第56話 託されたもの
部屋に沈黙が流れる。
ダンは古い書面を机へ置いた。
「前領主が何を考えていたかは分からん」
「ああ」
俺も頷く。
「俺にも分からん」
「だが」
ダンは書面を指で叩く。
「この金は漁業復興のために残した」
「そう書いてある」
「返済に使う理由にはならん」
もっともな意見だった。
俺は静かに答える。
「返済できないと、結局、この金は王都が押さえる」
「じゃあ、なぜここに来た」
「黙って使えばいいじゃないか」
ダンの語気は強まる。
「だから」
「俺達で領地を守らないといけない」
ダンは腕を組んだまま動かない。
やがて小さく息を吐く。
「理屈は分かる」
「だが」
「これは俺一人では決められん」
俺は頷いた。
「もちろんだ」
「だから来た」
「頼みに来た」
ダンは少し驚いた顔をした。
「命令じゃないのか」
「だったら最初から来ない」
ダンは苦笑した。
「前領主とは違うな」
その一言に。
俺は何も返さなかった。
しばらく薪の音だけが響く。
俺は立ち上がった。
「ありがとう」
ダンは首を振る。
「まだ礼を言うな」
「俺は賛成すると言っていない」
「全員で決めるだけだ」
「ああ」
それでいい。
前領主が残した条件も。
俺が守りたかった筋も。
これでようやく一つになる。
あとは。
全ての漁師が答えを出すだけだった。
(第57話 漁師達の決断)
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