第17話 運べない魚
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第17話 運べない魚
翌朝。
俺は村の集会所にいた。
中には漁師たちが集まっている。
二十人ほど。
年寄りもいれば、若者もいる。
全員が、不思議そうな顔をしていた。
壁際にゴルドが立っている。
何も言わないが、それだけで場が静かだった。
「レオン様」
ミリアが小声で聞く。
「何をするんですか」
「会議だ」
「またですか」
「ああ」
俺は前へ出た。
「聞きたいことがある」
漁師たちが顔を見合わせる。
「魚の話だ」
空気が少し変わった。
海の話なら分かる。
そういう顔だった。
「一番獲れる魚は何だ」
年配の漁師が答えた。
「ニシンですな」
「量は」
「冬なら、今の三倍」
予想通りだ。
「二番目は」
「タラです」
「三番目は」
「サバですな」
俺は紙に書く。
ニシン。
タラ。
サバ。
数字は、まだ足りない。
「一番儲かる魚は」
今度は、誰も答えなかった。
「どうした」
漁師たちが苦笑する。
そして。
「儲からんのです」
年配の漁師が言った。
「何?」
「全部安い」
静かになる。
「ニシンも」
「はい」
「タラも」
「はい」
「サバも」
「はい」
予想通りだった。
問題は魚ではない。
「なぜ安い」
漁師たちは顔を見合わせる。
そして。
「余るからです」
答えは簡単だった。
「冬になると皆獲る」
「はい」
「皆売る」
「はい」
「だから安い」
「その通りです」
市場の原理だった。
供給過多。
だから利益が出ない。
「レオン様」
ミリアが聞く。
「終わりました?」
「いや」
全然だ。
むしろ、ここからだ。
「一番高く売れた魚は何だ」
漁師たちが首を傾げる。
しばらくして。
一人の若い漁師が手を挙げた。
「昔ですが」
「何だ」
「鮭です」
集会所が静かになった。
「鮭」
「ああ」
別の漁師も頷く。
「昔はいた」
「今はいない」
「ほとんど獲れない」
「高かったのか」
「高かったです」
「どれくらいだ」
若い漁師が少し考える。
「ニシン十匹分くらい」
ミリアが目を丸くした。
「そんなに」
俺は紙に書く。
鮭。
ニシン十匹分。
面白い。
非常に面白い。
「どこで獲れた」
その瞬間だった。
漁師たちの表情が変わる。
誰も答えない。
「どうした」
沈黙が続いた。
それを破ったのは、壁際からの声だった。
「北だ」
漁師たちが、一斉にゴルドを見た。
「入り江の、さらに向こうだ」
「ゴルド」
年配の漁師が、咎めるように言った。
「言うなと言われてるだろう」
「誰にだ」
ゴルドが言った。
誰も答えなかった。
「親です」
「祖父です」
「そのまた祖父です」
理由は分からない。
だが、誰も行かないらしい。
面白い。
本当に面白い。
儲かる魚。
誰も行かない海。
そして、誰も理由を知らない。
俺は口元を緩めた。
「ダレン」
「はい」
「明日、案内してくれ」
ダレンが固まった。
「まさか」
「ああ」
「見に行く」
ミリアが頭を抱えた。
「また始まった……」
(第18話 誰も行かない海)
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