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「不正を告発したら辺境に追放された。三年後、王国は私に頭を下げることになる  作者: 幸善さち


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第7話 勝率八割

 ゴブリンリーダーが咆哮した。

 片腕を失ってなお。

 血を流してなお。

 その巨体は村へ向かって進んでくる。

「レオン様……」

 ハンスの声が震えていた。

 無理もない。

 二十年以上生きてきて、あんな化け物と戦った

ことなどないのだろう。

「心配するな」

 俺は答えた。

「勝率は八割だ」

「どうやって計算したんですか?」

 ミリアが呆れた声を出す。

「勘だ」

「勘なんですか!?」

 そうは言ったが、実際は違う。

 片腕損失。

 足に負傷。

 大量出血。

 疲労。

 対してこちらは十二人。

 十分に勝てる数字だ。

「ハンス」

「はい!」

「右へ回れ」

「右ですか?」

「あいつは右腕を失っている」

 ハンスの顔が変わった。

 理解したらしい。

「左側は危険だ」

「はい!」

「だから右を取れ」

 ハンスが走る。

 ゴブリンリーダーが気付く。

 だが追えない。

 足が遅くなっている。

 それだけで十分だった。

「レオン様!」

 グランが叫ぶ。

 ゴブリンリーダーが棍棒を振り上げた。

 そして一直線に突っ込んでくる。

 俺は動かない。

 ギリギリまで。

 引きつける。

 そして。

「今だ」

 横へ飛ぶ。

 ゴブリンリーダーの巨体がそのまま倒木へ

激突した。

 鈍い音が響く。

 体勢が崩れる。

 そこへ。

「うおおおおお!」

 ハンスが飛び出した。

 槍が走る。

 一閃。

 穂先が首へ突き刺さった。

「全員!」

 俺は叫んだ。

「続け!」

 十二本の槍が一斉に突き出される。

 血が舞う。

 巨体がよろめく。

 そして倒れた。

 大地が揺れる。

 静寂が訪れた。

 誰も動かない。

 信じられなかった。

 本当に終わったのか。

 本当に勝ったのか。

 数秒後。

 ハンスが震える声で呟いた。

「勝った……」

 その瞬間だった。

 歓声が爆発した。

「勝ったぞ!」

「ゴブリンリーダーを倒した!」

「助かった!」

 泣き出す者。

 抱き合う者。

 空へ向かって叫ぶ者。

 村中が歓喜に包まれる。

 グランの目には涙が浮かんでいた。

「十年ぶりです……」

「何がだ?」

「村人が笑ったのは」

 俺は少しだけ黙った。

 十年。

 それだけ長く、この領地は負け続けてきたのだ。

 魔物に。

 貧困に。

 そして諦めに。

「レオン様!」

 ミリアが駆け寄ってくる。

「やりましたね!」

「ああ」

「初勝利です!」

「ああ」

「もっと喜んでください!」

 俺は首を振った。

「まだだ」

「またですか!?」

 ミリアが呆れた顔をする。

 そして思い出したように聞いた。

「そういえばレオン様」

「なんだ」

「勝率八割って何だったんですか?」

「ああ」

 俺はゴブリンリーダーの死体を見た。

「片腕損失」

「はい」

「足に負傷」

「はい」

「大量出血」

「はい」

「そこまでは計算できた」

 ミリアが頷く。

「残り二割は?」

「現場リスクだ」

「現場リスク?」

「俺が踏み潰される確率だな」

 ミリアが固まった。

「え?」

「だから八割だ」

「全然笑えません!」

 住民たちから笑い声が上がった。 


 どうやらミリアの反応に慣れてきたらしい。

「ゴブリンは片付いた」

 俺は言った。

「だが借金は一枚も減っていない」

 広場が静まり返る。

 そうだった。

 ゴブリンを倒しても。

 金貨一枚の借金も返せない。

「明日から働くぞ」


 一瞬の沈黙。

 そして。

 ミリアが頭を抱えた。

「せめて一日くらい休ませてください!」

 笑い声が広場に広がった。

 俺も少しだけ笑う。

 悪くない。

 だが本番はここからだ。

 ゴブリン退治は経費削減に過ぎない。

 利益を生む仕組みは、まだ何一つない。

 俺は北の海を見た。

 あの入り江。

 あれが最初の資産になる。

 そんな気がしていた。



(第8話 最初の資産)



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