第6話 赤字部門を切る
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第6話 赤字部門を切る
ゴブリンリーダーは、動かなかった。
赤い目でこちらを睨みながら、倒木の向こうに立っている。
片腕が潰れていた。
血も流れている。
だが、戦意は失っていない。
「レオン様」
ダレンの声が震えていた。
「これは想定外です」
「いや」
俺は答えた。
「想定に入れられなかっただけだ」
あれが姿を見せたのは、ほんの少し前だ。
計算は、その前に終わっていた。
想定外と、間に合わなかったは、別のものだ。
「どうしますか」
「簡単だ」
俺は言った。
「赤字部門を切る」
ダレンが固まった。
「相手はゴブリンです」
「知っている」
「部門では、ありません」
「同じことだ」
俺はゴブリンリーダーを見た。
片腕が動いていない。
右足を、引きずっている。
血が、止まっていない。
「一番高くついている部分から、削る」
「ダレン」
「はい」
「あれは頭がいいか」
「普通のゴブリンよりは」
「なら助かった」
頭が悪い相手より、楽だ。
読める。
「全員、下がれ」
住民たちがざわついた。
「ですが!」
「下がれ」
俺はもう一度言った。
「ここから先は、数字の問題だ」
誰も意味が分からない顔をしていた。
当然だ。
説明している時間はない。
ゴブリンリーダーが、倒木の手前で足を止めた。
崖を見上げる。
登れないと判断したらしい。
そして、道の端へ寄った。
倒木と崖のあいだに、わずかな隙間がある。
その先は、村だ。
背筋が冷えた。
村には、女と子供と老人が戻っている。
「崖を下りる」
「え?」
「上にいても、抜けられたら止められない」
俺は斜面を滑り下りた。
十一人が続く。
道の村側の出口に、横一列に並んだ。
ここから先へは、通さない。
ゴブリンリーダーが、突然走った。
「来るぞ!」
ダレンが叫ぶ。
地面が揺れた。
巨体とは思えない速度だった。
一直線。
まっすぐ、こちらへ向かってくる。
道は一本。
左右は崖。
朝から、そう作ってある。
「エミル」
「はい!」
「あの岩だ」
エミルが縄を切った。
昼に、動かすなと言った岩だ。
運べなかったから残ったのではない。
運ばせなかった。
ドオオオオン!!
崖の中腹から、岩が落ちた。
地面が砕ける。
土煙が舞う。
住民たちが歓声を上げた。
「やった!」
「潰した!」
だが、俺は首を振った。
「まだだ」
歓声が止まる。
土煙の向こうで、巨大な影が立ち上がった。
片腕が潰れている。
足を引きずっている。
血が流れている。
だが、生きていた。
「そんな……」
ダレンが絶望した顔になる。
だが、俺はむしろ安心した。
これでいい。
片腕。
負傷。
移動速度の低下。
数字が、改善している。
「レオン様」
ミリアが呟いた。
「何ですか、その数え方」
「勝率だ」
俺は答えた。
「朝より上がった」
ゴブリンリーダーが咆哮する。
そして、前へ出た。
だが、足を止めた。
目の前には倒木。
左右は崖。
こちらには十二人。
考えている。
突破する方法を。
「やはり、頭がいい」
俺は言った。
考える相手は、読める。
「ダレン」
「はい」
「村で一番、槍が使えるのは誰だ」
ダレンは即答した。
「ゴルドです」
ゴルドが前に出た。
肩の古い傷が、上着の下で動く。
顔は青くなかった。
今朝、弟を埋めた男の顔だった。
「ゴルド」
「なんだ」
「俺が動きを作る」
ゴルドが、こちらを見た。
「隙ができたら、首を狙え」
「できるのか、あんたに」
「分からない」
俺は正直に答えた。
「だが、あれは俺を狙う」
「なぜだ」
「先頭に立っているからだ」
群れを率いる個体は、群れを率いる個体を狙う。
たぶん、そうだ。
根拠はない。
だが、賭ける価値はある。
ゴルドは、少し黙っていた。
それから、槍を握り直した。
「死ぬなよ」
「努力する」
俺は、地面に転がっていた槍を拾った。
この世界へ来て、初めて武器を持つ。
重い。
扱いづらい。
たぶん、まともに振れもしない。
だが、構わない。
昨夜、俺は自分を十二人目に数えた。
紙に書いた。
書いた以上は、立つしかない。
「全員、聞け」
住民たちが、こちらを見る。
「ここで終わらせる」
今度は、誰も笑わなかった。
(第7話 勝率八割)
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