第72話 十年前のカルテルの真相
ロイドに促され、俺たちは事務所に戻った。
ミリアも当然のようについてくる。
「推理のお時間ですね」
「まだ推理じゃない」
「では何ですか」
「確認だ」
「ほぼ同じです」
元気だった。
◇◇◇
事務所の椅子に座る。
ロイドは書棚の書類を探し始める。
「加工所建設はラングが希望したのか」
「いや、王都からの打診だった」
ロイドは探しながら答える。
「俺たちは当時、そんな大きなものを作っても」
「魚がないと伝えた」
「そしたら、魚はある」
「とその役人に言われた」
「あった」
補助金申請書。
契約書。
「それとついでにこれもだ」
買付記録。
売上帳簿。
この二つの書類は今は重要ではない。
見たいのは、申請書と契約書だ。
しかも、確認事項は一つ。
「同じだ」
「それはそうだろう」
「同じ役人が持ってきたんだ」
「いや」
俺は書類を見つめたまま続ける。
「バルドの補助金の書類と同じサインだ」
ロイドの書類を整理する手も止まる。
「このサインした役人」
「Fという紋章が入った役人と同じか」
「そうだ」
財務官。
背格好は俺と同じ。
俺より少し若い。
そいつがこの絵を描いた。
少なくとも関係している。
しかし、バルドの書類と同じく名前が見えない。
ただ、一歩真相に近づいたことは間違いない。
「鮭の原料の買付契約書に役人がサインするのは
おかしい」
「民間の取引だ」
「それは当時俺も鮮明に覚えている」
ロイドが当時のことを話す。
「お前が最初に商会に来た時にも話したが」
「役人が来た時、俺たちに選択肢はなかった」
「断る選択肢はなかったんだ」
「ああ、覚えている」
「しかし、今もその契約は有効だ」
その後、残り二つの書類に目を通す。
ロイドは黙って待っていた。
ミリアも珍しく黙って待っている。
やがて。
俺は一枚の帳簿の上で手を止めた。
「……なるほど」
ロイドが顔を上げる。
「何か分かったか」
「ああ」
俺は頷いた。
「全部つながった」
俺は契約書を机に置いた。
「まず」
「十年契約」
「指定された鮭を全量購入」
「価格は固定」
ロイドは頷く。
「ああ」
「普通の商売ではない」
俺は即答した。
「次だ」
俺は補助金申請書を広げた。
「この加工所」
「大きすぎる」
ロイドは苦笑した。
「今となってはな」
「違う」
俺は首を振った。
「建設当時からだ」
部屋が静まり返った。
「考えてみろ」
俺は帳簿を指差した。
「バルド」
「東部」
「北西部」
「さらに北方沿岸」
「全部の鮭が集まっている」
ロイドの顔色が変わった。
「……」
「あんたは」
俺は続けた。
「この加工所を建てたんじゃない」
「建てさせられたんだ」
ミリアが息を呑んだ。
「どういうことですか」
「簡単だ」
俺は答えた。
「最初から計画されていた」
「北方の鮭を」
「ここで独占加工する計画だ」
十年前。
バルドの鮭は銀貨四枚。
他の地域は銀貨七枚。
その差額。
三銀貨。
俺は帳簿を閉じた。
「誰かが儲けている」
「待て」
ロイドが口を開く。
「それは俺たちラングの商人だ」
「俺たちが儲けた」
「なぜそうなったか」
「バルドは従わなかった」
「ああ」
俺は頷いた。
「だから潰された」
ロイドが立ち上がった。
「……!」
俺は続けた。
「しかも、ラングの商人を使って」
「真相を知るラングも加担したとなっては」
「何も言わないだろうと思ったのだろう」
「補助金」
「契約」
「商人」
「価格」
「全てが最初から描かれていた」
◇◇◇
部屋が静まり返った。
十年前。
バルドは抵抗した。
ラングは従った。
そして。
両方とも負けた。
ロイドは椅子に座り直した。
「俺は」
その声は小さかった。
「加害者なのか」
俺は首を振った。
「違う」
ロイドが顔を上げた。
「利用された」
「そして」
「利用した」
ロイドは目を閉じた。
「……そうか」
俺は最後の帳簿を手に取った。
そして。
違和感に気づいた。
「これは何だ」
ロイドが顔を上げる。
「どうした」
俺は帳簿を見せた。
「三か月後」
「返済期限?」
ロイドの顔色が変わった。
「ああ」
ロイドは苦笑した。
俺は帳簿を閉じた。
十年前の真相は見えた。
だが。
過去を暴く前に。
まず。
目の前の数字を何とかしなければならない。
そして。
その時。
扉が叩かれた。
ドンドン。
工場長が飛び込んでくる。
「ロイド様!」
「王都の監督官が来ました!」
ロイドの表情が消えた。
「……来たか」
どうやら。
向こうから会いに来てくれたらしい。
(第73話 王都からの使い)




