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第46話 元支店長

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 早朝出発して再びラングに向かった。

「なんで、いつも早朝なんですか」

 ミリアの恒例行事だ。

「ひょっとしたら、早く起きちゃうんですか」

「元気ですねぇ〜」

 皮肉めいている。

「お前もそのうち分かる」

「何がです」

「歳だ」

「聞かなきゃ良かったです」

 急いだので午前中にラングに到着した。

◇◇◇

「また来たんですか」

 受付の男が嫌そうな顔をする。

「ああ」

「元支店長に会いたい」

 男の顔が僅かに変わった。

 応接室。

 しばらくして老人が入ってきた。

 七十歳近い。

 だが背筋は伸びている。

 商人の顔だった。

「私に何の用ですかな」

 老人は静かに座った。

「鮭だ」

 俺は言った。

「十年前の話ですかな」

「ああ」

「懐かしいですな」

 他人事のようだった。

 俺は机に資料を並べた。

 航海日誌。

 補助金承認書。

 買付記録。

「随分集めましたな」

 老人は苦笑する。

「領主とは暇な仕事ですか」

「やるべき事をやる。それだけだ」

「十一枚」

 俺は言う。

「四枚」

 老人は黙る。

「ラングA」

「ラングB」

「ラングC」

「全部同じ価格だった」

「偶然ですかな」

「そうかもしれんな」

 俺は頷く。

「一年だけならな」

 資料を開く。

「九枚」

「九枚」

「九枚」

「十一枚」

「十一枚」

「十一枚」

「四枚」

「四枚」

「四枚」

「翌年も」

「四枚」

「四枚」

「四枚」

「さらに翌年もだ」

 老人は何も言わない。

「市場の価格でしょう」

 ようやく口を開いた。

「市場価格なら動く」

 俺は即答する。

「漁獲量が増えた」

「四枚」

「分かる」

「だが」

「漁獲量が減っても四枚」

「さらに減っても四枚」

「何故だ」

 老人は黙る。

 俺は航海日誌を開いた。

「予定通り」

 老人の目が僅かに動く。

「会合」

「漁船を増やす話」

「予定通りの四枚」

「全部偶然か」

 長い沈黙。

 やがて老人は深く息を吐いた。

「何のことかな」

「お前は知っている」

 老人が初めて俺を真っ直ぐ見た。

「何をだ」

「価格を合わせたことだ」

 沈黙。

 窓の外から港の音だけが聞こえる。

 そして。

「・・・ああ」

 老人が小さく答えた。

「会合はあった」

「価格も話した」

 ミリアが息を飲む。

 ダレンも固まっている。

「十一枚もか」

「ああ」

「四枚もか」

「ああ」

 静かな声だった。

 だが。

 十分だった。

 カルテルはあった。

「何故だ」

 俺は聞く。

 老人は窓の外を見る。

「儲かったからだ」

「十一枚で人を集める」

「四枚で買う」

「利益は大きかった」

 苦い顔だった。

「皆分かっていた」

「だが」

「鮭がいなくなるとは思わなかった」

 その言葉に嘘は感じない。

「誰が言い出した」

 老人の顔が曇る。

「し、知らん」

「我々は商人だ」

「儲かる話が来た」

「だから乗った」

「それだけだ」

 部屋が静かになる。

 俺は老人を見た。

「最初から」

「バルド鮭を潰す目的だったとしてもか」

「なに」

 老人が小さく言った。

「バルドの補助金の話は知っているか」

「知らん」

「そうか」

 俺は老人を見据える。

「なら聞く」

「もし」

「最初からバルド鮭を潰すための計画だったとしたら」

 老人の顔色が変わる。

「なに・・・」

「カルテルは」

「そのための手段だったとしたら」

 老人は何も言わない。

 だが。

 その沈黙は先程までとは違った。

「誰だ」

 俺は静かに聞く。

「話を持ってきたのは誰だ」

 老人の目が落ち着きなく揺れる。

 明らかに知っている。

「名前は」

「・・・知らん」

 だが。

 その顔は何かを思い出していた。

 知らない顔ではない。

 思い出した顔だ。

「誰だ」

 俺はもう一度聞いた。

「話を持ってきたのは誰だ」

 老人は唇を噛んだ。


(第47話 話を持ってきた男)


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