第85話 現場の答え
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翌朝。
領主館の机には。
加工所の図面が何枚も広げられていた。
昨夜。
俺は眠れなかった。
図面を見つめる。
「何度も考えて描いた」
荷揚げ場を少し下げる。
そして。
図面の端に。
一つの円を書き加えてある。
ミリアが目を輝かせる。
「水車!」
「ああ」
「昨日のお前の案だ」
ミリアは嬉しそうに笑った。
ロイドが図面を覗き込む。
「荷揚げから塩漬け。」
「塩漬けから樽詰め。」
「この高低差があればなんとかなるか」
イサクも頷く。
「建設費も」
「大きくは変わらなさそうだ」
ダレンが図面を持ち上げた。
「今度こそ」
「いけるか」
俺は図面を丸める。
「現場で確かめよう」
◇◇◇
川沿いの小屋。
ダンは網を干していた。
「また来たか」
「答えは見つかったか」
俺は図面を見せる。
「予定地を」
「もう一度見たい」
ダンは図面を眺める。
「俺は建物のことは分からん」
「聞きたいのは」
「川のことだ」
ダンは黙って頷いた。
◇◇◇
一行は船で川を遡る。
ダンが櫂を握る。
「ここまでは」
「荷を積んでも来られる」
さらに進む。
船底が川底を擦った。
ガリッ。
鈍い音が響く。
「ここまでだ」
「これ以上は」
「難しい」
全員が岸へ上がる。
◇◇◇
予定地。
ダレンが縄を張る。
ロイドが図面を見ながら杭の位置を決める。
俺は一本ずつ杭を打つ。
「ここが荷揚げ場」
「ここが塩漬け」
「ここが樽詰め」
ミリアが水車の位置を指差した。
「ここなら」
「水も上げられます」
ロイドも頷く。
「工程は回る」
イサクが周囲を見渡した。
「昨日より」
「建つ気がしてきたな。」
俺も頷いた。
ようやく。
形が見えてきた。
◇◇◇
「領主さんよ」
ダンが川岸へ歩いていく。
「春は」
「ここまで水が来る」
足元を指差した。
全員の顔色が変わる。
そこは。
荷揚げ場だった。
ロイドが低く呟く。
「全部」
「流される」
俺は杭を一本抜く。
「なら」
「上へ」
◇◇◇
縄を張り直す。
杭を打ち直す。
ダレンが頷く。
「これなら」
ダンは首を横に振った。
「高い」
「船が着けられねえ」
イサクが言う。
「水車を大きくすれば」
ロイドは静かに首を振る。
「そうとう大きな水車が必要だな」
「それじゃ、春は良くても」
「他の季節が駄目だ」
俺は図面へ目を落とした。
答えが出ない。
◇◇◇
何箇所か他の候補地も回った。
最適な候補地は最初の場所のようだ。
一度、領主館に戻り図面を描き直す。
それでも。
どこかを直せば。
別のどこかが破綻する。
ロイドが座り込む。
「領主」
「図面は悪くねえ」
「だが」
「最初の水の流れ」
「どこから流すかが解決できない」
「建たねえ」
イサクが何枚もの図面を見つめたまま言う。
「商売なら金で動く」
「だが川は動かんな」
イサクは苦笑した。
「川も生き物だ」
「形を変える」
ダンが呟いた。
誰も。
言葉を失った。
俺は図面を握り締める。
ここまで考えても。
答えが見つからない。
初めてだった。
◇◇◇
その時だった。
ダレンが部屋の扉を開ける。
「ヴォルグ様がお着きになりました」
廊下を歩く足音が。
こちらへ近づいてくる。
ヴォルグの後ろを一人の男が着いてくる。
部屋に入ると、その男は。
俺たちの顔を見回した。
五十代ほど。
日に焼けた顔。
肩には墨壺。
腰には差し金。
誰にも挨拶をしなかった。
図面を見る。
ヴォルグが口を開く。
「どうやら」
「その様子じゃ」
「状況は厳しいようだな」
そして。
俺たちの顔を見回した。
誰一人。
笑っていない。
俺は小さく頷いた。
「ああ。」
男は。
何も言わなかった。
ただ。
「現場に連れて行ってくれ」
男はそう言うと。
何枚もある図面の中から。
迷うことなく。
一番最初の図面だけを手に取った。
俺たちは。
その理由が分からなかった。
最初の図面だ。
ヴォルグが小さく笑った。
「こやつはな」
「図面より先に」
「土地を見る男じゃ」
(第86話 水の棟梁)
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