第20話 第二漁場
翌朝。
俺たちは再び北へ向かっていた。
目的は一つ。
第二漁場だ。
「本当にあるんでしょうか」
ミリアが古い地図を見ながら言った。
「さあな」
「適当ですね」
「二十年以上前の地図だ」
むしろ残っている方がおかしい。
だが。
確認する価値はある。
帳簿に残るほどの漁場だったのだから。
「もう少し先です」
グランが地図を確認する。
海岸線に沿って歩く。
やがて。
「見えました」
木々が途切れた。
その先に小さな入江がある。
そして。
全員が黙った。
「何もありませんね」
ミリアが言った。
「ああ」
小屋もない。
船着き場もない。
漁具もない。
ただの海だった。
「外れか」
俺は周囲を見回した。
だが違和感がある。
何もなさすぎた。
「グラン」
「はい」
「岩を見てくれ」
海沿いの岩場へ向かう。
すると。
「これは」
岩に穴が開いている。
規則的だ。
自然には見えない。
「杭の跡です」
グランが言った。
「杭?」
「ああ」
船着き場を作る時に使います」
なるほど。
やはりここだった。
第二漁場は存在した。
だが。
跡形もなく消えている。
「レオン様」
ミリアが呼ぶ。
「こっちです」
砂を掘っている。
そこから出てきたのは。
腐った木箱だった。
「開けてくれ」
蓋を壊す。
中身は空だった。
だが。
底に何か落ちている。
小さな金属片だった。
「これは?」
グランが拾う。
円形。
薄い。
そして中央に刻印。
魚だった。
「見たことがないな」
「私もです」
グランも首を振る。
その時だった。
「それ」
後ろから声がした。
三人とも振り返る。
老人だった。
杖をついている。
いつの間にいたのか。
「誰だ」
俺は聞く。
老人は金属片を見る。
懐かしそうだった。
「若い頃に見た」
「知っているのか」
「ああ」
老人は頷いた。
「昔の漁師組合の印だ」
静かになる。
「組合?」
「ああ」
老人は海を見る。
「昔はこの辺り一帯で鮭を獲っていた」
ミリアが目を丸くした。
「ここも?」
「ここもだ」
なら。
なぜ消えた。
俺は聞こうとした。
だが。
老人の顔は暗かった。
「やめたんじゃない」
静かになる。
「潰れたんだ」
風が吹いた。
老人は続ける。
「全部な」
俺は目を細めた。
どうやら。
鮭が消えただけではないらしい。
(第21話 潰れた漁師組合)




