表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
47/117

第47話 話を持ってきた男

※この作品は毎日更新予定です。

面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価をいただけると励みになります

 老人は唇を噛んだ。

「誰なんだ」

 俺は繰り返した。

 長い沈黙。

 やがて。

 老人は諦めたように息を吐いた。

「名前は知らん」

「本当か」

「ああ」

 少なくとも嘘ではない。

 だが。

 何かは知っている。

「どんな男だった」

 老人は目を閉じる。

 十年前を思い出しているのだろう。

「若かった」

「若い?」

「ああ」

「役人にしては若かった」

 俺は顔を上げた。

「役人だったのか」

「そう聞いている」

 老人は頷く。

「だが」

「普通の役人じゃなかった」

「どういう意味だ」

「金の話しかしなかった」

 静かになる。

「利益」

「効率」

「収益」

「数字ばかりだ」

 どこかで聞いた話だった。

 いや。

 毎日聞いている。

 俺自身がそうだからだ。

「領主様?」

 ミリアが不思議そうな顔をする。

「いや」

 気のせいだ。

 多分。

◇◇◇

「男は言った」

 老人が続ける。

「鮭は足りない」

「もっと増やせる」

「もっと利益が出る」

「そう言っていた」

「それだけか」

「いや」

 老人の表情が変わった。

「そういえば、役人の制服にFの紋章があった」

 俺の手が止まる。

「F?」

「ああ」

「ひゃ!」

ミリアが思わず悲鳴をあげる。

「財務官だ」

「どんな風貌だった」

「背格好はあんたと同じくらいだ」

「十年前に見た限りだが、今のあんたより随分若い」

「領主様、知り合いでしょうか」

「まさか、ご本人じゃないですよね」

「何を言っている」

 部屋が静かになる。

◇◇◇

「会合は何回あった」

 俺は聞いた。

「三回だ」

「最初は十一枚」

「次は補助金」

「最後は四枚」

 俺は顔を上げる。

「四枚を決めたのか」

「ああ」

 老人は苦く笑った。

「皆反対した」

 ミリアが驚く。

「え?」

「反対したんですか」

「あたり前だ」

 老人は吐き捨てるように言った。

「安過ぎる」

「漁師が潰れる」

「そんな話になった」

 だが。

「結局」

「全員賛成した」

 俺は黙る。

「何故だ」

「儲かるからだ」

 老人は自嘲するように笑った。

「だが、役人からは断る選択肢はないと言われた」

◇◇◇

 帰り際。

 老人が小さく呟いた。

「領主殿」

「役人が誰だかはわからん」

「だが」

「一つだけ覚えている」

「何だ」

 老人は窓の外を見た。

「その役人はバルドの名前を知っていた」

 俺の目が細くなる。

「当たり前だろう」

「いや」

 老人は首を振る。

「バルドはそれほど有名な漁場じゃない」

「最初から知っていた」

「バルドの鮭のことも」

 その言葉が。

 妙に引っ掛かった。

◇◇◇

 帰りの馬車。

 ミリアが口を開く。

「どうします?」

「ああ」

 俺は窓の外を見る。

「補助金だ」

「また帳簿ですか」

「まただ」

「やっぱり好きなんじゃないですか」

 否定できなかった。

 十一枚。

 補助金。

 四枚。

 その順番に意味がある。

 そして。

 その男は最初からバルドを見ていた。

 偶然とは思えなかった。



(第48話 決裁印)


最後までお読みいただきありがとうございます。

続きが気になる方は、ぜひブックマーク登録をお願いします。

評価(★★★★★)も作者の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ