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第60話 秘境の川

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 まだ外は暗かった。

「起きてください」

 ミリアの声が聞こえる。

 俺は目を開けた。

「……何時だ」

「夜です」

「嘘をつけ」

「朝です」

 ミリアは平然と答えた。

「まだ暗いぞ」

「山だからです」

「昨日も早かったです」

「今日も早いです」

「明日も早そうですね」

 否定できなかった。

「領主様」

「何だ」

「領主様って寝るんですね」

「失礼な奴だ」

 久しぶりに言った気がした。

 ミリアが笑う。

「安心しました」

「何がだ」

「いつもの領主様です」

 何を言いたいんだ。

◇◇◇

 外へ出る。

 ダン達はすでに準備を終えていた。

「遅い」

 ダンが言った。

「すまん」

 素直に謝罪する。

 ミリアが隣でニヤついている。

 ダンについて歩く。

 登る。

 また歩く。

 道はない。

 獣道すらない。

 太陽は高くなっていく。

 さらに歩く。

 山を越える。

 谷を渡る。

 ミリアが座り込んだ。

「まだですか……」

「もう少しだ」

 ダンは短く答えた。

 そして。

 昼過ぎ。

「着いた」

 ダンが立ち止まった。

◇◇◇

 俺は。

 言葉を失った。

 川だった。

 いや。

 鮭だった。

 川一面が。

 銀色だった。

 跳ねる。

 ぶつかる。

 遡る。

 無数の鮭が。

 川を埋め尽くしていた。

「……これは」

 俺は呟く。

「そうだ」

 ダンが答える。

「俺達は必要な分しか獲らん」

 老人のその言葉に。

 俺は十年間の意味を理解した。

 守ったのだ。

 この人達は。

 十年間。

 ずっと。

◇◇◇

「どうだ」

「一匹銀貨四枚で渡そう」

 ダンが切り出す。

「四枚じゃ損は出ないのか」

「いや」

「俺達がやれば損はしない」

 ダン達はほとんど利益はないのだろう。

「お前なら」

「八枚で売るんだろう」

「なら」

「残り四枚はお前の取り分だ」

 ダンが続ける。

 計算した。

 九千匹。

 一匹四銀貨。

 三万六千銀貨。

 金貨三百六十枚。

 足りる。

 返済できる。

 ひょっとして。

 ダンは計算して。

 九千匹を用意してくれたのか。

 だが。

俺は更に計算する。

「漁獲に何日かかる」

「応援が来て一日千匹は取れる」

「間に合うか」

 俺は計算しながら思わず口にした。

 ダンが眉をひそめた。

 沈黙。

 それが現実だった。

「息子さんにも助けてもらうか」

「知っているのか」

 ダンが驚いた顔をした。

 俺は川を見つめた。

 答えは。

 ラングだ。


(第61話 交渉の準備)



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