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「不正を告発したら辺境に追放された。三年後、王国は私に頭を下げることになる  作者: 幸善さち


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第2話 税収銀貨八枚の領地

「レオン様、見えてきました」

 ミリアの声で目を開けた。

 三日間の馬車旅を終え、ようやく北方辺境領バルド

へ到着したらしい。

 窓の外を見る。

 灰色の空。

 崩れかけた木柵。

 荒れた街道。

 人影の少ない集落。

 そして手入れされていない畑。

「なるほど」

 俺は小さく頷いた。

 地図で見ていた以上に状況は悪い。

 だが想定外ではない。

 衰退する地域には共通点がある。

 人がいない。

 金がない。

 未来がない。

 そして、誰も変えようとしない。


「ようこそバルド領へ」

 出迎えた老人が頭を下げた。

「領主代理のグランと申します」

「レオン・バルドだ」

「お待ちしておりました」

 そう言ったグランの服は擦り切れていた。

 歓迎の言葉とは裏腹に、領地の財政事情を

物語っている。

「領主館へご案内します」

 案内された建物を見て、ミリアが固まった。

「これが……領主館ですか?」

 屋根は一部崩れ、窓には板が打ち付けられている。

 どう見ても廃屋だ。

「修繕費がありませんので」

 グランは申し訳なさそうに言った。

「なるほど」

 俺はむしろ安心した。

 少なくとも現実を隠そうとはしていない。

 再建するなら、そういう人間の方が扱いやすい。

 領主館の一室に入り、俺は席についた。

「まず帳簿を見せてください」

 グランが一冊の帳簿を差し出した。

 俺はページをめくる。

 一分後。

 二分後。

 三分後。

 帳簿を閉じた。

「どうでした?」

 ミリアが恐る恐る聞く。

「年間税収」

「はい」

「銀貨八枚」

 ミリアが固まった。

「え?」

「銀貨八枚だ」

「八十枚ではなく?」

「八枚」

「八百枚ではなく?」

「八枚」

 ミリアは帳簿を奪い取った。

 そして数秒後。

「終わってます!」

 第一声がそれだった。

「そうだな」

「王都の屋台以下ですよ!」

「その通りだ」

「笑い事じゃありません!」

 俺は肩をすくめた。

 確かに酷い。

 だが問題はそこではない。

「借金は?」

 俺が聞くと、グランが最後のページを開いた。

「こちらです」

 金貨十二万枚。

 ミリアが無言になった。

 数秒後。

「帰りましょう」

 小さく呟いた。

「駄目だ」

「まだ着いて一時間ですよ?」

「だからだ」

 俺は再び帳簿を見た。

 確かに想定より悪い。

 だが数字は嘘をつかない。

 そして数字には必ず原因がある。

「食料備蓄は?」

「三日分です」

「冬まで?」

「四十八日です」

 さすがに少し考えた。

 税収ゼロ。

 借金十二万枚。

 食料三日分。

 普通なら終わりだ。

 だが普通なら、そもそも俺はここに来ていない。

「他には?」

 グランが言いづらそうに口を開く。

「今月末に徴税官が参ります」

「借金の回収か」

「はい」

「払えなければ?」

「差し押さえです」

「何を?」

「土地と住民を」

 ミリアの顔色が変わった。

「住民まで?」

「前例があります」

 部屋が静まり返る。

 なるほど。

 だから皆、諦めた顔をしているのか。

 未来がないからではない。

 未来を奪われることが決まっているからだ。

 俺は立ち上がった。

 窓の外を見る。

 地図で確認していた入り江が見える。

 未開発の森も。

 山も。

 使われていない土地も。

 金はない。

 だが資源はある。

 それだけで十分だ。

「レオン様」

 ミリアが聞く。

「本当に立て直せるんですか?」

「立て直す」

「根拠は?」

「まだ誰も経営していないからだ」

「え?」

「この領地は潰れたんじゃない」

 俺は外を見ながら言った。

「放置されていただけだ」

 その瞬間だった。

 領主館の扉が勢いよく開いた。

「大変です!」

 若い男が飛び込んでくる。

「何事だ」

 グランが立ち上がる。

 男は息を切らしながら叫んだ。

「北の森からゴブリンです!」

 グランの顔色が変わった。

「またか」

「今度は数が違います!」

「何匹だ?」

「五十匹以上!」

 部屋の空気が凍った。

 五十匹。

 戦力のない辺境領には致命的な数だ。

 ミリアが俺を見る。

「レオン様」

「なんだ」

「税収銀貨八枚」

「ああ」

「借金十二万枚」

「ああ」

「食料三日分」

「ああ」

「ゴブリン五十匹」

「ああ」

「終わってません?」

 俺は少し考えた。

 そして答えた。

「いや」

「え?」

「最初の仕事が決まった」

 帳簿を閉じる。

 数字は確認した。

 現場も見た。

 なら次は対策だ。

「戦える者は何人いる?」

 グランが答える。

「十二人です」

 俺は頷いた。

「十分だな」

「どこがですか!?」

ミリアが叫ぶ。

俺は帳簿を閉じた。

「向こうは五十匹しかいない」

部屋が静まり返った。

「……はい?」

「百匹なら面倒だった」

 そして森の方角を見た。

「まずはゴブリンを片付けよう」


(第3話 戦力十二人、ゴブリン五十匹)



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