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第120話 売れる場所を増やす

第120話 売れる場所を増やす


 ラングへ。

 向かった。

 荷には。

 ニシン。

 大量ではない。

 ダンが。

 見本として。

 獲った分だけだ。

「本当に」

「これしか」

「獲らなかったんですね」

 ミリアが。

 荷を見る。

「ああ」

「海には」

「あんなにいたのに」

「だからだ」

 売れるか。

 分からない。

 加工できるかも。

 分からない。

 その状態で。

 獲る量だけ増やせば。

 売れ残る。

 腐る。

 損になる。

「売れると分かってから」

「増やすんですね」

「ああ」

「ダンさん」

「漁師というより」

「商売人みたいですね」

「本人に言うなよ」

「怒ります?」

「たぶんな」

 しかし。

 前世でも。

 数字を知らない営業より。

 現場を知る職人の方が。

 商売の勘が良いことがあった 。

 ◇◇◇

 ラング。

 ロイドは。

 ニシンを見るなり。

 一匹。

 手に取った。

 腹を見る。

 えらを見る。

 指で。

 身を押す。

「悪くない」

「これをラングで加工してみたい」

「わかった」

 即答だった。

「で、どうする」

「領主さん、考えがあるんだろ?」

「ああ」

「卵は?」

「塩漬け」

「身は?」

「塩漬けにも」

「燻製にもする」

 ミリアが。

 目を輝かせる。

「じゃあ」

「売れますね!」

「待て」

 ロイドが言った。

「作れることと」

「売れることは」

「別だ」

「ダンさんと」

「同じこと言った……」

◇◇◇

 そこへ。

 イサクが来た。

「ニシンですか!」

「今年は」

「随分とわいていると聞いた」

「そうなんです。バルドの海が」

「一面銀色で」

 ミリアが目を輝かせながら答える。

「ラングで加工する」

 俺は改めてイサクにも考えを説明した。

 販路。

 価値。

 それを成し遂げるための。

 保存。

 加工。

 価値の最大化。

「あんたいったい...」

 一呼吸をおいて。

「なんで、そんなことを思いつくんだ」

「それでまた、わざわざ自分でラングまで来て」

「領主にしておくのはもったいないな」

 イサクは笑みを交えて話す。

 相変わらず。

 うるさい。

 だが。

 魚を見ると。

 顔が変わった。

「量は?」

「分からない」

「価格は?」

「まだ決めていない」

「加工量は?」

「それを」

「決めに来た」

 イサクが。

 黙った。

 商人の顔になった。

「なるほど」

「獲ってから」

「売り先を探しているわけではない」

「ああ」

「こちらが」

「どこまで加工できるか」

「どこまで売れるか」

「それを見てから」

「漁獲量を決める」

「そういうことですか」

「ああ」

 イサクが。

 笑った。

「面白い」

◇◇◇

「ただし」

 ロイドが言った。

「こちらにも」

「条件がある」

「何だ」

「今回の加工」

「ラングで引き受ける」

 ミリアが。

「本当ですか!」

「ただし」

 ロイドは。

 俺を見る。

「ただし、今年だけでは困る」

「ああ」

「俺はそんなことはしない」

「言うまでもなかったか」

 ロイドはにやりと笑い。

 立ち上がった。

◇◇◇

 来年。

 鮭。

 一万九千匹。

 ロイドとの。

 五千匹の契約は。

 変わらない。

 だが。

 それだけではない。

 加工所を作る。

 新しい販路を作る。

 バルドだけでは。

 扱えなかった量を。

 商品へ変える。

「正直に言えば」

 ロイドが続けた。

「俺らは」

「来年の鮭を」

「見ている」

「私もですよ」

 イサクが言う。

「ニシンを」

「どう処理するか」

「どう運ぶか」

「どう値段を付けるか」

「それを見れば」

「来年」

「バルドが」

「本当に鮭を扱えるのか」

「少しは分かる」

「そういうことだ」

 なるほど。

 こちらは。

 八十金貨を探している。

 ラングは。

 来年の鮭を見ている。

 目的は違う。

 だが。

 やることは。

 同じだ。

「いい」

「やろう」

◇◇◇

 ミリアが。

 紙を広げる。

「まず」

「三つに分ける」

 卵。

 身。

 それ以外。

「卵は」

「塩漬け」

「身は」

「塩漬けと燻製」

「残りは?」

「試します」

 塩の量。

 漬ける日数。

 燻す時間。

 魚の大きさ。

 同じニシンでも。

 加工方法が違えば。

 値段も。

 保存できる期間も。

 変わる。

 俺は。

 紙を見た。

 魚。

 加工。

 商品。

 販売。

 昨日。

 砂浜に書いた。

 四つのうち。

 一つが。

 つながった。

◇◇◇

 前の世界なら。

 原料を運び。

 別の場所で加工し。

 付加価値を付けて。

 さらに外へ売る。

 加工貿易。

 そんな言葉で。

 整理したかもしれない。

 だが。

 名前は。

 どうでもいい。

 重要なのは。

 ニシン一匹を。

 そのまま売るより。

 卵。

 塩漬け。

 燻製。

 いくつもの商品に。

 変えられることだ。

 安い原料を。

 高く売る。

 ではない。

 買う理由を増やす。

 保存できる。

 遠くへ運べる。

 酒に合う。

 食料として備蓄できる。

 用途が増えれば。

 客も増える。

◇◇◇

「問題があるな」

 イサクが言った。

「何だ」

「ラングで」

「どれだけ売れるかだ」

 やはり。

 そこだった。

 加工できても。

 市場がなければ。

 同じだ。

「卵なら」

「ある程度は売れる」

「燻製も」

「ある程度は売れるだろう」

「でも」

 イサクが。

 ニシンの山を見る。

「今年」

「本当に海が銀色になるほど」

「いるんだろう?」

「ああ」

「なら」

「ラングだけでは」

「足りん」

 ミリアが。

 首を傾げる。

「何が?」

「客だ」

◇◇◇

「結局」

「売れる数しか」

「獲れないんですね」

 ミリアが言った。

「ああ」

「加工できても」

「同じですか」

「同じだ」

 加工能力を。

 増やしても。

 客が増えなければ。

 そこで止まる。

 生産能力だけを。

 上げても。

 売上にはならない。

 どこが。

 次の詰まりなのか。

 探して。

 一つずつ。

 外していく。

 今度は。

 市場だった。

「なら」

 声がした。

 振り向く。

 一人の男が。

 港から。

 こちらへ歩いてきた。

 日に焼けた顔。

 潮に焼けた服。

 見覚えがあった。

「お前」

 ダンの息子だった。

「何で」

「ここに?」

「船乗りが」

「港にいて」

「何がおかしい」

「いや」

「それはそうだけど……」

 ミリアが。

 小さく言った。

 男は。

 ニシンを見る。

 ロイドを見る。

 イサクを見る。

 そして。

 俺たちの話を。

 途中から。

 聞いていたらしい。

「ラングで」

「売り切れんのだろ?」

「ああ」

「なら」

「別の港へ持って行けばいい」

 イサクが。

 眉を上げた。

「満を持して登場か?」

「たく、いいとこ、持ってくなぁ」

「船乗りは情報が命」

「領主様、聞きましたよ」

「ニシンのこと」

 ダンの息子は。

 港の向こう。

 海を指した。

「西の港町では」

「冬に食う保存食が足りてねえ 」

(第121話 海の向こうの市場)




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