第126話 三つの商品、三つの値段
第126話 三つの商品、三つの値段
「陸です」
「ああ」
「ラングです」
「ああ」
「もう」
「船には」
「乗りませんよね?」
「バルドへ戻る」
「陸路ですよね?」
「ああ」
ミリアが。
目を閉じた。
「生きてて」
「よかった……」
「大げさだ」
「三日間」
「海の上で」
「言ってください」
◇◇◇
ラング。
ロイドの店。
机の上へ。
三つ。
並べた。
赤い実。
塩漬けの野菜。
油を。
叩き込んだ布。
「何だ」
ロイドが。
赤い実を。
つまむ。
「食べろ」
「酸っぱそうだな」
「魚と一緒に」
「食べてください」
ミリアが。
ニシンの燻製を。
横へ置いた。
「何で」
「お前が仕切る」
「調査です」
ロイドが。
赤い実。
ニシン。
続けて。
口へ入れた。
「……」
「どうです?」
「もう一つ」
ミリアが。
俺を見る。
「二個目です」
「見えてる」
◇◇◇
イサクも。
来た。
赤い実を。
食べる。
「面白いな」
「ラングに」
「似た物は?」
「ない」
「ノースは?」
「俺の知る限り」
「ないな」
俺は。
紙を出した。
「ヴェルナで」
「いくらだった?」
ミリアが。
数字を見る。
仕入れ。
瓶。
海上輸送。
積み替え。
それを。
足す。
「これが」
「原価です」
「じゃあ」
イサクが。
笑う。
「それに利益を乗せて」
「終わりか?」
「いや」
「だよな」
市場へ。
出た。
魚につける。
薬味。
肉に添える。
酢漬け。
保存できる。
似た役割の物を。
一つずつ。
見る。
値段も。
見る。
赤い実より。
安い物。
高い物。
客が。
何に。
いくら払っているか。
「原価は」
「下限だ」
ミリアが。
書く。
「売値は?」
「客が」
「比べる物で決まる」
「原価じゃなく?」
「原価だけでは」
「決まらない」
「まず、少量ラングで試したい」
「ロイド、魚屋と肉屋を紹介しれくれないか」
ロイドが赤い実とニシンの燻製を。
味わいながら。
俺を見つめ。
目を閉じる。
すべて飲み込んだ後。
「領主さんよ」
「この赤い実、気に入った」
「俺が責任をもって買うから」
「積んで来い」
「え!ロイドさん買ってくれるんですか」
「ああ」
「レオン様、やりましたね」
「もちろん、条件がある」
「またですか」
俺はロイドから目をそらさない。
「独占販売だ」
「また、悪いことを企んでますね」
「何を言っとる」
「独占販売も立派な取引だ」
「だって十年前の…」
「条件を聞こう」
ミリアを止め。
話の続きは俺が引き取った。
「わかった、それで行こう」
ロイドと契約することにした。
毎年の売買条件の取り決め方。
双方の違反事項など。
次。
塩漬けの野菜。
ロイドが。
肉と一緒に。
煮た。
「悪くない」
「悪くない?」
ミリアが。
睨む。
「すごく美味しいですよ」
ミリアも口に運ぶ。
「お前は」
「ヴェルナでも」
「食ってただろ」
「確認です」
イサクが。
仕入れ値を見る。
「安いな」
「ああ」
「この値段なら」
「かなり取れるぞ」
「この値段では」
「計算しない」
「なぜ?」
「今年だけだからだ」
ヴェルナは。
豊作。
野菜が。
余った。
だから。
安い。
だが。
来年。
平年へ戻れば。
値段も。
戻る。
「今年の安値で」
「売値を作ったら」
「来年」
「値上げすることになる」
「なるほど」
「だから」
「平年なら」
「いくらで買えるか」
「それで計算する」
仕入れ。
樽。
輸送。
売る手間。
平年でも。
利益が残る。
値段を。
置く。
イサクが。
数字を見る。
「今年は?」
「仕入れが安い分」
「利益になる」
ミリアが。
顔を上げる。
「今年だけ」
「安く売らないんですか?」
「ああ」
「売れるならな」
「なんか」
「悪い人みたいです」
「商売だ」
干した野菜は。
イサクが売ってみたい。
というので。
二年の独占販売の契約をした。
細かな条件をつめて。
久しぶりに、何も考えずに眠れた。
◇◇◇
翌日。
バルドへの帰りの馬車。
「いいんですか」
「独占販売権なんてあげちゃって」
ミリアが聞いてきた。
「独占販売の取引は」
「両者が納得すれば、良い取引形態でもある」
「へえ~」
「そんなもんなんですね」
前の世界でも。
独占販売があれば勝ち筋だ。
という役員もいた。
確かに一理ある。
ただ。
売れないものの権利は不要だ。
一番大事なのは細かな条件。
その逆もそう。
売れないものは。
売れるまで。
権利としての価値は。
ない。
代理店契約というのは。
簡単だが。
価値の評価と条件を。
決めることが難しい。
◇◇◇
バルド。
ダンを訪ねる。
網をしたてていた。
「これ」
「見てくれ」
油を。
叩き込んだ布を。
渡す。
ダンが。
広げる。
触る。
揉む。
鼻を。
近づける。
今度は。
外へ出た。
風。
強い。
布を。
肩へ掛ける。
「水」
「持ってこい」
桶を。
持ってくる。
ダンが。
自分で。
布へかけた。
「ダンさん!」
ミリアが。
声を上げる。
水が。
表面を。
流れる。
ダンが。
内側へ。
手を入れた。
「……」
「どうだ?」
返事がない。
もう一度。
触る。
しばらくして。
俺を見る。
「これ」
「どこにあった」
「ヴェルナ」
「いくらだ」
値段を。
言った。
ダンの眉が。
少し動いた。
「高いですか?」
ミリアが聞く。
「いや」
ダンが。
布を見る。
「あるだけ」
「持ってこい」
「え?」
「漁師なら」
「欲しがる」
「全員ですか?」
「全員じゃない」
ダンが。
首を振る。
「海へ出る奴だ」
「冬も出る奴なら」
「もっと欲しがる」
俺は。
笑った。
「何だ」
「いや」
「分かった」
「何がだ」
「値段だ」
◇◇◇
塩漬け野菜とは。
違う。
赤い実とも。
違う。
布を。
買う人間は。
少ない。
だが。
その人間にとって。
価値は高い。
風。
波。
冷え。
毎日。
困っている。
そこへ。
効く。
「安く」
「売らなくていい」
ミリアが。
俺を見る。
「高くするんですか?」
「価値に」
「合わせる」
「どれくらい?」
「まず」
「ダンに聞く」
「いくらまでなら」
「買う」
ダンが。
もう一度。
布を見る。
ダンによると。
この地域でも。
同じようなものがあったらしい。
しかし。
水がしみ込んだり。
臭いが強烈だったり。
使いものにならかなったようだ。
ヴェルナに。
何か作り方の。
秘密があるのかもしれない。
値段について。
ダンが答えた。
仕入れ。
輸送。
それを。
かなり上回る。
金額だった。
ミリアが。
目を丸くする。
「そんなに?」
「冬の海で」
「身体が冷えないなら」
「安い」
◇◇◇
夜。
机の上。
三つの商品。
三つの紙。
赤い実。
市場にある。
似た用途の商品から。
値段を作る。
塩漬け野菜。
今年の安値ではなく。
平年の仕入れで。
続けられる値段を作る。
今年は。
その差が利益になる。
布。
市場は狭い。
だが。
困り事が深い。
少量。
高い値段でも。
成立する。
「同じ」
「ヴェルナの商品なのに」
ミリアが。
三枚を見る。
「全部」
「売り方が違うんですね」
「ああ」
「面倒です」
「ああ」
「七枚書くより」
「面倒です」
「あれは」
「書いただけだからな」
「……」
「何だ」
「書記官を」
「敵に回しましたね」
◇◇◇
帰りの船倉を。
埋める。
それだけなら。
余り物でも。
できる。
だが。
航路を。
商売にするなら。
ただ。
何かを載せればいい。
わけではない。
売れる理由がある物を。
その理由に合う値段で。
載せる。
三つ。
小さい。
だが。
最初の。
帰り荷が。
商品へ。
変わり始めた。
俺は。
航路の紙を見る。
まだ。
空いている場所は。
多い。
一つの商品で。
全部。
埋める必要はない。
「ミリア」
「はい」
「次は」
「途中の港だ」
「……」
「何だ」
「また」
「船ですか?」
「船だな」
「聞かなかったことにします」
(第127話 一つで埋める必要はない)
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