第45話 補助金の出所
俺は朝から領主館の書庫に籠もっていた。
「また帳簿ですか」
ミリアが言う。
「ああ」
「鮭より帳簿の方が好きなんじゃないですか」
「そんな訳あるか」
「じゃあ帳簿と鮭なら」
「鮭だ」
「即答ですね」
当たり前だ。
鮭は食える。
帳簿は食えん。
◇◇◇
机の上には資料の山が積まれていた。
補助金申請書。
議事録。
予算書。
決裁書。
十年以上前の書類だ。
「何を探しているんですか」
ミリアが聞く。
「補助金の出所だ」
「出所?」
「あの規模の補助金だ」
「前領主一人で決められる額じゃない」
「しかも、恐らく今の借金の大半だろう」
「あ!金貨五百枚の支払が迫ってますよ」
「忘れていない」
嫌なことを思い出させる。
ページをめくる。
船舶購入支援。
漁具購入支援。
新規参入支援。
金額が大きい。
辺境領には重過ぎる。
◇◇◇
昼を過ぎる。
夕方になる。
ミリアは途中で寝た。
ダレンは追加資料を運んでいる。
そして。
日が傾き始めた頃。
俺の手が止まった。
「見つけた」
ミリアが飛び起きる。
「終わりました?」
「寝ていただけだろ」
「細かいことは気にしないでください」
俺は一枚の書類を机に置く。
古い決裁書だった。
「何ですか」
ミリアが覗き込む。
「補助金の承認書だ」
その下。
推薦理由。
担当部署。
承認経路。
そして。
ある一文。
―王国産業振興計画に基づく重点支援地域とする。
静かになる。
「王国?」
ミリアが呟く。
「ああ」
俺は頷く。
「前領主の発案じゃない」
「王都から来ている」
ダレンの顔色が変わった。
「そんな」
「当時の領主様は喜んでいました」
「当然だ」
俺は答える。
「王都から金が来る」
「断る理由がない」
さらに書類を読む。
補助金の対象。
漁船。
網。
新規参入者。
全て一致する。
ダンが話した内容と。
航海日誌の内容と。
「ん?」
「何かまた見つけたんですか」
「価格設定が鮭銀貨十一枚とある」
「十一枚だったでしょ」
「王国からの提案書になぜ十一枚と書かれている」
「え、何?それのどこがおかしいんですか」
久しぶりに。
数字が怒っていた。
「領主様」
ダレンが聞く。
「これは」
「偶然ではない」
俺は即答した。
十一枚。
そして、それは王国から決められた数字。
補助金。
新規参入。
四枚への暴落。
継続される乱獲。
全部が同じ方向を向いている。
「誰かが仕組んだ」
部屋が静まり返る。
「誰がです」
ミリアが聞いた。
「まだ分からん」
俺は決裁書を閉じる。
「だが」
「次に会う相手は決まった」
「支店長ですか」
「ああ」
ラングB商会。
当時の支店長。
あの男なら知っている。
少なくとも。
十一枚と四枚の理由を。
そして。
王都が何を求めていたのかを。
(第46話 元支店長)
評価、レビュー、ブックマーク、お気に入り
お願いします。




