第15話 三十日
翌朝。
俺は領主館の机に向かっていた。
目の前には一枚の紙。
王都から届いた返済通知だ。
金貨五百枚。
三十日後。
短い。
かなり短い。
「レオン様」
ミリアが部屋へ入ってきた。
顔色が悪い。
昨日からずっとだ。
「眠れなかったのか」
「誰のせいだと思ってるんですか」
「俺のせいではないな」
「半分くらいはレオン様です」
失礼な話だった。
だが否定はしない。
グランも入ってくる。
「おはようございます」
「ああ」
俺は紙を机へ置いた。
「まず確認だ」
「何をです?」
「金貨五百枚」
ミリアが嫌そうな顔をした。
「聞きたくありません」
「聞け」
「はい……」
俺は紙に数字を書く。
五百。
その下に三十。
「割る」
グランが計算する。
「十六枚と少し……」
「約十七枚だ」
部屋が静かになる。
「金貨五百枚は大金だ」
俺は続ける。
「だが一日十七枚なら話は変わる」
ミリアが首を傾げた。
「変わります?」
「ああ」
「全然変わらない気がします」
「それは数字を見ていないからだ」
俺は窓の外を見る。
ゴブリン騒動の後。
村には少しだけ活気が戻っていた。
笑う人間も増えた。
だが。
それだけだ。
「経費削減は終わった」
「経費削減?」
グランが聞く。
「ゴブリンだ」
「ああ……」
「倒したところで金は生まれない」
借金も減らない。
食料を守れただけだ。
必要なのは次だ。
「利益を作る」
ミリアが嫌な予感しかしない顔をした。
「何を考えているんですか」
「魚だ」
「やっぱり」
即答だった。
グランも頷く。
「魚しかありません」
「塩田は」
「規模が小さいです」
「木材は」
「街道が悪く運べません」
「そうか」
なら魚だ。
結論は変わらない。
魚を売る。
それしかない。
その時だった。
扉が勢いよく開いた。
「レオン様!」
若い漁師が飛び込んできた。
息を切らしている。
「どうした」
「商人です!」
「商人?」
「はい!」
漁師が何度も頷く。
「入り江に船が来ています!」
三人が顔を見合わせた。
「魚を買いに来たのか?」
俺は聞いた。
「いえ」
漁師は首を振った。
「南へ向かう途中だそうです」
「途中?」
「水の補給で寄っただけだと」
なるほど。
偶然か。
だが。
商売に偶然は関係ない。
客がいる。
それで十分だ。
「何人だ」
「商人が一人と船員が四人です」
俺は立ち上がった。
「行くぞ」
「今からですか!?」
ミリアが叫ぶ。
「もちろんだ」
「ただ通りかかっただけですよ?」
「ああ」
「魚を買うとも言ってません」
「ああ」
「じゃあ何をするんですか」
俺は上着を掴んだ。
「売る」
ミリアが固まった。
「まだ売るって決まってませんよね?」
「だから今から決める」
「怖いんですけど!?」
グランが苦笑する。
だが。
時間は三十日しかない。
向こうから客が来たなら捕まえる。
それだけだ。
俺は領主館を出た。
北の海へ向かう。
入り江には一隻の船が停泊しているらしい。
どうやら。
最初の商談が始まる。
(第16話 通りすがりの商人)




