第123話 百十金貨の船賃
第123話 百十金貨の船賃
ダンの息子が。
ラングへ戻ったのは。
六日後だった。
「どうだった?」
俺が聞く。
「届いた」
それだけ言って。
男は。
椅子へ腰を下ろした。
「全部?」
ミリアが聞く。
「ああ」
「途中で」
「二日待った」
「でも」
「樽は全部」
「ヴェルナへ入った」
ミリアが。
拳を握った。
「やった!」
◇◇◇
結果は。
それだけではなかった。
イサクの部下が。
ヴェルナで。
注文をまとめていた。
卵の塩漬け。
ニシンの塩漬け。
燻製。
特に。
燻製の反応がいい。
「もっと欲しいと?」
「ああ」
イサクが。
紙を広げる。
「酒場」
「船宿」
「保存食を扱う商人」
「冬の間なら」
「まだ売れる」
「量は?」
「これだ」
ミリアが。
横から覗き込む。
「こんなに?」
「ああ」
「ヴェルナでは」
「冬の保存食が」
「本当に足りてない」
陸路が。
閉じた。
そこへ。
保存できる魚が。
海から届いた。
欲しい人間が。
いない方が。
おかしかった。
◇◇◇
「ダンには?」
「伝えた」
ダンの息子が答える。
「何て?」
「注文の数を」
「そのまま伝えた」
「親父は?」
「その数なら」
「獲るってさ」
俺は。
少し笑った。
最後まで。
変わらない。
獲れるだけ。
獲るのではない。
売れるだけ。
獲る。
今度は。
売れる量そのものが。
増えた。
◇◇◇
「では」
ミリアが。
帳簿を開く。
「計算します」
ヴェルナの。
注文量。
販売価格。
そこから。
魚の代金。
塩。
樽。
ラングでの加工費。
人件費。
保管費。
一つずつ。
引いていく。
「……二百」
ミリアが。
顔を上げた。
「金貨」
「二百枚?」
「ああ」
「すごい!」
八十金貨。
必要だった。
それが。
二百。
「これなら」
「返済できます!」
俺も。
一瞬。
そう思った。
「まだだ」
「え?」
「航路費が」
「入ってない」
◇◇◇
ダンの息子が。
各港で決めてきた。
運賃を出す。
ラングから。
第一の港。
次。
さらに西。
最後に。
ヴェルナ。
船賃。
積み替え。
港での保管。
風待ち。
荷役。
冬季の割増。
イサクが。
一つずつ。
読み上げる。
ミリアが。
引いていく。
二百。
百八十。
百五十。
百二十。
そして。
「……九十」
手が止まった。
「金貨」
「九十枚です」
部屋が。
少し静かになる。
「でも!」
ミリアが。
すぐに顔を上げた。
「八十金貨」
「超えてます!」
「ああ」
「十金貨も」
「余ります!」
次の返済。
五百金貨。
目処は。
立った。
ノース。
三百。
水車。
百二十。
そして。
ニシン。
九十。
合計。
五百十。
「間に合います!」
「ああ」
ようやく。
数字が。
五百を超えた。
◇◇◇
だが。
俺は。
もう一度。
帳簿を見る。
二百。
九十。
「……百十」
「はい?」
「百十金貨」
ミリアが。
俺を見る。
「何がです?」
「消えてる」
「消えてません!」
「ちゃんと」
「船賃って書いてあります!」
「だからだ」
加工まで終えれば。
二百金貨。
残るはずだった。
それが。
客のところへ。
運ぶだけで。
百十金貨。
半分以上が。
消える。
「高すぎる」
イサクが言った。
「冬だからな」
ダンの息子も。
頷く。
「何度も船を替える」
「風も待つ」
「港でも金がかかる」
「だから」
「仕方ない?」
ミリアが聞く。
「今はな」
俺は答えた。
「今は?」
「ああ」
◇◇◇
前の世界でも。
あった。
利益が出ている。
だから。
問題ない。
そう言って。
終わる事業。
だが。
数字を。
分けてみると。
一か所だけ。
異常に。
金を食っている。
そこを。
見つけた時。
見るべきなのは。
「高いから」
「値切る」
ではない。
なぜ。
高いのか。
何に。
金がかかっているのか。
構造を見る。
それが分からなければ。
値段だけ下げても。
誰かが。
無理をするだけだ。
「ロイド」
「加工は?」
「これ以上」
「削らん方がいい」
老人が。
即答した。
「塩も」
「時間も」
「今できることはやった」
「分かった」
なら。
そこではない。
◇◇◇
「航路ですね」
ミリアが言った。
「ああ」
「船賃を」
「安くするんですか?」
「違う」
「じゃあ?」
「見に行く」
「どこへ?」
「ヴェルナ」
ミリアが。
止まった。
「……誰が?」
「俺が」
「そうですか」
帳簿を閉じる。
「お気をつけて」
「お前もだ」
「嫌です」
「即答だな」
「冬ですよ!」
「海ですよ!」
「さっき」
「百十金貨もかかるくらい」
「大変だって」
「話してたじゃないですか!」
「ああ」
「じゃあ」
「なんで行くんですか!」
俺は。
百十金貨と。
書かれた行を見る。
「百十金貨が」
「どこで消えているのか」
「見るためだ」
「それ」
「領主が」
「自分で見るんですか?」
「ああ」
帳簿の数字だけでは。
分からない。
船が。
どこで待つ。
どこで積み替える。
何を積んで。
何を積まず。
帰ってくる。
現場へ行けば。
数字の理由が。
見える。
そして。
もし。
無駄があるなら。
九十金貨で。
終わる必要はない。
八十金貨は。
もう超えた。
次に見るのは。
返済ではない。
この航路が。
もっと。
金を生む方法だった。
「準備しろ」
「船酔いします」
「まだ乗ってない」
「今から」
「します」
(第124話 空の船倉)




