第24話 守る者と使う者
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俺は再び北へ向かっていた。
隣にはダレン。
後ろにはミリア。
昨日と同じだ。
「本当に行くんですね」
ミリアが呆れたように言う。
「ああ」
「追い返されたんですよ」
「ああ」
「嫌われていますよ」
「ああ」
ミリアがため息をついた。
「全部認識してるんですね」
当然だ。
だから行く。
昨日は話が途中だった。
終わっていない。
それだけだ。
やがて。
獣道の先に人影が見えた。
ダンだった。
こちらに気付いている。
だが驚かない。
来ると思っていたのだろう。
「帰れ」
開口一番だった。
「断る」
「帰れ」
「断る」
「子供か」
「お互い様だな」
ミリアが頭を抱えた。
ダレンは空を見ていた。
現実逃避だろう。
「何をしに来た」
ダンが聞く。
「鮭の話だ」
「帰れ」
「その返事は聞いた」
ダンの眉間に皺が寄る。
だが。
昨日より怒っていない。
「一つ聞きたい」
「断る」
「お前達は何人いる」
ダンが黙った。
「答える義務はない」
「そうか」
俺は周囲を見る。
小屋。
網。
干した魚。
畑まである。
「十人前後か」
ダンの顔が少し動いた。
当たりらしい。
「レオン様」
ミリアが小声で言う。
「嫌がらせですか」
「違う」
大事なことだ。
「十年守ったと言ったな」
「ああ」
「生活費は」
静かになる。
「どうやって稼いだ」
ダンが初めて俺を見た。
本気で見た。
「それを聞くか」
「ああ」
「鮭の話ではないぞ」
「関係ある」
俺は答える。
「十年続いたなら事業だ」
ダンが固まる。
後ろの老人達も顔を見合わせた。
「事業?」
「ああ」
「赤字なら続かない」
前世でも同じだった。
理想だけでは人は生きられない。
「お前達は生きている」
「……」
「なら収入源がある」
沈黙。
やがて。
ダンが小さく笑った。
初めてだった。
「変な領主だな」
「よく言われる」
「聞いたことがない」
それはそうだろう。
「鮭を守った理由は聞かないのか」
「昨日聞いた」
「信じるのか」
「別に」
ダンが目を細めた。
「ならなぜ来た」
「儲かると思ったからだ」
ミリアが顔を覆った。
ダン達も呆れていた。
だが。
嘘ではない。
「正直な奴だ」
「そうか」
「普通はもっと綺麗事を言う」
「綺麗事で借金は返せん」
静かになる。
風が吹いた。
「借金?」
ダンが聞き返した。
「ああ」
「金貨十二万枚だ」
老人達が固まる。
「十二万?」
「本当か」
「嘘をつく意味がない」
ざわめきが広がった。
ダンだけが黙っていた。
「なるほどな」
しばらくして言った。
「だから鮭か」
「ああ」
「あいつらと同じか」
「違う」
俺は首を振る。
「バルドの地を残すためだ」
ダンが俺を見る。
真っ直ぐに。
長い間。
「……」
そして。
初めて。
弓を地面へ置いた。
ミリアが目を丸くする。
グランも気付いたらしい。
空気が変わった。
「ダン」
俺は言った。
「お前も知りたいはずだ」
「何をだ」
「鮭がどれだけ戻ったのか」
静寂。
ダンは答えない。
だが。
否定もしなかった。
「一緒に調べないか」
老人達がざわつく。
ダンは黙ったまま川を見る。
十年。
守り続けた川だ。
簡単に答えられる話ではない。
やがて。
ダンは小さく息を吐いた。
「一つだけ教えてやる」
「何だ」
「お前達は数え方を間違えている」
静かになる。
「何?」
ミリアが聞き返す。
ダンは川の上流を指差した。
「鮭はそこだけじゃない」
俺は目を細めた。
「どういう意味だ」
「本当に数えたいなら」
ダンが言う。
「明日の日の出前に来い」
そして。
踵を返した。
老人達も去っていく。
俺達だけが残された。
「レオン様」
ダレンが呟く。
「あれは」
「ああ」
俺は頷いた。
追い返されなかった。
それだけで十分だった。
そして。
どうやら。
俺達はまだ川の一部しか見ていなかったらしい。
(第25話 漁師の時間)
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