第34話 止まれなかった者達
翌日。
ダレンは朝から聞き取りの結果を持ってきた。
「早いな」
「当時を知る者はまだおりますから」
紙束を机に置く。
思ったより厚い。
「全部読まれるのですか?」
ミリアが聞く。
「全部だ」
「うわぁ……」
露骨に嫌そうな顔をした。
◇◇◇
最初の証言。
元農家。
去年は銀貨十一枚だった。
だから翌年も上がると思った。
次。
元林業。
今年は安い。
だが来年は戻ると思った。
次。
皆そう言っていた。
「同じですね」
ミリアが言う。
「ああ」
俺は頷いた。
さらに読み進める。
補助金が出た。
船を買った。
網を買った。
足りない分は借りた。
「借りた?」
ミリアが首を傾げた。
「補助金だけじゃ足りなかったんでしょうか」
「船は高い」
ダレンが答える。
「網もです。補助金だけでは足りません」
次の証言。
借金は返せると思った。
鮭が売れれば返せる。
去年まで十一枚だったのだから。
◇◇◇
俺は紙を置いた。
なるほど。
「何か分かったんですか?」
ミリアが聞く。
「ああ」
俺は頷く。
「皆、同じことを考えた」
「同じこと?」
「去年の価格だ」
普通なら価格が下がれば獲らなくなる。
儲からないからだ。
「でも獲ったんですよね」
「ああ。借金だな」
船。
網。
漁具。
去年までの高値を前提に買った。
「だから四枚でも獲る」
俺は続けた。
「五匹で足りないなら十匹。十匹で足りないなら
二十匹」
「うわぁ……」
ミリアが顔をしかめた。
「そして誰も止まらなかった」
結果。
漁獲量は増える。
さらに増える。
鮭は減る。
「じゃあ」
ミリアが言う。
「ダンさん達は正しかったんですね」
「そうだろうな」
来年の分を残せ。
獲り過ぎるな。
結果だけ見れば正しかった。
◇◇◇
だが。
俺は価格表を見る。
十一枚。
四枚。
四枚。
四枚。
「妙だな」
「何がです?」
「四枚だ」
銀貨十一枚。
その後、銀貨四枚。
「この差額は大きい」
「確かに」
「しかも」
俺は帳簿を叩いた。
「価格が下がった後も皆は獲り続けた」
「そうですね」
「つまり」
「安く大量に仕入れられた」
ミリアが瞬きをした。
「……あ」
「そうだ」
鮭を売った者は苦しんだ。
だが。
買った者はどうだ。
銀貨十一枚で買うのと。
銀貨四枚で買うのでは。
話が違う。
(第35話 得をした者)
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