第124話 空の船倉
第124話 空の船倉
「寒いです」
「分かった」
「揺れます」
「分かった」
「帰りたいです」
「まだ」
「ラングも見えてるぞ」
ミリアが。
船縁を握った。
「だから」
「今なら」
「まだ戻れます」
「記録は?」
「します!」
「帰りながら!」
ダンの息子が。
小さく笑った。
「領主さん」
「本当に」
「連れてきたんだな」
「必要だからな」
「私は」
「必要とされる場所を」
「間違えていると思います」
◇◇◇
目的は。
ヴェルナではない。
そこへ。
着くまでだ。
「出港」
「何時」
「日の出から」
「四半刻です」
「書け」
「はい」
最初の港。
到着。
荷を降ろす。
数える。
受け渡す。
次の船を待つ。
「二刻近く」
「待ってます」
「ああ」
「無駄ですね」
「まだ」
「そう決めるな」
冬の海。
次の船は。
風を見ていた。
出せない時間に。
無理に出れば。
事故になる。
必要な待ち時間まで。
削れば。
安くなる。
だが。
人も。
荷も。
失う。
削るべき費用と。
払うべき費用は。
違う。
◇◇◇
次の港。
また。
積み替える。
樽。
二十。
破損。
ゼロ。
受け渡し。
二十。
「合ってます」
ミリアが。
荷受け表へ。
書き込む。
「面倒ですね」
「面倒だから」
「残る」
「何がです?」
「責任が」
誰が。
何を。
いくつ受け取った。
どこまで。
無事に運んだ。
それが。
一つずつ。
つながる。
ノースで。
人を消さないために。
やったことと。
同じだった。
数字を。
残す。
それだけで。
仕事は。
ずっと強くなる。
◇◇◇
三日目。
ヴェルナが。
見えた。
「着いた……」
ミリアが。
その場へ。
座り込んだ。
「陸です」
「陸があります」
「陸なら」
「ラングにもあったぞ」
「今の私には」
「どんな陸地でも」
「故郷です」
◇◇◇
港は。
思っていたより。
大きかった。
冬なのに。
人がいる。
荷も動いている。
ただ。
東から来る荷は。
少ない。
俺たちの。
ニシン加工品を。
待っていた商人が。
すぐに来た。
樽を開ける。
燻製。
塩漬け。
卵。
「これなら」
「もっと欲しい」
値段も。
事前の商談通り。
払われた。
ミリアが。
俺を見る。
「売れました」
「ああ」
「本当に」
「売れました!」
「ああ」
「もう少し」
「喜んでください」
「喜んでる」
「顔に出てません」
◇◇◇
仮説は。
当たった。
ニシンは。
売れる。
ヴェルナには。
需要がある。
冬なら。
価格も高い。
だからこそ。
次を見る。
「帰りは?」
俺は。
ダンの息子へ聞いた。
「明日の朝」
「違う」
「荷だ」
「荷?」
「ああ」
「何を積む」
男が。
船を見る。
「何も」
「空?」
「ああ」
俺は。
止まった。
◇◇◇
港へ戻る。
船倉を。
覗く。
まだ。
かなり積める。
近くには。
他にも二隻。
船がいた。
どちらも。
荷は少ない。
「冬は他の小さな港町からヴェルナに荷を運んでくる」
「でも、ヴェルナからは運ぶものが多くないようだ」
ダンの息子が話す。
「行きの荷主と」
「帰りの荷主は別だ」
「荷を降ろしたあと」
「船乗りが自分で」
「帰り荷まで探すことは少ない」
なるほど。
状況がつかめてきた。
◇◇◇
「百十金貨」
ミリアが。
俺を見る。
「ああ」
「これですか?」
「たぶんな」
船は。
荷を運んで。
終わりではない。
元の港へ。
帰らなければならない。
船員の賃金。
食料。
港。
時間。
帰りにも。
同じように。
金がかかる。
だが。
帰りの船倉は。
空。
なら。
船乗りは。
往路の荷だけで。
往復分を。
稼がなければならない。
「だから」
「船賃が高い」
ミリアが。
空の船倉を見る。
「帰りにも」
「荷があれば?」
「変わる」
◇◇◇
前の世界でも。
物流の数字を。
見ていると。
同じことがあった。
トラックが。
荷を届ける。
帰る。
空で。
走る。
売上を生まないのに。
燃料も。
人件費も。
時間も。
使う。
片道だけを。
見れば。
見えない。
往復で見れば。
問題が見える。
しかし、往復で荷主が違うと。
空で走ることが多い。
「船賃を」
「値切るんじゃない」
ミリアが。
俺を見る。
「帰りにも」
「稼いでもらう?」
「ああ」
◇◇◇
「でも」
ミリアが。
船倉を見る。
「何を積むんです?」
「それを」
「探す」
「今から?」
「ああ」
「帰りたいです」
「知ってる」
◇◇◇
市場へ。
行った。
倉庫へ。
行った。
港の商人にも。
聞いた。
「東へ」
「持って行きたい物は?」
最初の商人は。
首を傾げた。
だが。
一つ。
答えた。
どうやら在庫が多いらしい。
次の商人。
二つ。
倉庫の男。
また。
別の物。
さらに。
港で。
船乗りにも聞いた。
ミリアの紙に。
候補が。
増えていく。
「こんなに」
「あるんですか」
「ああ」
「なのに」
「運んでない?」
「余っている物は」
「ある」
「でも」
「東で売れるかは」
「誰も分からない」
ニシンと。
同じだった。
◇◇◇
物が。
ないわけではない。
欲しい人が。
いないとも。
限らない。
ただ。
つながっていない。
ヴェルナには。
余っている物がある。
途中の港にも。
あるらしい。
それが。
東で売れるかは。
まだ。
分からない。
俺たちは。
ニシンを。
ヴェルナへ運ぶことしか。
考えていなかった。
だが。
航路は。
一方向ではない。
「ミリア」
「はい」
「紙」
「もう」
「いっぱいです」
「もう一枚」
「まだやるんですか?」
「ああ」
帰り荷だけではない。
港から。
港へ。
何を運べる。
どこで。
何が余る。
どこで。
何が足りない。
全部。
調べる。
「レオン様」
「これは」
「ニシンの仕事ですよね?」
「違う」
「え?」
俺は。
港を見る。
船が。
行く。
船が。
戻る。
その船倉を。
空のまま。
走らせる必要はない。
「航路の」
「仕事だ」
ニシンを売るために。
来た。
だが。
見つけたのは。
もっと大きなものだった。
商品ではない。
商品を。
何度でも。
運べる仕組み。
空だった船倉に。
載せられるものが。
次々と。
見え始めていた。
(第125話 帰り荷)
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