第3話 戦力十二人、ゴブリン五十匹
「まずはゴブリンを片付けよう」
そう言って領主館を出た俺を、ミリアが慌てて追い
かけてきた。
「待ってください!」
「なんだ」
「向こうは五十匹ですよ?」
「ああ」
「こっちは十二人ですよ?」
「ああ」
「どう考えても負けます」
「その考え方が間違っている」
俺は歩きながら答えた。
「戦争は人数で決まらない」
「決まると思います」
「決まることもある」
「あるんですね」
「だが今回は違う」
ミリアは納得していない顔だった。
当然だろう。
普通に考えれば無理だ。
だが俺はまず数字を確認したかった。
数字は嘘をつかない。
現場の感情より信用できる。
村の北門へ向かう。
そこには既に住民たちが集まっていた。
槍を持つ老人。
弓を抱えた中年男。
震える若者。
どう見ても精鋭部隊ではない。
「グラン」
「はい」
「戦える者を集めてくれ」
十分後。
広場に十二人が並んだ。
最年少が十七歳。
最年長が六十八歳。
平均年齢は軽く五十を超えている。
ミリアが小声で言った。
「終わってます」
「そうだな」
俺も否定できなかった。
だが重要なのはそこではない。
「武器は?」
「槍が八本」
「弓は?」
「三張り」
「矢は?」
「二十三本」
「剣は?」
「二本」
「鎧は?」
全員が沈黙した。
なるほど。
ないらしい。
俺は地面に棒で数字を書いた。
戦力十二人。
槍八本。
弓三張。
矢二十三本。
ゴブリン五十匹以上。
普通に戦えば負ける。
間違いなく負ける。
「レオン様」
グランが言った。
「やはり住民を避難させるべきでは」
「避難先は?」
「ありません」
「なら却下だ」
グランが黙った。
俺は北の森へ視線を向けた。
「ゴブリンはどこから来る」
「森です」
「森のどこからだ」
「それは……」
「案内してくれ」
俺たちは北門を出た。
森へ向かう。
歩きながら地形を確認する。
十五分ほど進んだところで足を止めた。
「なるほど」
思わず笑った。
答えがあった。
森の入口は三か所。
だが実際に人が通れる道は一本しかない。
左右は崖。
中央だけが開いている。
「どうしたんですか?」
ミリアが聞く。
俺は森の入口を指差した。
「ここだ」
「何がです?」
「利益が出る場所だ」
「ゴブリンですよ?」
「同じことだ」
俺は地面に図を書いた。
「物流も戦争も本質は同じだ」
「そうなんですか?」
「物や人が移動する」
「はい」
「なら流れを支配した方が勝つ」
ミリアは首を傾げている。
だが俺には見えていた。
前世でも何度も見た。
赤字工場。
物流網。
港湾計画。
全部同じだ。
ボトルネックを押さえた者が勝つ。
「グラン」
「はい」
「村に油はあるか」
「油?」
「料理用でいい」
「少しなら」
「縄は?」
「あります」
「木材は?」
「山ほど」
俺は頷いた。
十分だ。
予算ゼロ。
追加人員ゼロ。
だが問題ない。
「レオン様」
ミリアが不安そうに聞いた。
「本当に勝てるんですか?」
「勝てる」
「根拠は?」
俺は森の入口を見つめた。
「ゴブリンは五十匹」
「ああ」
「こちらは十二人」
「そうです」
「違う」
「え?」
「戦うのは十二人じゃない」
俺は崖を見上げた。
細い道。
急斜面。
倒木。
岩。
そして森そのもの。
「この地形全部が味方だ」
ミリアとグランが顔を見合わせた。
まだ理解していないらしい。
まあ当然だ。
今はまだ説明する必要もない。
「村へ戻るぞ」
「作戦ですか?」
「そうだ」
「どんな?」
俺は少し考えた。
そして笑う。
「簡単だ」
「簡単?」
「森の入口を一本にする」
その瞬間。
遠くからゴブリンの鳴き声が聞こえた。
もう時間はない。
だが十分だ。
必要な数字は揃った。
あとは実行するだけだ。
(第4話 森の入口を一本にしろ)
次話もお楽しみに!ブックマークしておくと更新通知が届きます




