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第48話 決裁印

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第48話 決裁印

 バルドに戻り、俺は書庫にいた。

「やっぱり帳簿が好きなんじゃないですか」

 ミリアが言う。

「あのな」

「鮭を潰した犯人を探しているんだ」

「犯人より帳簿が好きそうです」

 もはやカオスだ。

◇◇◇

 机の上には補助金関係の書類が並んでいる。

 決裁書。

 申請書。

 予算書。

 王都から届いた通達。

「何を探しているんですか」

 ダレンが聞く。

「印だ」

「印?」

「ああ」

 俺は書類をめくる。

「誰が承認した」

「誰が推薦した」

「誰が金を動かした」

 書類は嘘をつくことはある。

 だが、金の流れは嘘をつかない。

◇◇◇

 昼過ぎ。

 ようやく違和感を見つけた。

「またですか」

 ミリアが覗き込む。

「ああ」

「見ろ」

 俺は書類を並べる。

 船舶補助金。

 漁具補助金。

 業種転換支援。

 孵化場建設計画。

 全部別の書類だ。

 だが。

「同じだ」

「何がです?」

 俺は指を置く。

 一番下。

 王都側の承認欄。

 孵化場建設だけは最終的に承認されていない。

「どういうことですか」

 ミリアが聞く。

「これでは鮭を獲り過ぎたら減る一方だ」

 ダレンが身を乗り出す。

「なぜそんなことを」

  嫌な事実ばかりだが、しかし。

「今は誰がカルテルを動かしたかだ」

「領主様」

 ダレンが書類を見比べる。

「これ、全部同じ人が起案しています」

「ん?」

 俺は改めて書類を見る。

 船舶補助金。

 漁具補助金。

 業種転換支援。

 孵化場建設計画。

 起案者は全て同じ。

 承認者も全て同じだった。

「ありえない」

「そんなものですか?」

 ミリアが首を傾げる。

「船舶と漁具なら分かる」

「だが業種転換は管轄が全く違う」

 ダレンもゆっくり頷く。

「私も見たことがありません」

 さらに資料をめくる。

 そして。

 俺の手が止まった。

「領主様?」

 ダレンが聞く。

「これだ」

 王都から送られた内部文書。

 補助金の目的。

 そこに書かれていた。

 ――漁獲量拡大を最優先とする。

 ダン老人の言葉が蘇る。

 もっと獲れ。

 船を増やせ。

 底引き網を使え。

 少しずつ。

 点が線になっていく。

「領主様」

 ミリアが小さく聞く。

「どう思います?」

 俺はしばらく黙っていた。

 そして。

「この担当者だ」

「え?」

「補助金も」

「十一枚も」

「四枚も」

「全部とは言わん」

「だが」

「少なくとも何かを知っている」

 書類の端。

 起案者の署名。

 薄れていて読みにくい。

 名前までは判別できない。

 だが、同じサインだ。

 そして。

 担当部署だけは読めた。

 ――王国水産管理局。

 俺は少し考えた。

 元支店長が言っていた役人。

  制服に「F」の紋章。

 だが。

 水産管理局の書類だ。

  財務官がなぜここに関わる。

  サインは読めない。

 断定はできない。

 だが。

 臭う。

 俺は静かに書類を閉じた。

「王都ですね」

 ダレンが言う。

「ああ」

「ここまで来れば、王都へ行けば分かる」

 部屋が静まり返る。

「じゃあ」

 ミリアが顔を上げた。

「王都へ行きましょう」

 俺は答えなかった。

 代わりに返済予定表を開く。

 金貨五百枚。

 返済期限まで、あと二週間。

 ダレンが静かに言う。

「王都まで往復で六日はかかります」

 ミリアもようやく気付いた。

「あっ……」

「そうか」

「今、王都へ行ったら……」

「ああ」

 俺は頷いた。

「証拠は集まるかもしれん」

「だが」

「バルドは潰れる」

 部屋が静まり返る。

 鮭の真相。

 カルテル。

 王都。

 全部重要だ。

 だが。

 借金は待ってくれない。

(第49話 返済期限)




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