第127話 船を止めるな
第127話 船を止めるな
「嫌です」
「まだ」
「何も言ってない」
「船ですよね」
「ああ」
「嫌です」
ミリアが。
即答した。
「途中の港を」
「見るだけだ」
「途中でも」
「海は海です」
「正しい」
「納得しないでください」
◇◇◇
ヴェルナへの。
二度目の便。
ニシンを積む。
帰りには。
赤い実。
塩漬け野菜。
布。
どれも。
まだ。
少しだけだ。
「もっと」
「積まないんですか?」
ミリアが聞く。
「売れると」
「決まっていない」
「ロイドさんもイサクさんも」
「買うと言いましたよ」
「あの二人はな」
商人が。
仕入れると言った。
それが実際。
市場で売れるとは。
限らない。
「じゃあ」
「今回は」
「何をしに?」
「途中の港を」
「見る」
「荷はもう」
「決まってますよね?」
「俺たちの荷はな」
◇◇◇
ダンの息子に。
航路の紙を見せた。
「この便から」
「他の荷も」
「載せていいか」
「他の?」
「ああ、他の港から」
顔をしかめた。
「領主さん」
「ああ」
「それ」
「船乗りは嫌がるぞ」
「なぜ?」
「面倒だからだ」
即答だった。
◇◇◇
「荷主が」
「一人なら」
「積んで」
「運べば終わる」
男が。
指を折る。
「五人なら」
「五人と話す」
「荷を待つ」
「数える」
「誰の荷か分ける」
「降ろす港も違う」
「十人なら?」
「もっと面倒だ」
ミリアが。
紙を見る。
「でも」
「運び賃は」
「もらえますよね?」
「ああ」
「船も埋まる」
「でも」
「港で一日止まったら」
「一日分」
「稼げなくなる」
荷を増やせば。
船倉は埋まる。
だが。
荷主まで。
増えれば。
船が止まる。
積載を。
良くして。
運行を。
悪くする。
それでは。
意味がない。
だが。
俺たちの三つだけでは。
船倉は。
埋まらない。
この航路を。
毎年動かすなら。
俺たちの荷だけでは。
足りない。
「試させてくれ」
男は。
しばらく。
黙っていた。
「一度だけだぞ」
◇◇◇
最初の港。
着いて。
すぐ。
それが起きた。
「こっちを」
「先に積んでくれ」
「待て」
「俺の荷は」
「次の港で降ろすんだ」
「じゃあ」
「そっちが上だろ」
「これは?」
「その次だ」
「下に入れろ」
船乗りが。
荷を見て。
顔をしかめる。
木箱。
袋。
革の包み。
荷主が。
三人。
届け先も。
全部違う。
「これは」
「誰のだ?」
「俺じゃない」
「向こうの奴だ」
「向こうって誰だ」
その時。
「待ってくれ!」
別の男が。
走ってきた。
「まだ」
「荷がある!」
ダンの息子が。
空を見る。
「どこだ?」
「倉庫だ」
「今」
「持ってくる!」
「どれくらい?」
「すぐだ!」
四半刻。
来ない。
船乗りたちが。
空を見る。
風向きが。
変わり始めていた。
「あと少し待て!」
「今日中に」
「次の港へ入れなくなる」
ダンの息子が。
俺を見る。
「な?」
「ああ」
「荷が増えるってのは」
「こういうことだ」
◇◇◇
「出すぞ」
「でも」
「まだ荷が」
ミリアが。
倉庫を見る。
「次に回す」
「いいんですか?」
「一つの荷のために」
「船全部を」
「待たせる方が高い」
船を。
出した。
岸で。
荷主が。
何か叫んでいる。
だが。
待たなかった。
◇◇◇
海の上。
考える。
荷主を。
減らす必要はない。
船が。
一人ずつ。
相手をするから。
止まる。
船が来てから。
荷を集める。
船が来てから。
誰の荷か確認する。
船が来てから。
積む順番を決める。
全部。
遅い。
「ミリア」
「はい」
「前の」
「荷受け表」
「あります」
「出せ」
◇◇◇
ニシンを。
運んだ時。
作った表。
誰が。
何を。
いくつ。
渡した。
誰が。
受け取った。
破損。
時間。
全部。
残した。
「あの時は」
「荷をなくさないために」
「作りましたよね」
「ああ」
「今度は?」
俺は。
表を見る。
「船を止めないためだ」
◇◇◇
次の港で。
倉庫の一角を。
借りた。
バルド領の。
窓口にする。
この航路へ。
荷を載せたい者は。
船が来る前に。
そこへ持ってくる。
荷主。
品物。
数量。
届け先。
全部。
先に書く。
荷には。
札をつける。
降ろす港ごとに。
まとめておく。
締切を。
過ぎた荷は。
次の便。
船は。
商談しない。
待たない。
着いたら。
数える。
積む。
出る。
「遅れたら」
「本当に置いていくのか?」
倉庫の男が聞く。
「ああ」
「怒る奴もいるぞ」
「次は」
「時間までに持ってくる」
ダンの息子が。
横で。
笑った。
「それなら」
「船乗りもやる」
◇◇◇
港の奥から。
木を削る音が。
聞こえた。
細長い板。
底板。
輪。
積み上がっている。
「これ」
ミリアが。
足を止めた。
「樽ですよね」
「ああ」
「春の」
「加工場で」
「要りますよね」
鮭。
五千尾。
ニシンも。
扱う。
加工量が。
増えれば。
樽も。
必要になる。
「樽のまま」
「運ぶのか?」
俺が聞くと。
職人が。
首を振った。
「もったいない」
「板で持ってけ」
「板?」
「完成した樽は」
「中が空だろ」
職人が。
積んだ板を。
叩く。
「板と輪なら」
「ずっと積める」
「組める奴が」
「向こうにいればな」
なるほど。
作り方を。
俺が考える必要はない。
知っている人間に。
聞けばいい。
「値段と」
「月にどれだけ出せるか」
「聞いてくれ」
「買わないんですか?」
「加工場が動くのは春だ」
「今」
「買っても」
「置く場所が要る」
ミリアが。
紙を出した。
「では」
「これも」
「保留ですね」
「ああ」
◇◇◇
三つ目の港。
船を降りて。
すぐ。
違和感があった。
「静かですね」
ミリアが言った。
小さな港ではない。
桟橋が。
三本。
ある。
そのうち。
二本には。
船がいない。
倉庫も。
五つ。
並んでいる。
開いているのは。
一つだけ。
閉じた扉。
剥がれた看板。
荷揚げ場には。
古い轍だけが。
残っている。
「昔は」
「もっと船が来たらしい」
ダンの息子が。
港を見る。
「これだけの」
「桟橋があるなら」
「そうだろうな」
「何を」
「運んでた?」
「知らない」
「俺が船に乗り始めた頃には」
「もう」
「こんなだった」
倉庫の壁には。
古い荷札の跡が。
いくつも。
残っている。
ここには。
運ぶ物が。
あった。
運ぶ人間も。
いた。
だから。
この港が。
作られた。
なのに。
今は。
ない。
バルドを。
少し。
思い出した。
「レオン様?」
ミリアが。
俺を見る。
「調べます?」
「いや」
「今日は」
「仕組みが先だ」
ただ。
「港の名前」
「書いておけ」
「はい」
ミリアが。
紙に。
一行。
加えた。
◇◇◇
次の便。
試した。
港ごとに。
先に。
荷を集める。
締切。
荷札。
数量。
届け先。
荷受け表。
船が。
着く。
数える。
積む。
出る。
一つ目の港。
前なら。
何人もの荷主が。
船へ寄ってきた。
今日は。
来ない。
倉庫の前に。
荷だけが。
まとまっている。
「十二」
「合ってます」
「積め」
二つ目。
「八」
「合ってます」
「出すぞ」
荷主は。
増えた。
だが。
船は。
前より。
止まらなかった。
◇◇◇
帰りの船。
ダンの息子が。
俺の横へ来た。
「領主さん」
「何だ」
「うまくいったな」
「ああ」
「だが」
男が。
東を見る。
「一つ」
「気になることがある」
「何だ?」
「この航路は」
「ここから西は」
「ずっと船が動いてる」
第一港。
第二港。
第三港。
その先。
ヴェルナ。
どの港にも。
船がいた。
荷も。
動いていた。
「なのに」
「ヴェルナじゃ」
「冬に物が足りなくなる」
「おかしいと思わないか」
俺は。
航路の紙を見た。
第一港。
ノース。
今まで。
別々だった情報が。
一本に。
つながった。
俺は。
荷ばかり。
見ていた。
何を載せるか。
誰が持ってくるか。
どうすれば。
船が止まらないか。
船そのものを。
見ていなかった。
「西には」
「船がある」
「ああ」
「なら」
「切れているのは」
「どこだ」
男が。
答えた。
「ノースから」
「第一港までだ」
◇◇◇
潮が速い。
岩礁もある。
北風を。
まともに受ける。
特に。
冬は。
荒れる。
「そこが」
「一番きつい」
「その先は?」
「楽じゃない」
「だが」
「地元の船なら」
「回せる」
だから。
西の船は。
ノースまで来ない。
春から秋なら。
陸の街道がある。
わざわざ。
難所を越える理由がない。
冬になれば。
その街道が。
閉じる。
東から。
物が。
届かなくなる。
そこまでは。
聞いていた。
だが。
俺は。
北の海を。
一つの壁として。
見ていた。
違った。
壁ではない。
一か所だけ。
切れている。
その一か所を。
この男が。
越えた。
だから。
ニシンが。
ヴェルナまで。
届いた。
◇◇◇
もう一度。
航路の紙を見る。
これまで。
何もない海に。
道を作ったと。
思っていた。
違う。
道は。
もともとあった。
切れていたのは。
端の一か所。
そこがつながった今。
この航路は。
俺が思っているより。
ずっと。
長い。
「ミリア」
「はい」
「次は」
「もう一度」
「同じ港を回る」
「今度は何を?」
「今日までは」
「荷を運ぶ仕組みを見た」
「次は」
「その町が」
「何を作っているかを見る」
三つの商品が。
売れるかどうかは。
まだ分からない。
だが。
売れた時に。
積む物が。
三つしかないのでは。
この航路は。
続かない。
(第128話 売れなかった理由)
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