第66話 人質の理由
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ロイドが部屋を出ていくと、部屋には俺とミリアだけが残った。
しばらく沈黙。
先に口を開いたのはミリアだった。
「レオン様」
「何だ」
「人質ですか」
俺は思わず顔を上げた。
「何がだ」
「だから」
「しばらくラングに残れって」
ミリアは真面目な顔だった。
「人質ですよね」
「俺を人質にとって何の得がある」
思わず即答した。
「わかりません」
沈黙が流れる。
それだけか、と思ったが。
◇◇◇
俺はもう一度、今回の条件を分析していた。
リスクを取った前払い。
最低価格保証付き長期契約。
ロイドにとって決して良い条件ではない。
「ロイドさん」
「損してますよね」
突然ミリアが話しかけてくる。
考えていることが分かるのか。
いや、同じ事を考えていたのか。
「そうだな」
「前金で払うなんて」
「やっぱり、罪滅ぼしですかね」
「かもしれん」
だが、ロイドはそれだけで動く男ではない。
◇◇◇
「それと」
ミリアは続けた。
「どうして七銀貨にしたんですか」
「八銀貨でも買ってくれたんですよね」
そこか。
「ああ」
「だったら」
「七銀貨って強気すぎませんか」
俺は苦笑した。
「そうかもしれないな」
「もし断られてたら」
「もうバルドおしまいですよ」
その通りだった。
「そうだ」
ミリアは固まった。
「えっ」
「えっ、じゃない」
「だからこそだ」
俺は椅子にもたれた。
◇◇◇
「ロイドは」
「塩漬け費用を出す」
「輸送費を出す」
「販売費を出す」
「回収不能のリスクも負う」
ミリアは黙って聞いている。
「さらに」
「金貨七百二十枚を即金で出す」
「はい」
「商売として考えれば」
「かなり不利だ」
「……そうなんですか」
俺は頷いた。
「ああ」
「それなのに」
「最低価格保証まで出してきた」
「つまり」
「最初からバルドを助けるつもりだった」
ミリアは目を見開いた。
「あ……」
◇◇◇
「だから」
「こちらも適正価格を提示した」
「助けようとしている相手を」
「さらに追い込む交渉はしない」
ミリアはしばらく考えていた。
「へえ……」
「何だ」
「数字と計算で」
「そんな交渉ができるんですね」
俺は少し笑った。
「いや、しかし、それだけでロイドは動かないはずだ」
「というより」
「何かある」
◇◇◇
ミリアは腕を組んだ。
「レオン様」
「何だ」
「やっぱり」
「ロイドさん」
「損した分」
「レオン様をどこかに売り飛ばすんじゃないですか」
俺は呆れた。
「だから人質――」
その時だった。
「誰が誰を売り飛ばすって?」
扉の向こうから声がした。
ロイドだった。
ミリアが固まる。
俺は少しだけ嫌な予感がした。
◇◇◇
ロイドは椅子に腰掛けると、俺を見た。
「さて」
「人質の理由を話そうか」
俺は黙って頷いた。
ロイドは笑った。
「簡単だ」
「九千匹の鮭を」
「誰が売ると思っている?」
俺は。
初めて、本当に嫌な予感がした。
(第67話 売るのは誰だ)
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