第27話 川が銀色だった頃
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朝日が川を照らしていた。
鮭の群れはまだ続いている。
ミリアはしゃがみ込んでいた。
「眠いです」
「まだ言うのか」
「眠いものは眠いです」
ダレンが苦笑する。
だが。
誰も帰ろうとは言わなかった。
目の前の光景がそれほど凄かったからだ。
「昔はもっといた」
ダンが言った。
俺は川を見る。
「十倍か」
「ああ」
「本当に川が銀色だったのか」
「そうだ」
ダンは頷いた。
「春になればな」
しばらく沈黙。
そして。
俺は聞いた。
「組合長だったそうだな」
ダンがこちらを見る。
ミリアも顔を上げた。
ダレンも驚いている。
「誰に聞いた」
「漁師だ」
「余計なことを」
ダンはため息をついた。
だが否定はしない。
「昔の話だ」
「聞かせてくれ」
ダンは川を見る。
鮭を見るようで。
見ていなかった。
「昔は船が多かった」
「ああ」
「漁師も多かった」
「帳簿で見た」
ダンは少し驚いた顔をした。
「帳簿を読んだのか」
「ああ」
「そうか」
「最初は良かった」
ダンが続ける。
「鮭は獲れる」
「金になる」
「皆儲かった」
当然だろう。
「だが」
そこで声が低くなる。
「ラングが来た」
静かになる。
老人達の顔から笑みが消えた。
「魚を買うと言った」
「悪い話ではないな」
「ああ」
「最初はな」
ダンの目が細くなる。
「最初は高く買った」
俺は頷いた。
よくある話だ。
「漁師は喜んだ」
「船も増えた」
「人も増えた」
「そして」
ダンは苦く笑った。
「皆ラングにしか売らなくなった」
なるほど。
俺は理解した。
「依存したのか」
ダンは黙って頷く。
「他に売り先がなくなった」
「そうだ」
「そして値段が下がった」
「ああ」
ミリアが小さく息を呑んだ。
「それって……」
「逃げられない」
俺が答えた。
「そういうことだ」
ダンが言う。
「最初は少し」
「次はもう少し」
「気付けば半分だった」
誰も喋らない。
よくある。
前世でも見た。
取引先を一社に依存する。
そして。
相手が強くなる。
「その後は」
俺は聞いた。
「漁師は量を求めた」
ダンの声は重かった。
「値段が下がった分だけ獲ろうとした」
静かになる。
「結果は?」
「お前が見た通りだ」
ダンは川を見る。
銀色の魚影。
だが。
昔より少ない。
「俺は止めた」
ダンが言う。
「だが止まらなかった」
初めてだった。
ダンが悔しそうな顔を見せたのは。
「組合長だったのにか」
「ああ」
短い返事だった。
その一言に。
全部入っていた。
責任。
後悔。
諦め。
十五年という時間。
「だから守ったのか」
ダンは答えない。
だが。
否定もしなかった。
しばらくして。
俺は立ち上がった。
「レオン様?」
ミリアが聞く。
俺は川を見る。
そして。
北ではなく。
南を見た。
ラングの方角だ。
「問題は鮭じゃない」
静かになる。
「売り先だ」
ダンが顔を上げた。
「何?」
「鮭はいる」
俺は言った。
「だが」
「またラングに売れば同じことになる」
風が吹く。
ダンは黙っていた。
「だから」
俺は笑った。
「別の客を探そう」
老人達が固まる。
ミリアが頭を抱えた。
「ああ、始まりました……」
だが。
商売の基本だ。
客が一人なら。
客を増やせばいい。
それだけの話だった。
(第28話 ラングへ)
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