第79話 バルドの投資家たち
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領主館の外へ出た。
そこには。
人。
人。
人。
百人を超える住民が集まっていた。
誰も帰ろうとしない。
「何があった」
俺が尋ねると。
人垣が静かに割れた。
前へ出てきたのは。
ダンだった。
あの日からダンは街に戻っている。
「領主さん」
「あんた」
「加工所を建てるんだろ」
俺は目を細めた。
「誰から聞いた」
ダンは笑う。
「町じゃ隠し事はできねぇ」
思わず苦笑する。
田舎の噂話はSNSより早い。
前世でも。
そんな会社はあった。
「まだ決まったわけじゃない」
「金が足りない」
俺は正直に答えた。
ダンは頷く。
「知ってる」
「だから来た」
そう言うと。
後ろを振り返った。
「おい」
「話せ」
一人の大工が前へ出る。
「加工所なら」
「俺たち大工が建てる」
「工賃はいらねぇ」
続いて。
木こりが前へ出た。
「木は山から切り出す」
「好きなだけ使え」
鍛冶屋が腕を組む。
「金具も俺が打つ」
「代金は後でいい」
荷馬車屋が笑う。
「運ぶのは任せろ」
「運賃なんか取らねぇ」
最後に。
漁師たちが一歩前へ出た。
「重い石も木材も」
「俺たちが運ぶ」
「力仕事なら負けねぇ」
ミリアが目を丸くする。
「みなさん……」
誰一人。
冗談ではなかった。
俺は静かに首を振る。
「駄目だ」
「生活があるだろう」
ダンが一歩踏み出した。
「あるさ」
「だから生活できる分は働く」
「空いた時間は全部」
「加工所だ」
俺は言葉を失う。
ダンは俺を真っすぐ見た。
「十年前」
「俺たちは過ちを犯した」
「疑う相手を間違えた」
「恨む相手も間違えた」
「そして」
「町を失った」
静まり返る。
一人の農家が口を開く。
「もう」
「同じ過ちはしねぇ」
鍛冶屋が頷く。
「今度は」
「領主一人に戦わせねぇ」
木こりも続く。
「この町は」
「俺たちの町だ」
漁師たちが拳を握る。
「だったら」
「俺たちも働く」
誰かが叫んだ。
「そうだ!」
その声が広がる。
「俺も!」
「私も!」
「うちの息子も行かせる!」
広場が歓声に包まれた。
俺は帳簿を開く。
工賃。
運搬費。
木材費。
一つずつ線を引く。
数字を書き直す。
ミリアが息を潜める。
「レオン様……」
計算が終わった。
俺は静かに言う。
「百五十金貨」
「削れる」
歓声が上がる。
だが。
俺は笑わなかった。
新しい数字を書く。
加工所建設 千金貨
住民協力 ▲百五十金貨
必要資金 八百五十金貨
見込み資金 五百金貨
不足 三百五十金貨
ダレンが帳簿を見つめる。
「まだ……」
「ああ」
俺は頷いた。
「残り三百五十金貨だ」
住民たちも。
静かになった。
誰も諦めてはいない。
だが。
誰も答えは持っていなかった。
俺は帳簿を閉じる。
「残り三百五十金貨」
「これをどうするかだな」
その時だった。
人垣の外から。
人をかき分けてくる男がいた。
ロイドだった。
その後ろには。
見知らぬ恰幅の良い男が立っていた。
80話 見知らぬ男
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