に強烈な冷気を漂わせる。
身体が薄っすらと透けて見える様になり、その背中に魔力で創られたエネルギー状の羽が生えた。
肉体が霊子へと分解され、霊体へと再構成される。
人間を始めとした有機生命体の身体に宿る魂魄の力が器の限界強度に達した時、器である肉体に何かしらの変化を促し進化しなければ、魂魄のそれ以上の成長は望めないとされている。
その解決手段は様々だが、その一つが人間の精霊化。
肉体という器を取っ払い、ソレを霊体へと変化させる事で物理的な拘束から解き放たれる。
霊体であるが故に物理的な現象には影響を受けないが、自身の【氷結魔法】が力の源となっている為に『氷の精霊』として魔力の影響は多大に受けており、属性間相性の問題で炎には弱まってしまっている。
だが弱火程度では巨大な氷塊を溶かしきるのが難しい様に、氷という自然現象そのものと化した今の氷室凍夜には、ドラゴンの火炎吐息すら脅威ではない。
そして、この男も変化する。
「ハアアァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・‼‼‼‼‼」
高まっていく神爪勇人の気力に空が震え出す。
色を持たない無色透明のエネルギーであるはずの気力が、徐々に金色に変わっていく。
頭部の毛髪が逆立ち、襟足で纏められた尻尾の様な長い髪も硬質化した様な尖りを見せる。
「これが【超勇者】だ!!」
どんな天才戦士も越えられない壁を越え、あらゆる種族の戦闘力を超越した勇者が至りし境地。
その戦闘力は、元の状態から約50倍ものパワーアップを誇るという。
そんな姿をドヤ顔で披露する神爪勇人に、氷気を纏う氷室凍夜は半眼で観てきて。
「いや・・・それ、どこぞの宇宙の戦闘民族の変身形態じゃない? 血と戦闘を好む全宇宙最強の戦士とかそういうのじゃない?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・【超勇者】ってのはアレだ。勇者とか英雄とか何か主人公がラスボスの魔王とか邪神とか何かその辺の奴に追い詰められた時に隠された才能とか今までの思い出とか親子兄弟仲間との絆パワーとかで何か金色になったり虹色になったりで光ったりして急にパワーアップして逆転大勝利希望の未来へレディゴー勇者の夢は超でっけぇ終わらないみたいな感じなるやつあるだろ? 要はアレだ」
「アレか。分かるような分からないような・・・・・・」
「因みに勇者なら誰でも【超勇者】になれるわけじゃなくてだな。身体に『勇者(B)細胞』ってのが必要でな。このB細胞が一定量に達したとき、怒りなどをきっかけに更にB細胞を爆発的に増やし体に変化をもたらせたのが超サイy―――【超勇者】だ」
「もう何も隠せてないよ君・・・・・・」
物凄く馬鹿を見るような目で氷室凍夜が見てきて、神爪勇人は無視を決め込んだ。
そうこうしている内に馬鹿二人のやり取りに目もくれてなかった赤い竜は空高く舞い上がり、膨大な魔力を発光させるその様は一つの星のように天に坐す。
そして――――――落下する。
「【凶星隕竜墜撃】‼‼‼‼‼」
星が落ちてくる。
その巨体と魔力の輝きによって、さながら巨大隕石の如く。
地上を・・・否、地球を砕かんばかりのエネルギーを迸らせながら。
それに呼応する様に、氷室凍夜も魔力と冷気を迸らせる。
掲げるその両手に冷気が形と成って凍り付き、氷結していく。
形と成るそれは・・・・・・一振りの長剣。
世界を氷河時代へと引き戻すかのような印象を抱く、絶対凍結の氷の剣。
「【全て凍て付く絶対氷結聖剣】‼‼‼‼‼」
それは、氷室凍夜が『青き惑星の調停者』に加入する前。
かつて転移で召喚された異世界で、魔王討伐の末に身につけた絶技。
世界を灼熱焦土へと変える獄炎の魔王を打ち倒した、世界を大紅蓮地獄と化しかねない氷結絶殺の剣。
空の一部が既に凍結し始めているのを目視し、神爪勇人も構えた。
両腕を左右に広げ、その双腕に回路のような文様が起動し、両掌に莫大なエネルギーが集約する。
その右手には気力が、左手には魔力が発せられており、
「【万物万象無滅覇終拳】‼‼‼‼‼」
両手を前方で組み、合わせた。
瞬間、気力と魔力の反発力を強引に融合させた事によって生み出された爆発的エネルギーが、組んだ拳を中心にその身を滾らせる。
そのエネルギーは全身を超強化し、強引に合わされた力の中心部であるその拳は、触れた万物万象を滅する終末の一撃と化す。
迸るエネルギーの爆発力に任せ、神爪勇人は落ちてくる隕石巨竜に超速で突進する。
氷室凍夜も同時に、背の羽を羽搏かせて空を翔けながら氷剣を振りかぶり襲撃を仕掛けた。
空高く、地上へと落ちる星をも砕く赤い竜を目標に、世界を凍結させる氷剣を振りかぶる氷室凍夜と、全てを無に帰す拳を繰り出して突っ込む神爪勇人。
それらを橋の上から眺めていたエリザは、ポツリと呟く。
「・・・・・・アレ、ヤバくない?」
同時刻。
この状況を橋に設置されている監視カメラをはじめ、空の状況を見れる衛星等から映像が送られている地球連邦軍極東支部伊豆基地では、観測していたオペレーターが悲鳴を上げていた。
表示されている三者のエネルギーがぶつかれば、地球どころか太陽系が消し飛ぶと。
司令を含み、息を呑む極東支部職員達だが、この場から何かが出来るはずもなく。
同じ様に状況を観測していた勢力や人員も、背筋を凍らせながら事の成り行きを見守る。
「ウルオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォッ‼‼‼‼‼」
「ハアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッ‼‼‼‼‼」
「オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォッ‼‼‼‼‼」
星を砕く巨竜の身体。
世界を氷河時代へと回帰させる氷剣。
全てを滅し無にする拳。
どれもが世界を終わらせる必殺終末の一撃。
それら三つの力が日本の上空で、衝突する。
瞬間――――――
「ストォォォォォォォオオオオオオオオッッップウウウゥゥゥゥゥッ‼‼‼‼‼」
――――――巨大な光の掌が、衝突する寸前の三者の上空に出現し、
「「「へ?」」」
バッチィィィィィィイイイイイイイイインッ‼‼‼‼‼
間の抜けた声を出す三者に向けて振り下ろされた。
ハエ叩きのように振り下ろされたその掌は、一匹の竜と二人の人間を地上へと叩き落し、彼らは四季島大橋へと直撃する。
落下場所となった橋はもう崩壊寸前で、エリザの頭にロンドン橋が過る。
何が起きたのが目を白黒させてると、横にいた大型犬プルートが鼻を鳴らし、地を軽く叩いて張っていた障壁を解除した。
思わずプルートに目がいくエリザだったが、
「よかった~、なんとか間に合って・・・・・・」
突然聞こえてきた男の声に目を移す。
目に映るのは、走ってきたのか少し汗をかいて息を乱し、くたびれた感じのスーツ姿の男。
若くも見えるし中年にも見える。
それ以外には特に特徴らしい特徴が無い、そんな胡散臭さを感じる男が現れた。




