第44話 漁師ダン
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翌朝。
俺達はバルドへ戻り、漁場のダンを訪ねた。
「支店長には会わないんですか」
ミリアが聞く。
「ああ」
「先にダンの親父だ」
「珍しいですね」
「何がだ」
「領主様が事実確認より人を優先するなんて」
「人を大事にする優先順位もある」
「へえ」
何だその反応は。
今会うべき相手は支店長ではない。
ダンだ。
◇◇◇
川沿いの小屋。
以前と変わらない。
ダン老人は網を修理していた。
俺達を見る。
そして。
何も言わずに作業を続けた。
「話がある」
俺は言った。
「鮭の話なら終わった」
「終わっていない」
俺は木箱を差し出した。
ダン老人が眉をひそめる。
「何だこれは」
「証拠だ」
俺は航海日誌の内容を説明した。
ラングA。
ラングB。
ラングC。
会合。
漁船を増やす話。
そして。
予定通りの四枚。
ダン老人は黙って聞いていた。
長い沈黙。
「そうか」
小さく呟く。
「最初から決まっていたのか」
「ああ」
俺は頷く。
「少なくとも四枚はな」
「だから」
「お前達だけの責任じゃない」
ダン老人は首を振った。
「違う」
声が重い。
「それでも俺は止められたかもしれん」
俺は眉をひそめた。
「何の話だ」
ダン老人は遠くを見る。
十年以上前のことを思い出しているようだった。
「十一枚になる前だ」
「一人の役人が来た」
俺の目が細くなる。
「何を言われた」
「毎年三万匹獲を販売しろといわれた」
「俺たちは昔から一本釣りでやってきた」
「だから、そんな数を出せるわけがない」
「しかし連中は数が足りない」
「もっと獲れ」
「全部買うと言われた」
「良い話じゃないですか」
ミリアが言う。
「良くない」
ダン老人は即座に否定した。
「鮭が帰らなくなる」
静かになる。
「今度は一本釣りをやめろと言われた」
「底引き網を使えと」
「大量に獲れるからな」
ミリアも黙る。
俺も黙る。
一本釣り。
品質重視。
底引き網。
大量生産。
全く別の発想だ。
「もちろんそれも断った」
ダン老人の口調は強くなる。
「鮭が傷む」
「品質が落ちる」
「海も荒れる」
「そんな漁は出来ん」
その言葉には迷いがなかった。
今でも後悔していないのだろう。
「だが」
ダン老人は続ける。
「バルドの鮭は良質だから高く売れると言った」
「その役人は気にしていなかった」
「高級品として売る必要はないと言われた」
俺は顔を上げる。
「何だと」
「どうせ他の鮭と塩漬けにして混ぜるんだ」
「バルド鮭としては売らん」
俺の思考に激しい違和感が生まれる。
「どういう事だ」
「わからん、とにかく断った」
おかしい。
実におかしい。
利益を出すなら、独占販売だけでよい。
しかも高級品で売れるなら利幅も大きい。
誰てもそう考える。
しかも。
決裂した後、十一枚に値上げしている。
何故だ。
「その後同じ話をラングの連中が持ってきたが断った」
ダン老人は言う。
「鮭を守れん」
「海も守れん」
「ご先祖様に顔向けできん」
ダン老人の言葉は聞こえていた。
だが俺の頭は別の場所にあった。
「翌年だ」
「十一枚になったのは」
その瞬間。
十一枚。
補助金。
新規参入。
借金。
四枚。
頭の中で線が繋がってくる。
だが。
まだ足りない。
証拠はない。
それでも。
初めて。
恐ろしい仮説が頭をよぎった。
これは。
単なるカルテルではない。
誰かが。
最終的にバルド鮭そのものを消そうとした。
帰り道。
俺は一言も話さなかった。
何を調べるか。
まずは補助金だ。
あの異常な補助金は。
誰が言い出した。
誰が認めた。
誰が得をした。
そこに答えがある気がした。
(第45話 補助金の出所)
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