第74話 戦いの準備
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バルドへ戻ったのは夕方だった。
翌朝、山の漁師たちに会いに行く。
「嫌な予感していました」
「こんなに早く行く必要あります?」
ミリアはいつもの調子だ。
俺の頭の中にあったのは。
どうやって。
あいつを逃がさないか。
「聞いてますか」
「レオン様も眠いでしょ」
眠い。
俺ももっと寝たい。
しかしそんな時間はない。
今日の午後、やつが来る。
ミリアに流されないよう集中だ。
証拠不足ではないか。
やつが十年前の首謀者だとしたら。
それを決定付ける証拠がまだ足りない。
王都に訴えるにしてもどこに。
財務省は不正の温床だ。
「たまにはダンさんに」
「来てもらえば良いじゃないですか」
「ん?」
「そうか」
ミリアは立ち止まる。
「何か変なこと言いました」
「そうだ」
「ダンに街に来てもらう」
「妙案でしょ」
「でも、もう今日は仕方ないですけどね」
そうだ。
ダンにやつの顔を。
見てもらえば。
そして、返済の受取書にサインさせれば。
十年前の書類と照合すれば。
十年前の男がやつだとわかる。
◇◇◇
「戻ったか」
ダンは小屋にいた。
俺は黙って頷く。
「話がある」
「分かった」
俺達はテーブルの前に座る。
俺は机に書類を広げた。
補助金申請書。
ラングの契約書。
十年前のバルドの書類。
そして。
ラングで見た書類。
ダンは黙って見ていた。
紋章の男の話をした。
そして、これからの計画を話した。
◇◇◇
「……やっと」
ダンが呟いた。
「この日が来たか」
「十年前」
「あいつが来た日から」
「バルドの町が、鮭が」
「ああなってしまった時から」
部屋が静まり返った。
「俺はいつかラングに」
「そして王都に復讐しようと考えていた」
「でも、この前はそんなこと言ってませんでしたよね」
ミリアが聞く。
「ああ」
ダンは続ける。
「確証はない」
「それに」
「俺達には鮭を増やすしか知恵はない」
ミリアが何かを言おうとした。
ダンが遮る。
「だが、失敗はできない」
「失敗は終わりを意味する」
俺はゆっくりと頷く。
「あんたは良くやった」
「最初、小屋に来た時は」
「きれい事だけだろうと思っていた」
「前の領主もそうだったからな」
「え!」
ミリアが驚く。
「そうだ」
「あの金の存在も」
「前の領主から聞いた」
「やつは」
「自分が利用されたことを悔いていた」
「だが」
「結局何もできなかった」
「しかし、あんたは違う」
「からくりを証明しただけでなく」
「未来も描いている」
「そして、奴が来る」
俺は息を呑んだ。
ダンは頷いた。
「やろう」
「だが」
「失敗は許されない」
俺は黙った。
そうだ。
こいつは十年間。
毎日。
海を見て。
そして。
この日を待っていた。
◇◇◇
「どうする」
ダンが聞いた。
俺は答えた。
「証拠を取る」
「本人のな」
「確認してもらう」
「あんたに本人かどうか」
「そして書類にサインさせ本人確認をする」
「何の書類だ」
ダンが不意に聞いてくる。
「返済金の受取書だ」
今日の午後。
バルドの領主館に。
紋章の男が来る。
十年前と同じように。
来てもらおう。
「まて」
ダンが立ち上がった。
窓の外を見る。
「やつは」
「その紙には署名しない」
「どういうことだ」
ダンはゆっくり振り返った。
そして。
十年ぶりに。
笑った。
「安心しろ」
「俺は」
「あいつの欲しいものを知っている」
部屋が静まり返った。
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(第75話 十年越しの契約)
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