余韻
黒河から返信はなかった。
メールを見返す。
《勝手になにも言わずにごめん。デビューして一段落ついたら言おうと思ってた。...東京で一緒に暮らそう》
東京って...
そんな、急に物事決められないよ。
必死に頭を抱え込む波留。
なんで、黒河は私にかまう?
会ったときも...まるで私を知っているような...。
波留は気づくべきだった。
急に渡されたチケット。
挨拶で渡したにしても、特別席なんて。
しかも、同じマンション内の人はいなかった。
数回会った人に一緒に暮らそうなんて言えない。
黒河は何か知ってる...?
思い立ったと同時にメールを綴り始める。
でも、波留は電源をオフにし、ベッドに転がった。
しばらくして、波留は眠りにつく。
ーーーーー
Rrrrrrrrr
突然鳴り出したスマホ。
時刻は深夜2時を回っていた。
波留は出るのをめんどくさがり、無視する。
一旦止んだ着信音も、数秒後にはまた鳴り出す。
【...はい!!もしもし!?】
語尾に怒りマークをつけ、乱暴に電話に出た。
【あ、俺。】
【は?俺じゃ分かんないんだけど!オレオレ詐欺ですかぁ??】
イタズラと思い、電話を切ろうとする。
すると、スマホの奥からあわてて
【おれおれ!!佐久間!!】
波留の体が固まる。
スマホをまた、耳に当てた。
【...さ...くちゃん?】
【そうそう♪さくちゃん】
電話越しでも、分かる。
さくちゃんはきっと、今。
取り返しのつかないことをしている。
【ねぇ、さくちゃん。もう、危ないことに手、出してないよね?】
返答がない。
【ねぇ!さくちゃん!もう、やめようよ!家がないなら一緒に暮らそう?仕事なら紹介するし...それに!】
【...波留。いいんだ。波留はもう、俺のために犠牲にならなくていい。...それより、黒河って奴と知り合い?すぐに、縁をきれ。俺より、取り返しのつかないことになる。】
佐久間が発した、黒河という名前。
聞き返そうとしたときにはもう、電話はきれていた。
行動に移せない。
どっちを信じればいい?
...いや、違う。
答えは決まってるんだ。
さくちゃんを信じるって。
ただ、突然のことで頭がついていかない。
確かに黒河は怪しい。
でも、あまりにも簡易的だ。
展開が早すぎる。
もし、本当にさくちゃんの言う通り、黒河に裏があったとしたら...
もう少し、慎重にやるはず。
全てが雑すぎる。
だからと言ってさくちゃんを信用しない訳じゃない。
どっちに沿えばいいか
ではなく
どっちが正しいか
だ。
ふと、あのとき送ろうとしていたメールを思い出す。
波留はゾッとした。
黒河の存在を怪しんだことを知った本人が
なにを仕出かすか分からないからだ。
Rrrrrrrrr
またもや鳴り響く着信音。
スマホの画面には
[黒河]
の文字。
異様に長く聞こえる着信音。
まるで、出ろと言わんばかりに頭に響く。
頭を抱える波留。
...どうすればいい?




