第67話 売るのは誰だ
※この作品は毎日更新予定です。
面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価をいただけると励みになります
俺はロイドを見た。
「九千匹の鮭を」
「誰が売ると思っている?」
嫌な予感しかしなかった。
「……お前か」
ロイドは笑った。
「俺だ」
「だがお前の力が必要だ」
嫌な予感が現実になった。
◇◇◇
「待て」
俺は椅子から立ち上がった。
「俺は領主だ」
「商人じゃない」
ロイドは頷いた。
「ああ」
「だからだ」
意味が分からない。
「お前は」
「九千匹を七銀貨で売った」
俺は黙った。
「八銀貨と提示できたのに」
「七銀貨にした」
「そうだ」
「なぜだ」
ロイドは聞く。
「長く続けるためだ」
即答だった。
ロイドは笑った。
「俺は商人だ」
ロイドは椅子にもたれた。
「目の前の利益は取る」
「だが」
「お前は利益だけを見ていない」
ミリアが首を傾げる。
「それって」
「褒めてるんですか」
「分からん」
ロイドは即答した。
「少なくとも商人とは違う何かを見ている」
俺はそれが経営だと答えたかった。
「しかも、目の前の返済だけを考えたら
銀貨四枚でも妥協できたろう」
俺は思わず反論した。
「そんな馬鹿な結論を出すわけがないだろう」
「できる限りの計算をした」
俺が説明しようとしたらロイドが割って入る。
「そこだ、俺が見たいのは」
「そういう人間は珍しい」
◇◇◇
「今回の九千匹は売れる」
ロイドは続けた。
「いや、売れなくとも俺がなんとかする」
「問題はその後だ」
「漁師が十年守った鮭だ」
「ただ売るだけでいいのか」
俺は黙った。
ロイドは一瞬表情を変えた。
「塩漬け設備を増やす」
「燻製設備も導入する」
「倉庫を増やす」
「人を雇う」
「全部投資だ」
そこで俺は理解した。
「だから」
「長期安定契約か」
「ああ」
ロイドは頷いた。
「俺は金を出す」
「だから」
ロイドは俺を指差した。
「お前も出せ」
◇◇◇
ミリアが固まった。
「えっ」
「えっ」
「何にですか」
ロイドは当然のように答えた。
「加工所だ」
部屋が静まり返った。
「今の加工所は終わっている」
「量が作れない」
「品質が安定しない」
「人も育たない」
「だが」
ロイドは笑った。
「三年の条件だとリスクが残る」
「共同投資ならリスクは分散する」
「それにお前ともう少し仕事をしてみたい」
「だから」
「しばらくラングに残れ」
「現場を見ろ」
「働け」
「数字を出せ」
「共同投資者だ」
俺はため息をついた。
確かに。
断れる話ではなかった。
「まず何をすれば良い」
俺はロイドに聞いた。
「明日から三日間、塩漬け工場に入ってくれ」
「え~、やっぱり強制労働だったじゃないですか」
「レオン様、脱出しましょうよ」
ミリアが騒ぐ。
「違う」
「現場確認だ」
ロイドは口角を大きく吊り上げた。
「いや~強制労働だ~」
ロイドは笑っていた。
だが、目は笑っていなかった。
明日から徹底的に現場で数字を収集する。
ロイドは最後にぽつりと言った。
俺は顔を上げた。
「その加工所」
「十年前から変わっていない」
と言ってロイドは部屋を後にした。
十年前。
その言葉が。
妙に引っかかった。
(第68話 塩漬け工場)
最後までお読みいただきありがとうございます。
続きが気になる方は、ぜひブックマーク登録をお願いします。
評価(★★★★★)も作者の励みになります。




