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 経営企画部長、地下鉄で居眠りしたら税収銀貨八枚・借金金貨十二万枚の辺境領主になっていた。  ~不正を告発したら追放された。王国は私に頭を下げることになる  作者: 幸善さち
第一部 北方辺境領バルド/第1章 追放

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第7話 勝率八割

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第7話 勝率八割


 ゴブリンリーダーが咆哮した。


 片腕を失ってなお。


 血を流してなお。


 その巨体が、こちらへ進んでくる。


「レオン様」


 ゴルドの声がした。


 震えてはいなかった。


「勝てるのか」


「勝率は八割だ」


「どうやって計算したんですか」


 ミリアが横で聞いた。


「勘だ」


「勘なんですか」


 そうは言ったが、実際は違う。


 片腕損失。


 足に負傷。


 大量出血。


 疲労。


 対して、こちらは十二人。


 十分に勝てる数字だ。


「ゴルド」


「なんだ」


「右へ回れ」


「右か」


「あれは右腕を失っている」


 ゴルドの目が変わった。


「左は危険だ。だから右を取れ」


 ゴルドが走った。


 ゴブリンリーダーが気づく。


 だが、追えない。


 足が遅くなっている。


 それだけで、十分だった。


「レオン様!」


 ダレンが叫ぶ。


 ゴブリンリーダーが棍棒を振り上げた。


 そして、一直線に突っ込んでくる。


 俺は動かない。


 ぎりぎりまで。


 引きつける。


 槍は、ほとんど構えていなかった。


 構えても意味がない。


 俺の役目は、当てることではない。


 あれの視線を、こちらに固定することだ。


「今だ」


 横へ飛んだ。


 巨体が、そのまま倒木へ激突する。


 鈍い音が響いた。


 体勢が崩れる。


 そこへ。


 ゴルドが飛び出した。


 声は上げなかった。


 槍が走る。


 一閃。


 穂先が、首へ突き刺さった。


「続け!」


 俺は叫んだ。


 槍が一斉に突き出される。


 血が舞う。


 巨体がよろめく。


 そして、倒れた。


 地面が揺れた。


 静寂が訪れる。


 誰も動かない。


 本当に終わったのか。


 数秒後。


 誰かが呟いた。


「勝った……」


 その瞬間、歓声が爆発した。


「勝ったぞ!」


「倒した!」


「助かった!」


 泣き出す者。


 抱き合う者。


 空へ叫ぶ者。


 ダレンの目に、涙が浮かんでいた。


「十年ぶりです」


「何がだ」


「村人が笑ったのは」


 俺は、少し黙った。


 十年。


 それだけ長く、この土地は負け続けてきた。


 魔物に。


 貧困に。


 そして、諦めに。


 ゴルドは、笑っていなかった。


 槍を引き抜いて、穂先の血を拭っている。


 それから、北の墓地のほうを一度だけ見た。


 俺は、何も言わなかった。


 言うことが、なかった。


「レオン様」


 ミリアが駆け寄ってきた。


「……やりましたね」


「ああ」


「初勝利です」


「ああ」


「もっと喜んでください」


 俺は首を振った。


「まだだ」


「またですか」


 ミリアが、呆れた顔をした。


 四日ぶりに見る顔だった。


「そういえば、勝率八割って何だったんですか」


「ああ」


 俺は死体を見た。


「片腕損失」


「はい」


「足に負傷」


「はい」


「大量出血」


「はい」


「そこまでは計算できた」


「残り二割は」


「現場リスクだ」


「現場リスク?」


「俺が踏み潰される確率だな」


 ミリアが固まった。


「……全然笑えません」


 住民たちから、笑い声が上がった。


「ゴブリンは片付いた」


 俺は言った。


「だが、借金は一枚も減っていない」


 男たちが、黙った。


 そうだった。


 ゴブリンを倒しても、金貨一枚も返せない。


 崖に引いた油も、まだ村に返していない。


「明日から働く」


 一瞬の沈黙。


 そして、ミリアが頭を抱えた。


「せめて一日、休ませてください」


 笑い声が、辺りに広がった。


 俺も、少しだけ笑った。


 悪くない。


 だが、本番はここからだ。


 ゴブリン退治は、経費削減に過ぎない。


 ふと、ダレンの言葉を思い出した。


 ゴブリンは、廃れた土地に湧く。


 なら。


 この土地が、もう一度立ち上がれば。


 奴らは、来なくなるのだろうか。


 馬鹿げた考えだ。


 だが、なぜか忘れられなかった。


 利益を生む仕組みは、まだ何一つない。


 俺は、北の海を見た。


 あの入り江。


 あれが、最初の資産になる。


 そんな気がしていた。


(第8話 最初の資産)


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