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第35話 得をした者

 俺は買付記録を机の上に並べていた。

「また帳簿ですか」

 ミリアが言う。

「ああ」

「領主様、絶対前世は帳簿だったと思います」

「意味が分からん」

「私も言ってから分からなくなりました」

 朝から何を言っているんだ。

◇◇◇

 昨日分かったことは一つだ?

 価格が四枚になった後も。

 漁師達は獲り続けた。

 借金があった。

 去年の価格を信じた。

 だから止まれなかった。

 では。

 誰が得をした。

「ダレン」

「はい」

「買付量の記録はあるか」

「あります」

 新しい帳簿が置かれる。

 分厚い。

 嫌な予感しかしない。

 銀貨十一枚の年。

 買付量はそれほど多くない。

 漁協が抑えていたからだ。

 翌年。

 銀貨四枚。

 買付量が跳ね上がる。

 さらに翌年。

 もっと増える。

「増えてますね」

 ミリアが覗き込む。

「ああ」

 俺は計算する。

 銀貨十一枚で買う。

 利益は出る。

 銀貨四枚で買う。

 同じように売る。

 利益は大きくなる。

 かなり大きく。

だが普通だ。

「なるほどな」

「何がです?」

 ミリアが聞く。

「儲かった」

「誰がです?」

 ミリアが顔をしかめた。

「商人達ですか」

ダレンが口をはさむ。

「酷いですね」

「まだ分からん」

「え?」

「儲けるだけなら商売だ」

 俺は肩をすくめる。

「安く仕入れて高く売る」

「それ自体は普通だ」

「じゃあ何がおかしいんです?」

「量だ」

 買付量。

 鮭が減り始めた後も。

 同じ価格で買っている。

全て同じ価格だ。

「商人達は」

 俺は呟く。

「商人達は意図的に価格を決めている」

 ミリアが黙る。

 ダレンも何も言わない。

 鮭を獲る者は苦しい。

 価格は安い。

 借金はある。

 それでも獲る。

 だが。

 買う側は違う。

「領主様」

 ダレンが聞く。

「では犯人は商人ですか」

「まだ早い」

 俺は首を振った。

「分かったのは」

「価格操作されている可能性があるということだ」

 俺は買付記録を閉じる。

 だが。

 もう一冊だけ開く。

「どうしました?」

 ミリアが聞く。

「気になることがある」

 ラングA商会。

 ラングB商会。

 ラングC商会。

 どれもラングだ。

「ダレン」

「はい」

「ラング以外の買付業者はなかったのか」

 ダレンは記録をめくる。

 しばらくして顔を上げた。

「少なくとも帳簿にはありません」

「ほぼ全てラングです」

 俺は黙った。

 漁師達は。

 誰に売っていた。

 ラング。

 Aも。

 Bも。

 Cも。

 全部ラングだ。

「なるほどな」

「何か分かったんですか?」

 ミリアが聞く。

「いや」

 俺は首を振った。

「まだ分からん」

 だが。

 次に見るべき場所は見えた。

 商人達だ。


(第36話 競争していない)



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