第41話 船乗りが見た鮭
翌朝。
宿の食堂へ降りる。
すると。
ダンが既に座っていた。
「早いな」
「船乗りですから」
「私はまだ眠いです」
ミリアが机に突っ伏した。
「お前はいつもだろう」
「今日は特別です」
「昨日も聞いた」
ミリアは聞こえないふりをした。
◇◇◇
「それで」
俺はダンを見る。
「船で見てきた話を聞かせてくれ」
ダンは少し考えた。
「見習いの頃は面白かったんですよ」
「何がだ」
「値段です」
懐かしそうに笑う。
「六枚の年も」
「七枚の年も」
「商人達はずっと話していました」
「今年はいくらだ」
「他はどう出る」
「漁師は何と言う」
「そんな話ばかりです」
「普通だな」
俺は頷く。
商売だからだ。
一枚違えば利益が変わる。
当然交渉する。
「九枚の時もです」
ダンは言う。
「今年は良かったな」
「そんな空気でした」
「漁師も商人も喜んでいた」
「十一枚は?」
俺は聞いた。
ダンの表情が少し曇る。
「変でした」
「何がだ」
「静かだったんです」
俺は顔を上げる。
「静か?」
「ええ」
「誰も値段の話をしない」
「誰も喜ばない」
「なのに」
「最初から十一枚でした」
部屋が静かになる。
「決まっていたみたいにか」
「はい」
ダンは頷いた。
「何かを決めてしまった人達みたいでした」
「四枚の年は」
俺は続ける。
「もっと変でした」
「誰も相談しない」
「誰も驚かない」
「最初から四枚です」
「A商会も」
「B商会も」
「C商会も」
「全員です」
十一枚。
補助金。
借金。
新規参入。
四枚。
繋がった。
「なぜそんな話を覚えている」
俺は聞いた。
ダンは苦笑した。
「親父が鮭漁師だったからですよ」
「何か役に立つ話が聞けないかと思って」
「盗み聞きしていました」
「最低ですね」
ミリアが呟く。
「ばれたら海へ放り込まれますからね」
少しだけ笑いが起きた。
「待て」
俺は言う。
「親父?」
俺は固まった。
「あの漁師ダンか」
「そうです」
なるほど。
ようやく繋がった。
「レオン様」
ダンが真顔になる。
「親父は悪いことをしたんでしょうか」
俺は首を振った。
「違う」
「むしろ騙された側だ」
俺はここまで調べた内容を話した。
銀貨十一枚。
補助金。
借金。
新規参入。
そして銀貨四枚。
ダンの顔色が少しずつ変わっていく。
「だが」
俺は続けた。
「証拠がない」
「このままでは推測だ」
ダンはしばらく考え込んだ。
そして顔を上げる。
「一人だけいます」
「何のことだ」
「昔の師匠です」
「引退した船乗りです」
「ラングの連中とも付き合いがありました」
俺は頷く。
「信用できるのか」
「できます」
ダンは即答した。
「口は悪いです」
「酒癖も悪いです」
「借金もあります」
「良い所がないな」
「ですが」
ダンの表情が変わる。
「嘘だけは嫌う人です」
静かになる。
「それと」
ダンは続けた。
「昔、一度だけ聞いたことがあります」
「何をだ」
「師匠が酔った時です」
ダンは俺を見た。
「ラングの連中も後悔しているって」
俺の目が細くなる。
「後悔?」
「はい」
「自分達は儲けただけのつもりだった」
「でも気付いたら」
「バルドが終わっていたって」
部屋が静かになる。
俺は立ち上がった。
「会いに行くぞ」
「はい」
ようやく。
次の扉が見えてきた。
(第42話 引退した船乗り)
評価、コメント、ブックマーク宜しくお願いします。




