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第63話 バルドを救え

※この作品は毎日更新予定です。

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 ラング商会B。

 十年前。

 バルドの鮭を最も扱っていた商会だ。

 今は規模も縮小した。

 だが。

 俺が会いたい人間は、まだここにいる。

◇◇◇

「失礼します」

 受付の女が顔を上げた。

「ご用件は」

「元支店長に会いたい」

「名前は」

「レオン・バルド」

 女の顔が変わった。

「……少々お待ちください」

 ミリアが小声で聞く。

「有名なんですね」

「そうかもな」

「悪い意味で」

 否定できなかった。

◇◇◇

 通された部屋には。

 一人の老人が座っていた。

「もう全て話たぞ」

 男は笑った。

「この前は名乗ってなかったな」

「ロイドだ」

「こちらもだったな」

「レオンだ」

「話は何だ」

「この前のように嫌な話ではなさそうだな」

 ロイドは聞く。

「そっちの出方次第だ」

 ロイドはあご髭に手をやる。

「鮭を買ってくれ」

 ミリアが隣で固まった。

 ロイドは笑った。

「事情を聞こう」

 俺は話した。

 九千匹。

 返済期限。

 ダン達。

 共同組合。

 全てを。

◇◇◇

 話し終えると。

 ロイドは目を閉じた。

「断る」

 即答だった。

 ミリアが息を呑む。

「なぜだ」

 俺は聞いた。

「商売にならん」

「九千匹だぞ」

「だからだ」

 ロイドは答えた。

「運ぶのに金がかかる」

「売るのに時間がかかる」

「腐れば終わりだ」

「誰も責任を取れん」

 正論だった。

◇◇◇

 俺は立ち上がった。

「そうか」

 ロイドが頷く。

「ああ」

 俺は扉へ向かった。

 そして。

 振り返った。

「一つだけ聞く」

「何だ」

「あんた」

「昔、バルドの鮭で儲けただろう」

 ロイドの表情が止まった。

「……何が言いたい」

「今度は返す番じゃないのか」

 部屋が静まり返る。

「ダン達は」

「十年」

「鮭を守った」

 ロイドは何も答えなかった。

◇◇◇

 長い沈黙。

 ここで口を開いた方が譲歩する状況だ。

 俺はロイドをただ見つめている。

 目でも何も語らない。

 動きを待つ。相手を待つという判断。

 何もしない。という決断。

 横にいるミリアからも緊張が伝わる。

 やがて。

 ロイドはため息をついた。

「仕方ない」

「引退してから暇を持て余していたからな」

 俺は笑った。

 ロイドは立ち上がった。

「だが、これで過去の事は金輪際チャラだ」

「バルドの漁師連中にもちゃんと伝えてくれ」

 ミリアが目を見開いた。

「ただし」

 ロイドは俺を指差した。

「お前も働け」

「望むところだ」

 ミリアは。

 初めて見る顔をしていた。

 現場の交渉。

 何も話さない交渉。

 見せてやれた気がした。


(第64話 九千匹の輸送)


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