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第25話 漁師の時間

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 翌朝。

 まだ空は暗かった。

 昨日より早い。

 かなり早い。

 ミリアは半分寝ている。

「眠いです」

「そうか」

「眠いです」

「聞いた」

「帰りたいです」

「無理だ」

「今帰りたいです」

 無茶苦茶だ。

 だが気持ちは分かる。

 俺も眠い。

 やがて。

 川辺へ到着した。

 ダンはいた。

 昨日と同じ場所だ。

 腕を組んで立っている。

 こちらを見る。

 そして。

「遅い」

 開口一番だった。

 ミリアが固まった。

「は?」

 ダレンも目を瞬いた。

「遅い?」

「昨日よりずっと早いですが」

 ダンは鼻を鳴らした。

「鮭は逃した」

 静かになる。

「逃した?」

 俺は聞いた。

「ああ」

「どういう意味だ」

「そのままの意味だ」

 ダンは川を見る。

「逃した」

 意味が分からない。

 ミリアが一歩前へ出た。

「説明してください!」

 珍しく本気で怒っている。

「日の出前に来ました!」

「ああ」

「なのに遅いって何ですか!」

 ダンは平然としていた。

「遅いものは遅い」

 ミリアが頭を抱えた。

「会話にならない……」

 俺は川を見る。

 何かある。

 そう思った。

 だが。

 分からない。

「なら案内してくれ」

 俺は言った。

「断る」

「理由は」

「遅いからだ」

 ミリアが天を仰いだ。

「もう帰りましょう」

 完全に諦めていた。

 ダレンも苦笑している。

 その時だった。

 ダンが振り返る。

「明日来い」

 静かになる。

「明日?」

「ああ」

「同じ時間か」

「違う」

 ダンは俺を見る。

「もっと早く来い」

「どれくらいだ」

「今朝よりも早くだ」

 意味不明だった。

 そう言い残し。

 ダンは去っていく。

 老人達も続く。

 残されたのは俺達だけだった。

 しばらく沈黙。

 そして。

「何なんですかあの人!」

 ミリアが爆発した。

「説明不足です!」

「ああ」

「言葉が足りません!」

「ああ」

「帰れしか言いません!」

「ああ」

「レオン様は何で平然としてるんですか!」

 俺は少し考えた。

「理由はあるんだろう」

「分かりませんよ!」

「俺も分からん」

「分からないんですか!」

 当然だ。

 分からない。

 だが。

 嘘を言っているようには見えなかった。

「戻るか」

「賛成です」

 即答だった。

 俺達はバルドへ戻った。

◇◇◇

 昼過ぎ。

 港近くで漁師のハンスを見つけた。

「ハンス」

「レオン様?」

 俺は聞いた。

「ダンを知っているか」

 ダレンが固まる。

「知っています」

「有名なのか」

「漁師なら全員知っています」

 なるほど。

「どんな男だ」

 ハンスは少し考えた。

 そして笑う。

「漁師です」

「見れば分かる」

「それ以上の説明が難しいんです」

 困った顔だった。

「どういう意味だ」

「海は待ってくれません」

 ハンスは言う。

「魚も待ってくれません」

 俺は黙って聞く。

「だから漁師は時間にうるさい」

「なるほど」

「日の出前と言われたんですか?」

「ああ」

 ハンスは苦笑した。

「なら本当はもっと前だったんでしょう」

「もっと前?」

「ダンさんならそうです」

 少し分かった気がした。

「レオン様」

 ダレンが言う。

「どうされますか」

 決まっている。

「行く」

「ですよね」

 ミリアが机に突っ伏した。

「寝不足確定です……」

 だが。

 俺は少し楽しみだった。

 鮭より先に来い。

 あの言葉の意味を。

 確かめてみたくなった。


(第26話 鮭より早く)



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