第56話 振り回される大人達
もう日が暮れて星が空に映り出した頃。
四季島、本島共に港側は騒然としていた。
日本本島と四季島を結ぶ『四季島大橋』。
その橋が急に利用出来なくなったこと。
否、別に閉鎖されていたわけではない。
ただ、その橋を利用しようとすると不意に足が止まる、又は別の用事や忘れ物等を思い出し引き返す等、妙な現象が起きて誰もその橋を使わなくなったのだ。
それに違和感を覚えた者、或いは何か急に問題なく橋が使えるような気がした者。
そんな人達が橋を調査ないし普通に利用しようとした瞬間、橋の上空に突如出現した巨大な山ともいうべき氷塊。
それが落下しようとした時、氷塊が割れ、更には蒸発させた大きな炎の渦。
そして、突如現れた赤い竜。
橋の空に飛び回り火を噴くドラゴンに、人々はデバイスのカメラを起動させて録画や動画を撮影したりなど賑わい出す。
そんな人々からやや離れた道路上、白バイに跨りながら【望遠の魔術】を携帯端末液晶型デバイスで、空を舞うドラゴンと、それに交わって殴る蹴る魔力をぶっ放す等暴れ散らかしている2人の人間を見て、警官服を着た男は嘆息した。
そんな男の後ろに、1人の若い白バイ隊員がやってきて敬礼で声をかけた。
「牛島警部」
「あー・・・・・・わーってるよ」
牛島と呼ばれた男―――ガタイの良い中年の男はめんどくさ気に頭を掻き振り返る。
「全小隊、直ぐに発進可能です」
「いや、第1小隊だけで良い。他は通常任務に戻れ」
「は? しかし・・・・・・」
「いいんだよ。数いりゃ如何にかなるもんでもねーし・・・・・・てかたぶん必要ねーだろうし」
言って、牛島はバイクを走らせ、若い隊員も慌てて続く。
向かう先は考えるまでもなく・・・騒ぎの元である四季島大橋。
◆◆◆
四季島大橋の四季島側。
橋の近くに設置されている施設は『警察騎士団警備基地』。
飾り気の無い武骨なデザインで建設された基地にいる職員達は、現在慌ただしく動いていた。
「何故誰も気が付かなかったのかしら・・・・・・」
「・・・・・・結界が張られていたからかと」
「だとしてもよ」
四季島の治安維持組織である『警察騎士団』の業務には、島周辺の警備も含まれている。
だというのに、橋の頭上に大きな赤い竜が出現するまで、誰も異常に気付けなかったのだ。
警察騎士団警備基地副指令・・・・・・フィア・クライスラーは頭痛を堪える様に目頭を押さえ、眼鏡をかけなおす。
そんな彼女に部下は相槌を打ったが、気休めでしかなく現実は非情だ。
「橋の様子は?」
「橋は既に封鎖していますが、やはりといいますか苦情が殺到しております」
「・・・・・・通行人から?」
「はい」
「橋の通行に関して?」
「いえ、その・・・・・・」
部下は言い難そうにするが、やや躊躇った後言葉をつづけた。
「・・・・・・早くあのバカを何とかしろと」
「・・・・・・・・・・・・ハァ」
フィア・クライスラーは溜息を大きく吐きながら肩を落とした。
この島や付近で起こる騒動がみんな神爪勇人によるもの―――とは流石に言わないが、それでも多くの事件に関わっているのも事実で、また彼かと副指令の吐く溜息は重い。
重い空気が纏わりつくそんな指令室に、ドタドタと騒がしい足音が近づいてきて派手な音を立てながら部屋の扉が開かれた。
「あのバカがまた何かやらかしたって!?」
「ザムエル・・・・・・」
オールバックな髪型の中年男性がノックも無しに部屋に入ってきてはいなや、室内の壁に設置されておる大型モニターに映る赤い竜と、それと空中でドンパチやってる人間二人を睨んで唸る。
「マルクス隊長、ノックくらいはすべきかと・・・・・・」
「ま、しょうがねぇだろ。結構大事になってるっぽいしよ」
モニターを睨む男―――ザムエル・マルクスに続いて、二人の男が入室してフィア・クライスラーは「あら?」と声を漏らした。
「捜査官の貴方達が二人して・・・・・・やっぱりこの件で?」
モニターに映る赤い竜と人間二人が織りなす空中戦。
竜は口から火焔を吐き、水色の髪をした人間は氷壁でそれを防ぎ、隙をついた金髪の人間が赤竜の腹を下から殴っては尻尾を掴み、ジャイアントスイングで空高くぶん投げていた。
そんなリアルタイムの映像を見て、捜査官と呼ばれた1人・・・髪を整えて眼鏡をかけた生真面目そうな男は「いえ」と否定した。
「どちらかと言えば橋にかけられていた結界の方ですね。既に解かれているようですが・・・・・・」
「んで、こっちに向かってたら何かでっけぇドラゴンが現れて暴れてたっつー訳っすよ」
生真面目そうな男の言葉に、クセッ毛のある髪にワイルドそうな男が続ける。
「張られてた結界って、あのドラゴン関係っすか? 術者が召喚したとか・・・・・・」
「・・・・・・情けない話だけど、現状何もわかってないわ。まぁ、彼が現場に出てるなら、あのドラゴン自体は如何にかなるでしょうけど」
「・・・・・・ですが、このままアレに任せておく訳にもいかないのでは?」
「分かってるわ」
フィア・クライスラーは「ザムエル・マルクス」と名を呼び、彼も「分かってる!」と返事をしつつ踵を返して部屋を出ようとする。
「車を出す! お前らも来い‼」
「・・・・・・まぁ、状況を調べてこいと言われてますので行きますが。警備課に命令される謂れは――――――」
「まぁ、いいじゃねぇか! 細かい事は言いっこなしだぜ!」
「―――って、おい引っ張るな‼」
駆けていくザムエル・マルクス警備隊隊長に苦言を呈する生真面目捜査官を、ワイルド捜査官は隊長の後に続きつつ肩を組んで無理やり連れて行った。
嵐のように過ぎ去っていった三人に、警備基地現在の責任者である副指令フィア・クライスラーは本日何度目かの大きなため息を吐くのだった。
◆◆◆
「状況はどうなっているかね?」
場所は離れて、日本本島は静岡県が伊豆。
地球連邦軍の極東支部基地が在る此処もまた、現場付近程ではないが忙しなく職員が機器を操作していた。
「現在四季島大橋上空にて、突如出現したドラゴンと魔法使い2名が交戦中です」
極東支部司令官の問いかけにオペレーターが答え、複数の巨大モニターに現場の映像が流れる。
金髪の男がドラゴンを上空から海上へと蹴り飛ばし、落下方向にいた水色髪の男が氷で出来た巨大な槍を宙に生成し、ドラゴンを突き刺そうと穿てばドラゴンも身を翻して尻尾で巨大氷槍を叩き壊していた。
「魔法使いの一人は、『青き惑星の調停者』の一人・・・・・・氷室凍夜氏です」
モニターに映る氷室凍夜は、今度は無数の氷剣を空中に展開させて一斉放射。
だが、それらはドラゴンの口から吐かれる火焔に一掃される。
「付近に向かえる者は?」
「現在、大型魔獣討伐後の哨戒任務に当たっていた伊丹駐屯地の機動部隊が向かっています」
映像の一部が切り替わり、そこに映るは全長約20m程の大きさの人型機動兵器。
当初は宇宙歴における月面開発やコロニー開発、そして後に惑星国家建国での作業機として等に使用された機械『自動人機』。
そんな地球の機動兵器の祖とも言える人型操作機械を元に製造された人型機動兵器。
『人型自動鋼鉄鎧機』
それが現在の地球連邦軍が運用する基本的な兵器である。
そんな人型兵器が4体、背のバーニアを吹かして空を飛んでいた。
向かう先は当然、今もなおドラゴンと人間が戯れている四季島大橋。
極東支部指令は違うモニターに映る、今度は火焔ではなく魔力による極太の光線がドラゴンの口から放たれ、それを片手で空へ弾き飛ばす金髪の男を見て嘆息する。
そしてこの場にはいない、本島から現場へ向かう為に白バイを走らせている警察の機動隊中隊長と、四季島の警備基地から装甲車に乗り込みハンドルを握る警備隊長。
3人は、同じタイミングで同じ言葉を吐き出した。
「「「またあのバカか・・・・・・」」」




