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第30話 価値を売れ

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 翌朝。

 俺達は再び燻製屋へ来ていた。

 店主は俺達を見るなり眉をひそめた。

「また来たのか」

「ああ」

「魚を買うのか」

「違う」

 俺は吊るされた燻製を見る。

「作りたい」

 静かになる。

 店主が固まった。

 ミリアも固まった。

 ダレンは予想していたらしい。

 驚いていない。

「断る」

 即答だった。

「早いな」

「当たり前だ」

 店主は鼻を鳴らす。

「商売だからな」

 正論だった。

 反論できない。

「金を払う」

「いくらだ」

 そこで止まる。

 金がない。

 借金だらけだ。

 店主が笑った。

「だろうな」

 完全に見抜かれていた。

◇◇◇

 店を出る。

 ミリアがため息をついた。

「終わりましたね」

「終わってない」

「終わりました」

「終わってない」

 平行線だった。

 だが。

 俺は気付いていた。

 燻製は儲かる。

 間違いなく。

 だからこそ。

 店主は教えない。

 それだけだ。

「レオン様」

 ダレンが言った。

「どうしますか」

「見て回る」

「何をです」

「市場だ」

◇◇◇

 一日かけて調べた。

 燻製。

 塩漬け。

 干物。

 保存食。

 共通点があった。

「高いな」

「ああ」

 ダンが頷く。

「腐らんからな」

 それだけではない。

 運べる。

 遠くへ。

 長く。

 そして。

 鮮魚より高く売れる。

 頭の中で数字が動く。

 鮭二千匹。

 鮮魚。

 利益は少ない。

 だが。

 加工すれば違う。

 倍。

 三倍。

 あるいはそれ以上。

「レオン様?」

 ミリアが不安そうに聞く。

「また計算ですか」

「ああ」

「どうです?」

 俺は少し笑った。

「黒字だ」

 ミリアが固まった。

「本当ですか」

「ああ」

 初めてだった。

 借金返済への道筋が見えたのは。

 だが。

計算と現実は違う。

 加工できない。

 職人がいない。

 設備もない。

 そこだった。

◇◇◇

 夕方。

 港へ戻る。

 船が並んでいる。

 以前より少ない。

 それでも。

 二隻あった。

 ダンの船だ。

「運ぶことならできる」

 ダンが言った。

 俺は顔を上げる。

「何?」

「鮭だ」

 ダンは海を見る。

「加工できるならな」

 静かになる。

 ミリアもグランも黙った。

港の風が吹いた。

 レオン達は先を歩いている。

 ミリアは何か文句を言っていた。

 ダレンは苦笑している。

 ダンだけが立ち止まった。

 視線の先には船。

 二隻。

 残った船だった。

 しばらく見つめる。

 そして。

「……親父なら喜ぶだろうな」

 誰にも聞こえない声だった。

 風がその言葉をさらう。

 ダンは小さく息を吐いた。

 そして歩き出す。

「ダン」

 レオンが振り返る。

「ああ」

「協力してくれ」

 静かになる。

 ダンは少しだけ笑った。

「条件がある」

 そう言った。


(第31話 ダンの条件)



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