第14話 金貨五百枚
魚問屋の主人は即答した。
「腐る」
身も蓋もなかった。
「三日だ」
「三日?」
「ああ」
「冬でも三日」
主人は肩をすくめる。
「だから皆塩漬けにする」
なるほど。
物流だけでは足りない。
保存の問題か。
「塩漬けでは駄目なのか」
俺は聞いた。
「駄目じゃない」
「なら問題ないな」
「利益が出ない」
即答だった。
静かになる。
「生魚は高い」
「はい」
「塩漬けは安い」
「はい」
「だから皆儲からん」
話は理解できた。
物流。
保存。
また問題が増えた。
「レオン様」
ミリアが聞く。
「どうします?」
「調べる」
「またですか」
「ああ」
魚問屋を出る。
ラング港の通りは賑わっていた。
だが俺の頭の中は数字でいっぱいだった。
運賃。
保存費。
販売価格。
利益率。
まだ足りない。
その時だった。
「レオン・バルド伯爵」
後ろから声がした。
振り返る。
役人だった。
黒い制服。
胸には王家の紋章。
嫌な予感しかしない。
「何だ」
「王都から書状です」
封筒を差し出される。
俺は受け取った。
開封する。
中には短い文章が入っていた。
読み終える。
なるほど。
そういうことか。
「レオン様?」
ミリアが不安そうに聞く。
俺は書状を渡した。
二人が読む。
そして。
「ご、ごひゃく枚!?」
ミリアが叫んだ。
通行人が振り返る。
「静かにしろ」
「無理です!」
グランも青ざめている。
書状にはこう書かれていた。
――――――――――
バルド領借入金
金貨十二万枚
次回返済期限 三十日後
返済額 金貨五百枚
――――――――――
「今の領地にそんな現金はありません……」
グランが呟く。
「ああ」
その通りだ。
ゴブリン素材の売却で得た金は、ほとんど食料の
購入に消えた。
住民は飢えずに済んでいる。
だが。
借金は一枚も減っていない。
「レオン様」
ミリアの顔が引きつる。
「どうするんですか」
「そうだな」
俺は少し考えた。
魚は腐る。
利益はまだない。
船も借り物だ。
状況は良くない。
正直に言えば。
かなり悪い。
「レオン様?」
ミリアが聞く。
「まさか諦めませんよね?」
「諦める理由がない」
「あります!」
即答だった。
グランまで頷いている。
失礼な話だ。
だが気持ちは分かる。
俺はもう一度書状を見る。
金貨五百枚。
静かに計算する。
三十日。
金貨五百枚。
問題はそこではない。
「レオン様?」
俺は書状を畳んだ。
「金貨五百枚か」
「無理です」
ミリアが即答した。
「絶対に無理です」
グランも続く。
俺は首を振った。
「いや」
二人が固まる。
「問題は五百枚じゃない」
「え?」
「三十日しかないことだ」
静寂。
港の風が吹く。
俺は北の海を見る。
商品はある。
市場もある。
船もある。
足りないのは時間だ。
どうやら。
本当の勝負が始まるらしい。
(第15話 三十日)




