第50話 金貨五百枚
朝食を食べ終えると、ミリアが不思議そうな顔を
した。
「今日も帳簿は持ってこないんですね」
「ああ」
「昨日で懲りましたか」
「違う」
「今日は数字じゃない」
「珍しいですね」
「今日は現場を見る」
「領主様が現場ですか」
「現場も行っているだろう」
今日は負けなかった。
◇◇◇
領主館。
ハンスも呼んだ。
ハンスと会うのはゴブリン討伐以来だ。
もっとも、まだ二週間も経っていない。
今は領主館で農林水産を担当している。
兼業漁師らしく、現場には誰より詳しい。
俺は返済予定表を机に置いた。
「返済まで二週間」
「必要なのは金貨五百枚だ」
ダレンとハンスが静かに頷く。
「今日は手分けして領内を歩く」
「領内くま無くですかあ」
「くま無くだ」
ミリアは本当に何をしにきたのだ。
「俺はハンスと回る」
「ダレン、お前はミリアと回れ」
「現金になるもの」
「現金を生む仕組み」
「何でもいい」
「気付いたことを全部持ち帰れ」
◇◇◇
俺はハンスと畑へ向かった。
黄金色の麦が風に揺れている。
「収穫まで」
「あとどれくらいだ」
「十日ほどです」
ハンスは即答した。
「領主館で全部買い取れないか」
ハンスが足を止める。
「農民からですか」
「ああ」
「一般的に支払は即現金か」
「最近では納入後三十〜六十日後に支払われる
らしいです」
「農家はぼやいてますけど」
「ですが」
「領主館に買い取る金がありません」
確かにそうだ。
「先に商人へ売って」
「代金を先にもらうことはできないか」
ハンスは少し考えた。
「難しいと思います」
「なぜだ」
「領主館がお金に困っていると分かれば」
「買値を下げられます」
「足元を見られるか」
「はい」
俺は小さく頷いた。
赤字では高利貸しから借りるようなものだ。
回らない時の最後の手段だ。
思った以上に厳しい。
◇◇◇
直轄林へ向かう。
「木材は」
「売れます」
「でも、乾燥まで一か月です」
「生木では」
「値段は大きく下がります」
「それでも売れるか」
「少しは」
「どれくらいだ」
「街の住人にお願いすればですが」
「協力してもらっても日給も出ないかと」
これも駄目だ。
俺達は夕方まで歩き続けた。
だが。
決定打は見つからなかった。
◇◇◇
領主館へ戻る。
ダレンとミリアも帰ってきていた。
「どうだった」
俺は聞く。
ダレンは首を振る。
「現金になるものは見つかりませんでした」
やはりか。
もう領主館や資産の売却しかないか。
「バルド領所有と書いた水車小屋で人が
働いていました」
ミリアが沈黙を破る。
「領主館が運営しているんですよね」
「お金もないのに」
「どうやって運営しているんでしょう」
俺はダレンを見る。
ダレンは一枚の羊皮紙を差し出した。
「水車は領主館ではありません」
「水車組合として運営しています」
「利用料を徴収し」
「その収入で維持しています」
「領主館とは別会計です」
別会計。
その一言で。
俺の思考が止まった。
そして。
ゆっくり笑った。
「その帳簿」
「見せてもらおう」
(第51話 水車組合)
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