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 経営企画部長、地下鉄で居眠りしたら税収銀貨八枚・借金金貨十二万枚の辺境領主になっていた。  ~不正を告発したら追放された。王国は私に頭を下げることになる  作者: 幸善さち
第2章 最初の帳簿

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第8話 最初の資産

※この作品は毎日更新予定です。

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 第8話 最初の資産


 翌朝。


 広場の端に、ゴブリンの死体が積み上げられていた。


 昨日の戦果だ。


「レオン様」


 ダレンが近づいてきた。


「処分は、どういたしますか」


「処分」


「はい」


「なぜ処分する」


 ダレンが固まった。


「え?」


「ゴブリンですよ」


「だからだ」


 俺は死体の山を見た。


「捨てるな」


 広場が静まり返った。


「ですが、魔物の死体です」


「だから何だ」


「腐ります」


「なら、腐る前に売る」


 今度は全員が固まった。


 どうやら、誰も考えたことがなかったらしい。


「ダレン」


「はい」


「この国に冒険者はいるか」


「おります」


「魔物を討伐したら、何を持ち帰る」


「討伐証明として、耳を持ち帰ります」


 予想どおりだ。


「耳はいくらになる」


「ゴブリンなら、銅貨三枚ほどです」


「それだけですか」


 ミリアが顔をしかめた。


「ああ」


 俺は頷いた。


「だが、重要なのは金額じゃない」


「え?」


「売上を作ることだ」


 誰も、言葉を返せなかった。


 彼らにとって、魔物は災害だ。


 だが、数字で見れば商品だった。


「耳を切れ」


 広場が、静まり返った。


 誰も動かなかった。


 ゴルドが、前に出た。


「あれで、弟が死んだ」


「知っている」


「それを、金に換えるのか」


 広場の空気が止まった。


 ミリアが、俺を見る。


 俺は、ゴルドを見た。


「換える」


「……」


「借りた油を、冬の初日までに返すと紙に書いた」


 俺は、死体の山を指差した。


「返す手段が、いまそこにある」


 ゴルドは、長く黙っていた。


 それから、山へ歩いていった。


 ナイフを抜く。


 誰かが続いた。


 また一人、続いた。


「エミル」


「はい」


「数えろ」


「……数えるんですか」


「一つ残らずだ」


 エミルが走ってきた。


 ミリアが帳簿を開く。


 一昨日の日付の下に、今日の数字が並んでいく。


「私もですか」


 ミリアが青い顔をした。


「もちろんだ」


「嫌です」


「借金十二万枚だぞ」


「……レオン様のです」


「そうだ」


 俺は答えた。


「だから、返す」


 ミリアは、しばらく俺を見ていた。


 それから、袖をまくった。


 昼過ぎ。


 集めた耳は、山になった。


「二百三十一です」


 エミルが言った。


 俺は、手を止めた。


「もう一度」


「二百三十一です。片方しかないのが、一体いました」


 百十六体。


 報告は、五十匹以上だった。


 昨日、俺が崖の上で見た印象は、六十か七十。


 倍だ。


「ダレン」


「はい」


「これまでの襲撃で、数えたことは」


「……ありません」


「一度も」


「一度も」


 なるほど。


 この十年、誰も数えていなかった。


 だから、増えていることに気づかなかった。


 次に来る数を、いま初めて予想できる。


 さらに、ゴブリンリーダーの巨大な牙。


 厚い皮。


 鋭い爪。


「ダレン」


「はい」


「この近くで一番大きな市場は」


「南へ半日ほどの、港町ラングです」


「今日中に間に合うか」


「急げば」


「馬車は」


「ありません」


「借りる」


「金がありません」


「交渉する」


「交渉材料は」


 俺は、ゴブリンの山を指差した。


「担保だ」


 ミリアが、頭を抱えた。


「……また、ですか」


「まだ始まってもいない」


 だが、俺は本気だった。


 経営とは、資源を金に変える作業だ。


 そして、この領地には資源がある。


 誰も資源だと思っていないだけで。


「エミル」


「はい」


「崖の上の油は」


「五つ、手つかずで残っています」


「村へ戻せ」


「はい」


「ミリア。返済の欄を作れ」


「もう作りました」


 十四のうち、五つが返る。


 残りは九つだ。


 俺は牙を手に取った。


 ずっしり重い。


「これは、高く売れるかもしれません」


 ダレンが言った。


「いくらだ」


「分かりません」


「いい答えだ」


「え?」


「分からないなら、市場が決める」


 商売の基本だ。


 値段は原価ではない。


 需要で決まる。


 出発の前に、北の墓地へ寄った。


 盛り土が、一つ増えている。


 俺は帳簿を開いた。


 一昨日の日付の下に、ヨナスの名前がある。


 その下に、今日の数字を書いた。


 耳、二百三十一。


 いま書けるのは、それだけだった。


 顔を上げると、北の海が見えた。


 凍らない入り江。


 手つかずの海岸線。


 なぜ、誰も使っていないのか。


 少し調べる必要がありそうだ。


「レオン様?」


 ミリアが首を傾げた。


「どうしました」


「いや」


 俺は帳簿を閉じた。


「まずは売上だ」


 資産は見つかった。


 それを金に変えるだけだ。


(第9話 最初の売上)


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