第37話 補助金の提案者
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俺の机には新しい書類の山が積まれていた。
「またですか」
ミリアがげんなりしている。
「ああ」
「この領地、紙しかないんですか」
「紙があるだけマシだ」
「そうなんですか」
「無いと調査できん」
ミリアは納得していない顔だった。
◇◇◇
「ダレン」
「はい」
「補助金の記録は集められた?」
「こちらです」
分厚い綴りが置かれる。
領地運営記録。
予算書。
議事録。
提案書。
前領主の決裁記録。
◇◇◇
俺は順番にめくっていく。
漁業振興。
船舶購入支援。
網購入補助。
新規参入者支援。
「結構出してますね」
ミリアが言う。
「ああ」
思った以上だ。
だが。
前領主を責める気にはならない。
当時の価格は十一枚。
誰が見ても好景気だ。
豊かになると思うだろう。
「変ですか?」
ミリアが聞く。
「まだ分からん」
俺は正直に答えた。
さらにページをめくる。
その時だった。
「領主様」
ダレンが一枚の紙を差し出した。
「これは?」
「聞き取り記録です」
俺は目を通す。
元農家。
当時、漁業へ転換。
証言。
『最初は皆驚いた』
『その年の最初の買付から銀貨四枚だった』
俺の手が止まる。
「最初から?」
「はい」
ダレンが頷く。
「他にも同じ証言があります」
次。
『去年は十一枚だった』
『だから今年は一時的だと思った』
『すぐ戻ると思った』
さらに次。
『自分だけは儲かると思った』
『他の連中より多く獲ればいいと』
静かになる。
「なるほどな」
「何か分かったんですか?」
ミリアが聞く。
「順番が逆だ」
「逆?」
「皆は」
俺は証言を見た。
「獲り過ぎたから安くなったと思っていた」
「違うんですか?」
「少なくとも」
「最初から四枚だった」
ミリアが目を丸くする。
「あ」
「そうだ」
まだ大量には獲られていない。
まだ供給過剰でもない。
それなのに。
銀貨四枚。
「じゃあ」
ミリアが言う。
「安くなったから獲ったんですか」
「意味がわからん」
ミリアの会話を遮る。
去年は十一枚。
借金もある。
船も買った。
だから皆思った。
今年は安い。
だが。
来年は戻る。
なら今のうちに獲る。
「そして誰も止まらなかった」
俺は呟いた。
ミリアは黙る。
ダレンも何も言わない。
俺は補助金の記録を見る。
そして証言を見る。
十一枚。
補助金。
新規参入。
四枚。
競争。
乱獲。
「何かがおかしい」
前領主は利用されたのか。
それとも偶然か。
まだ分からない。
だが。
四枚は結果ではない。
始まりだった。
(第38話 誰が得をした)




