第6話 赤字部門を切る
ゴブリンリーダーは動かなかった。
赤い目でこちらを睨みながら。
倒木の向こうで立ち尽くしている。
片腕は潰れていた。
血も流れている。
だが戦意は失っていない。
「レオン様」
グランの声が震えていた。
「これは想定外です」
「ああ」
「どうしますか」
「簡単だ」
俺は答えた。
「赤字部門を切る」
グランが固まった。
ミリアも固まった。
「相手はゴブリンです」
「知っている」
「部門ではありません」
「同じことだ」
俺はゴブリンリーダーを見ながら言った。
「あいつだけ異常にコストを使っている」
「コスト?」
「食料だ」
ミリアが眉をひそめる。
「食料?」
「あの体を維持するには普通のゴブリンの何倍もの
食料が必要だ」
「そうなんですか?」
「たぶんな」
「たぶんですか!?」
まあ正確には知らない。
だが間違ってはいないはずだ。
大きい個体ほど資源を消費する。
生き物も会社も同じだ。
「つまり利益率が悪い」
「だから利益率で考えないでください!」
ミリアのツッコミを無視する。
だが、本当に重要なのはそこじゃない。
強さではない。
行動が読めるかどうかだ。
俺は一本道を見た。
まだ使っていない岩が残っている。
倒木もある。
そして。
地面には大量のゴブリンの死体。
「グラン」
「はい」
「ゴブリンリーダーは頭が良いか?」
「普通のゴブリンよりは」
「なら助かった」
俺は頷いた。
頭が悪い相手より楽だ。
行動が読める。
「全員下がれ」
住民たちがざわつく。
「ですが!」
「下がれ」
俺はもう一度言った。
「ここから先は数字の問題だ」
誰も意味がわからない顔をしていた。
まあ当然だ。
だが説明する時間はない。
ゴブリンリーダーはもう目の前まで来ている。
棍棒を引きずりながら。
赤い目でこちらを睨みながら。
そして。
突然走った。
「来るぞ!」
グランが叫ぶ。
地面が揺れる。
巨体とは思えない速度だった。
一直線。
真っ直ぐこちらへ向かってくる。
だが。
予想通りだ。
「今だ」
俺は指を鳴らした。
次の瞬間。
ドオオオオン!!
崖の上から巨大な岩が落ちた。
住民たちが最後まで運びきれなかった岩。
いや。
運ばなかった岩だ。
俺は最初から残していた。
ゴブリンリーダーのために。
岩が地面を砕く。
土煙が舞う。
住民たちが歓声を上げた。
「やった!」
「潰した!」
「勝った!」
だが。
俺は首を振った。
「いや」
歓声が止まる。
「まだだ」
土煙の向こう。
巨大な影が立ち上がる。
片腕は潰れていた。
血も流れている。
だが生きている。
「そんな……」
グランが絶望した顔になる。
だが。
俺はむしろ安心した。
これでいい。
十分だ。
片腕。
負傷。
移動速度低下。
戦闘能力低下。
数字が改善している。
「レオン様」
ミリアが呟く。
「何ですか、その評価」
「勝率だ」
俺は答えた。
「最初より上がった」
ゴブリンリーダーが咆哮する。
そして再び前へ出る。
だが。
今度は足を止めた。
目の前には倒木。
横には崖。
そしてこちらには十二人。
考えているのだ。
突破する方法を。
「なるほど」
俺は笑った。
「やっぱり頭が良い」
「褒めている場合ですか?」
「褒めていない」
「グラン」
「はい」
「村で一番槍が上手いのは誰だ?」
グランは即答した。
「ハンスです」
二十代前半ほどの若者が前へ出た。
顔は青い。
だが逃げてはいない。
「ハンス」
「は、はい!」
「俺が動きを作る」
ハンスが目を丸くする。
「隙ができたら首を狙え」
「首を……」
「できるか?」
ハンスは震える手で槍を握り直した。
そして小さく頷く。
「やります」
「よし」
俺は地面に転がっていた槍を一本拾った。
この世界に来て初めて武器を持つ。
重い。
扱いづらい。
たぶん強くない。
だが問題ない。
勝負はもう終わっている。
必要なのは最後の確認だけだ。
「全員聞け」
住民たちがこちらを見る。
「勝つぞ」
その言葉に。
今度は誰も笑わなかった。
(第7話 勝率八割)
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