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第134話 五百金貨の先

第134話 五百金貨の先

 船大工が。

 指を。

 三本。

 立てた。

「三千?」

「ああ」

「金貨だ」

 ミリアが。

 固まった。

「……三千枚?」

「最低でもな」

 冬に。

 ノースと第一港を。

 越える。

 今より。

 多く積む。

 荷を。

 途中の港で。

 積み下ろす。

 それに耐える船。

 まだ。

 細かい仕様は。

 決めていない。

 だから。

 正確な見積もりではない。

「二千五百で」

「済むかもしれん」

「三千を」

「超えるかもしれん」

 船大工が言う。

「でも」

「千では」

「無理だ」

「分かった」

 俺は。

 帳簿を閉じた。

「え?」

 ミリアが。

 俺を見る。

「それだけですか?」

「ああ」

「造らないんですか?」

「今はな」

◇◇◇

 必要な船だ。

 それは。

 分かった。

 だが。

 必要な物と。

 今。

 買うべき物は。

 同じではない。

 三千金貨。

 今のバルドが。

 出せる金ではない。

 借りれば。

 造れるかもしれない。

 だが。

 借金を。

 減らしている途中で。

 また。

 大きな借金を。

 増やす。

 その判断は。

 まだ。

 できない。

「まず」

「今の商売が」

「どれくらい稼げるか」

「見よう」

◇◇◇

 バルドへ。

 戻った。

 ダレンも。

 呼んだ。

 机の上に。

 帳簿を。

 並べる。

 ニシン。

 加工費。

 運賃。

 ヴェルナでの売上。

 帰り荷。

 船倉の空きを。

 売った金。

 黒火石。

 まだ。

 始まったばかりの。

 商売も多い。

 正確な。

 一年分の数字など。

 出せない。

 それでも。

 今。

 知りたいことは。

 そこではない。

「この何便かを」

「一月くらいに」

「ならすと?」

 ミリアが。

 数字を追う。

「全部」

「経費を引いて?」

「ああ」

 少し。

 時間がかかった。

「五十金貨くらいです」

「多い月なら」

「もう少し」

 五十。

 一月。

 それが。

 一年続けば。

 六百。

 もちろん。

 そんなに。

 単純ではない。

 ニシンには。

 季節がある。

 海が荒れれば。

 船も止まる。

 黒火石が。

 ずっと百袋単位で。

 売れる保証もない。

 逆に。

 帰り荷は。

 まだ増えている。

 三つの港から。

 新しい荷も。

 出始めている。

「かなり」

「粗いですが」

 ミリアが言う。

「この状態なら」

「毎年五百金貨は」

「見えてきますね」

「ああ」

 今年の。

 五百金貨は。

 もう。

 払える。

 そして。

 今の商売が。

 大きく崩れなければ。

 来年も。

 その次も。

 払える可能性がある。

 以前とは。

 違う。

 五百金貨を。

 どう作るか。

 それだけを。

 考えなくてもよくなった。

「やりましたね」

 ミリアが。

 笑った。

「これなら」

「借金も」

「返していけます」

「……」

 俺は。

 帳簿の。

 一番上を見る。

 借入残高。

 十二万金貨。

「五百ずつなら」

「何年です?」

 ミリアの。

 笑顔が。

 止まった。

 計算する。

「……二百四十年」

「ああ」

「長いですね」

「長すぎる」

◇◇◇

 問題が。

 変わった。

 五百を。

 作れるか。

 ではない。

 十二万を。

 どう減らすか。

 毎年。

 言われた額だけ。

 返しているだけでは。

 終わらない。

 元本を。

 もっと。

 大きく削る。

 そのためには。

 ニシン一つ。

 黒火石一つでは。

 足りない。

 商売そのものを。

 大きくする必要がある。

 船も。

 その先だ。

 三千金貨を。

 無理して集めるより。

 三千金貨の船を。

 使い続けられるほど。

 荷と利益を。

 増やす。

 先に。

 そちらだった。

◇◇◇

 その日の。

 夕方。

 第三港から。

 男が来た。

「領主さんに」

「これを」

 封書だった。

 差出人。

 ベルン。

「誰です?」

 ミリアが聞く。

「知らない」

 ダンの息子が。

 名前を見る。

「ああ」

「第三港の」

「塩屋だ」

「塩屋?」

「一番古い」

「製塩所を持ってる」

 封を。

 切った。

 短い。

 文だった。

『第三港へ来い。

 港を立て直すつもりなら。

 先に。

 聞かせてもらうことがある』

 ミリアが。

 俺を見る。

「怒ってます?」

「たぶんな」

「何したんですか?」

「分からない」

◇◇◇

 第三港。

 以前。

 白い塩袋を。

 見た場所から。

 さらに。

 海沿いへ進んだ。

 大きな。

 製塩所があった。

 窯。

 干し場。

 倉庫。

 だが。

 使われているのは。

 一部だけ。

 残りは。

 閉じている。

 入口に。

 一人の男が。

 立っていた。

 六十を。

 少し過ぎたくらい。

 日に焼けた。

 顔。

「レオンか」

「ああ」

「ベルン?」

「そうだ」

 男は。

 俺を。

 上から下まで。

 見た。

「港に」

「事務所を作ったそうだな」

「ああ」

「倉庫まで」

「開けた」

「ああ」

 ベルンの。

 顔から。

 笑みが消える。

「王都の役人も」

「昔」

「同じことをした」

 潮の音だけが。

 聞こえた。

「それで」

 ベルンが言う。

「この港は」

「今の姿になった」

(第135話 売ったのは塩じゃない)



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