第51話 共同施設組合
ダレンが書庫から帳簿を抱えて戻ってきた。
それを見たミリアが肩を落とす。
「やっぱり帳簿ですか……」
「ああ」
「今日はあんなに歩いたのに」
「現場だけ見ても経営はできん」
「数字だけでも経営はできん」
「両方見て初めて分かる」
「うわぁ」
「また始まりました」
ミリアは椅子へ座り込んだ。
「領主様は歩くか帳簿しかないんですね」
今日は引き分けだった。
◇◇◇
俺は帳簿を開いた。
表紙にはこう書かれている。
――共同施設組合。
「水車組合じゃないんですか」
ミリアが聞く。
「違います」
ダレンが答えた。
「水車だけではありません」
「共同倉庫」
「乾燥場」
「荷車の貸し出し」
「共同施設は全てこの組合で運営しています」
「なるほど」
俺はページをめくる。
利用料収入。
維持管理費。
修繕費。
積立金。
収支は毎年黒字だった。
「悪くない」
俺は呟く。
「よく管理されている」
ダレンも頷く。
「代々、組合長達が堅実に運営しています」
さらにページをめくる。
前年。
前々年。
三年前。
収支は安定している。
そして。
俺の手が止まった。
「積立金か」
ダレンが答える。
「現在、金貨百七十枚あります」
「共同施設の修繕費です」
「最後に使ったのは」
「三年前になります」
俺は静かに帳簿を閉じた。
「金が眠っている」
ミリアが首を傾げる。
「眠る?」
「使われていない資金だ」
「必要だから積み立てる」
「だが」
「必要になるまで働いていない」
ハンスが少し不安そうな顔をした。
「でも」
「組合のお金ですよ」
「ああ」
「領主館の金じゃない」
「勝手には使えん」
ハンスはほっと息をついた。
「ですよね」
俺は頷く。
「借りられるかもしれない」
三人が俺を見る。
ダレンが静かに言った。
「規約を確認する必要があります」
「ああ」
俺は立ち上がった。
「それと」
「共同施設組合だけか」
ダレンは少し考える。
「……まだあります」
「林業組合」
「漁業組合」
「牧畜組合」
「それぞれ別会計です」
「全部持ってきてくれ」
「全部ですか」
「ああ」
「領主館の帳簿だけ見ていても」
「経営はできん」
部屋が静まり返る。
まだ。
眠っている金があるかもしれない。
(第52話 組合の帳簿)
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