第38話 誰が得をした
その夜。
俺は買付記録と販売記録を並べていた。
「まだやるんですか」
ミリアがうんざりした顔をする。
「ああ」
「鮭も大変ですね」
「なぜ鮭だ」
「領主様に調べられてるので」
もはや寝不足でナチュラルハイだ。
◇◇◇
昨日分かったこと。
銀貨四枚は結果ではない。
始まりだった。
なら。
誰が得をした。
「ダレン」
「はい」
「ラング商会の販売先は分かるか」
「こちらには資料はありませんが」
「王国の都周辺や、更に南方にもと聞いたことが
あります」
俺は数字を追う。
銀貨十一枚で買う。
利益は出る。
銀貨四枚で買う。
利益はさらに出る。
ちょっと待てよ。
「そんな遠くにどうやって売る」
思わず口に出ていた。
「やっぱりですか」
ミリアが身を乗り出す。
「何がだ」
「南方の人は熟成したものが好きなんだなあって」
一瞬、空気が止まる。
「そういう事か」
王都まで陸路で三日。
さらに南方ならもっとかかる。
海路はない。
ミリアは得意げな顔をしている。
「どういうことですか」
ダレンが聞く。
「鮭はここで終わっていない」
「え?」
「利益の流れを追えるかもしれん」
「明日ラングに行こう」
「またですか」
「まただ」
◇◇◇
俺はもう一度販売記録を開いた。
利益を出した。
それだけでは罪にならん。
俺は帳簿を閉じる。
ミリアが首を傾げる。
「儲けるだけなら」
「四枚である必要がない」
静かになる。
「どういうことです?」
「五枚でも儲かる」
「六枚でも儲かる」
「七枚でもな」
銀貨十一枚から見れば。
どれも十分安い。
「確かに」
ダレンが頷く。
「それなのに四枚ですか」
「ああ」
しかも。
漁獲量が減り始めても四枚。
さらに減っても四枚。
価格は動かない。
「利益だけなら説明がつかん」
俺は呟いた。
商人は儲かった。
だが。
それだけではない。
何か別の目的があった。
「別の目的?」
ミリアが聞く。
「分からん」
俺は首を振った。
「だが」
「四枚に固執した理由がある」
帳簿を見る。
十一枚。
補助金。
新規参入。
四枚。
競争。
乱獲。
そして。
鮭は減った。
「まるで」
ダレンが小さく呟く。
「誰かがそうなると知っていたみたいですね」
俺は答えなかった。
だが。
その可能性は。
考える価値があった。
(第39話 ラング商会)
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